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再び戻ってきた、夜の書斎。
いつもならこの時間帯は、各自寝室として使わせてもらっている部屋で過ごしているため、こんな真っ暗になってから訪れることはない。
昼間の明るい時間と比べて暗闇が広がるその場所は、普段より一層の静けさを描き出していた。
灯りをともし、いつものブックスタンドの前へゆっくりと歩みを進める六人。
目の間には、あの『希求筆記帳』が閉じた状態で置かれている。
一見するとただのA4サイズのノートだが、この中にはこれまで思い描いてきた情景がページいっぱいに広がっており、六人にとっては見た目ではわからない重みを感じられるものになっていた。
「……改めて見てみると、これまで本当に多くの“学校”を作ってきましたよね」
そうポツリと呟くタカラ。
表紙から『希求筆記帳』を一枚一枚めくっていくと、改めて多くのページが色濃く埋められていることに気がついた。
「あと二ページで完成、ですね。本当にたくさん想像しましたね。これで、この国の人たちの記憶が戻るといいんですけど」
「だなっ! きっと片岡さんも喜んでくれると思うぜ。どうせだったら、この国の人たちにオレが考えた『ゲームの世界から知識を学ぶ学校』を気に入ってもらえるいいんだけどなー」
「え〜? だったら、アタシが作った『給食食べ放題の学校』の方がいいと思うんだけどぉ〜」
タカラとユタカ、そしてアオバの三人は、お互いくすくす笑いながら、それぞれが思い描いた学校のページを振り返る。
これだけ多くのものを描き出せば、この国の人たちが“学校”への記憶を蘇らせるきっかけになるかもしれない。
いや、もし思い出せなくても、何か一つでも気に入ってもらえるものがあれば、それを“答え”としてもいい。
あと、もう少し。
みんなで一緒に、ノートを完成させるんだ。
「ねえ、りょうたくんもそう思うでしょ? りょうたくん? ――――りょうた、くん?」
アオバは自分の思い描いたページをめくりながらりょうたに問いかける。
しかし、いつもならすぐに反応するりょうたは今回は何も反応せず、どこか虚ろな表情を浮かべていた。
夜の暗さが影響しているのだろうか。
さらに、りょうただけではなく、あさひやさくらでさえも、三人の盛り上がった話題には入らず、どこかぼんやりと、うわの空になっているように見える。
「…………」
「そ、そっか。あと、二ページ……。二ページなの、ね」
「終わ、り? そんなの…………」
「おいおい? どうしたんだよ。大丈夫か?」
ユタカも普段の様子とは違う三人に気づき声をかけるが、やはり反応はない。
いったい、どうしたっていうんだ……?
困惑しながらも、ユタカは例のしおりの効果を確かめるため、アオバがめくったページの間に挟んで見た。
しかし、特に何も起こらず。
しおりは静かに置かれたままの状態になっていた。
「何だよ。別に、何も起こらねーじゃん」
「ホントだー」
「ここのページは、もう既に書き込まれているから反応しないのかもしれませんね。後ろのまだ白紙のページでやってみませんか?」
タカラの言葉に、なるほど、とうなづくユタカとアオバ。
しかし、その他の三人はまだ落ち着かないように、戸惑いの表情を浮かべたままになっていた。
そんな様子を気にしながらも、白紙のページを開いてしおりを真ん中に置く。
すると――――――――
フッ
「うわっ!? な、何だぁ!?」
「うぇぇーー! 真っ暗ぁーー!」
「ちょ、ちょっと、これはどうなってるの!?」
「ふっ、ふぇぇ…………」
「お、落ち着いてくださいっ! 電気が急に――」
「えっ!? あれ! 見てっ!」
ポ、ポァ ポポァ
急に書斎の灯りが消え、真っ暗な光景が広がる中に、あの白紙のページに挟んだしおりから灯籠のようなオレンジの、温かみのある色をした雲の形をしたものが浮き出てくる。
その中をよく見ると、古い時代の、木造校舎のような建物が映し出され、中にいる子どもたちや先生は洋服ではなく着物を着ているように見えた。
昔の学校、なのだろうか。
完成版ではないため、一瞬映し出されたかと思うと、すぐにモヤの中に消えてしまい、また別のシーンが浮かび上がってくる。
しかし、その中にいる子どもたちは、生き生きと、伸び伸びと授業を受けているように見え、キラキラと輝くような学校生活の断片がところどころに映し出されていた。
「これは…………」
「学、校?」
「もしかして、これが『陸奥木戸』さんが思い描いていたものなのでは」
見ているだけでも温かく、灯りがなくても自分を照らしてくれているかのように浮かび上がるその想い。
まだ途中のもののようだか、それは、うちに秘める想いをこれから作り上げようとする、強い決意のようにも感じられた。
「きれ、い。ずっと、見たい」
「本当に、美しいわ。もっと、もっと感じていたい……」
「見ているだけで、気持ちが温かくなっていくわね。想像の凄さを、感じるわ」
先ほどまで表情が冴えなかった三人も、真っ暗な空間に浮かび上がる温かい想いに心躍らせ、そして、強く願うのだった。
「やっぱりまだ、終わらせたくない」
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