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 翌朝――――


 いつもの朝食の時間に大広間に集まった六人。

 中を覗くと、ここへ来た初めの頃と同じような和洋食、多種多様な朝食バイキングメニューが長テーブルいっぱいに広げられていた。


「げっ。今日は、久しぶりの“山盛りメニュー”か」

「……最近は一般的な朝ごはんを出してもらっていたので、完全に油断していました」

「アタシは好きだよー。好きなものいーっぱい食べられるもん! ねっ? りょうたくん」

「ぼ、ぼくはちょっとで、いい、かな……」

「わたしも、サラダだけにしておこうかな。藤橋先生は、コーヒーだけですか?」

「ええ……。見ているだけで、お腹いっぱい。そう言えば、片岡さんの姿が見えないようだけど?」


 確かに、大広間に入って見渡しても、毎回給仕をしてくれる片岡の姿が見えない。

 いつもだったら、「おはようございます」と朗らかな声と笑顔で出迎えてくれるのに。


 いったい、どこに行ったのだろうか。


 すると、大広間入り口近くに置いてある小さなテーブルの上に、一枚の書き置きメモが目に入った。


『昨日の件につきまして、しばらく調査を続けます。皆様をおもてなしすることが出来ず、まことに申し訳ございません。昼食もすでに準備してありますので、お好きな時間にお召し上がりください。夕方までには、戻ります。片岡より』


「え……? これって、」

「あっ! あっちのテーブルに置いてあるのがお昼ごはん用かなー? この匂いは……カレー!」

「ふふっ」

「アオバ、お前なぁ〜〜〜〜! メモの内容で食いつくのはそっちじゃねーだろっ!」


 片岡の書き置きの後半部分のみに反応するアオバの言葉に、りょうたはクスクス笑い、ユタカはガクッと肘をつく。

 確かに、朝の香りに混じって、時折スパイシーな匂いも鼻をくすぐってきた。

 近づいてフタを取ると、寸胴鍋の中にはこれまた山盛りのカレーが芳しい香りとともに準備されている。


 しかし、それよりもやはり、書き置きから片岡の不在は確定のようだった。


「そっか……。片岡さん、まだ調べていたんですね」

「そうね。この膨大な量の朝食も、しばらく給仕ができないから作り溜めたってことかしら」

「そこまで気を使わなくてもいいんですけど……。ある程度のことは、自分たちでもできますし」


 そう言いながら、タカラとあさひはバイキング用の皿を取り出し、さくらはステンレス製のポットからまだ温かいコーヒーをカップへ注いでいく。

 各自席に着きながら、昨日の片岡の困惑した表情を思い出す。

 あんなに狼狽えた様子は見たことがない。

 もしかしたら、昨日からずっと寝ずに調査を続けているのかも――――


「オレたちも、何か手伝えることがあるか聞いときゃ良かったな」

 取り皿に山盛りのスクランブルエッグと唐揚げをのせながら、ユタカはふと思いついたように呟く。

「確かに……って、それはさすがに盛り過ぎですよ」

「野菜も一緒に取った方がいいわね。はい、どうぞ」


 呆れ顔のタカラの隣で、あさひがサラダバーからトングを使って、ひょいとユタカの皿にこれまた大量の野菜をのせていく。


「げっ。さすがにこんなに食えねえって」

「中学生なんだから、これくらい栄養を取った方がいいわよ。それにしても、さっきの話の手伝えることって、何か思いついたの?」

「あー、別に深い意味はねーんだけど、ただ、片岡さんに食事の準備までさせておいて、それで調査も一人でやってるわけだろ? それじゃあ何か、申し訳ないっつーか。あのしおりを見つけたのはオレたちだから、もっとあの『タカラの学校』で何か見つけられると良かったのかなーって」

「なるほど…………」


 ユタカはほんの軽い提案のように話を出したのだが、あさひは何やら真剣に考え始める。

 それに同調するかのように、さくらも持ってきたホットコーヒーを長テーブルに置いてあさひとその話題について話し始めた。


「そうね。確かに、もう一度あの学校を調べてみるのは良い案かもしれないわね」

「ええ。何か見落としているものがあるかもしれませんし」

「お、おいおい。マジかよ。別に何か確信があって言ったわけじゃないぜ? ってか、それよりも先にノートを完成させておく方がいいんじゃないのか?」


 朝食後は、てっきりいつものように書斎へ行って普段のルーティンを行うと思っていたのに、何だか話が思っていた方向とは別の方へ動いている気がする。

 それを察したのか、タカラとアオバもその議論へ入ってきた。


「僕もそう思います。まだ片岡さんから調査結果も何も聞けていませんし、情報が少な過ぎですよ。やみくもにあの学校を見たところで、仕方ない気もしますし。あのしおりをポケットに入れてきたアオバさんは、どう思いますか?」

「うん。アタシも、そー思う。ここの主さんのことはよく知らないし、先に次の新しい学校を作りたいなーって思うよ」

「そうかしら? あの学校に入った時は体験がメインだったから、探索するという視点で見ていないでしょ? “探す”という見方で入ったら、もしかすると別の手がかりを見つけられるかもしれないわよ」

「そうよ。片岡さんだって、『他にも所有している道具が紛失していないかどうか調べる』って言っていたし、もしかしたら、あのしおりのように別の道具だって見つかるかもしれないものね」

「え、ええ〜? 何か、それだと時間がもったいなくないかなぁ……。 ねえ、りょうたくん?」


 あさひとさくらの、やや圧のある意見に狼狽えたアオバは、まだ議論に参加していないりょうたへパスを出す。

 すると―――――


「ぼ、ぼくも…………探したい、って思う」

「えっ!? そ、そうなのっ!?」


 てっきり、こちら側の意見に賛成してくれると思っていたが、りょうたから真逆の回答を聞き、驚きの声を上げるアオバ。

 タカラとユタカも、同じように目を丸くしている。


「な、何で?」

「ぼ、ぼく、あのオレンジの温ったかい雲の中身の続きが見てみたくて……だから、あ、あのしおりの人を、探してみたい」

「私もよ。あの、見ているだけで気持ちが温かくなるものをどうやって想像したのか聞いてみたいわ」

「まったくの同感ね」


 昨日の夜のあの光景が、かなりのインパクトになったのだろう。

 さくらたち三人は、新しい学校を生み出すよりも、あの『陸奥木戸』が思い描いていた続きをより見てみたい気持ちへ駆り立てられているようだった。



「ま、まあ、とりあえずご飯にしませんか? せっかく片岡さんが作ってくださった料理を食べずに冷ましてしまうのは、申し訳ありませんからね……」


 三対三に別れてしまった、気まずい雰囲気。

 それをどうにか打ち消そうと、タカラは持ってきた炊きたてのご飯を思いっきり口の中へかきこんだのだった。

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