11ページ目

「それにしても、本めちゃくちゃあるね〜。このお屋敷の主さんが学校の図書館から持って来たんでしょ? こんなにいろんな種類の本があるなんて、知らなかったなぁ」

「ぼ、ぼくも……」

「そうねぇ。絵本や児童書だけではなくて、専門書のような高度な本まであるから、高校、いえ、もしかしたら大学からも持ってきた可能性があるわね」



 昼時に差し掛かろうとしている、午前中の時間帯。

 六人は、午後に行う体験に向けて、各々が調べ学習を行っていた。


 書斎の壁中にぎっしり敷き詰められた本や図鑑の種類は、文学系のものや歴史書、自然科学や芸術関連のものもあれば、漫画や雑誌まで。

 数え切れないくらい、多種多様なものが揃っている。

 書斎と呼ばれているその部屋は、図書館と言っても過言ではない広さだ。


 アオバは今、ファンタジーの物語が揃ってある棚から、魔法に関連する絵本や児童書を探している途中だ。りょうたも、アオバの本探しを手伝っており、数冊を両手で抱えている。

 その中でいくつかのものは本棚のかなり上の方に収められていたので取ることに苦戦していたが、さくらがそれに気づいて折りたたみ式の脚立を持ってきてくれた。

 タカラとユタカ、それにあさひは自然科学に関する本が揃っている棚の近くで、各々調べたいことが書かれている本を探している最中だ。

 

「あー、腹減った。そろそろ昼飯か? しっかし、毎回凄え料理が出てくるよな。片岡さんの料理めっちゃ美味いんだけど、さすがに毎回あのフルコースが出てくるのは胃が重いんだよなぁ」

「僕もですよ。特に、朝からビュッフェ形式で出てくるのは驚きました」

「私も。豪華で素敵なお料理ばかりなんだけど、普段は朝はそんなに食べないから……。毎回残してしまうのは申し訳ないわ」


 そうなのだ。

 片岡は初日から六人のために、凝りに凝ったフルコースなどたいそう豪華な料理を振る舞ってくれたが、流石に毎日続くと重たさを感じてしまう。

 そのため、普通の食事でいいとお願いしたのだが、片岡にはその“普通の食事”がわからない様子で、首を傾げながら、また今日の朝も小鉢が七品も出てくる和食膳が用意されていたのだった。


「やっぱさ、片岡さんにもオレたちが作った“学校”を体験してもらおーぜ。特に、給食の時間! 普通の食事ってのがわからないみたいだから、給食の時間を体験してもらえればわかってもらえると思うんだけどなー」

「そうよねぇ。私も最近は胃もたれが増えてきて、正直ちょっと困っているのよ……。朝はコーヒーとヨーグルトぐらいでいいんだけれど。鷺巣くんのアイディアもいいけれど、この間作った“職業の学校”の喫茶店体験をやってもらうのもわかりやすいんじゃないかしら」


 ユタカとさくらの言葉に、他の四人も同様にうなづく。

 懐石料理にフレンチフルコース、豪華な中華料理や多種多様の料理が並ぶバイキングまで。

 朝食、昼食、夕食、おやつの時間にまで豪華な料理や色とりどりのデザートの数々が並べられる毎日に、全員の胃腸はかなりの疲労モードになっていた。

「ふふっ。これじゃあ、どこかのおとぎ話のように、私たちまるまる肥えさせられちゃうのかしら?」

「で、パクリと飲み込まれると。確かに、昨日は“お菓子の家”のスイーツがありましたからね」

「えぇ〜〜っ!? アタシ、ぜーんぶ食べちゃったよ!? 屋根のクッキーとか壁のチョコとか、マシュマロとかも飾ってあって、すご~く美味しかったんだもん」

「ぼ、ぼく、た、食べられちゃうの……?」





 昼食休憩を挟んで、午後の時間。

 明るい色の木製の長机や丸机、キャレルデスクまで備え付けられている書斎の一画には、六人が本棚から運んできた様々な本や図鑑を広げられていた。


「ところで、アオバさん。その本、というか図鑑でしょうか。かなり装飾が凝った表紙ですね」

「あっ、これ〜? 凄いでしょっ! 『魔法の本』だよ。魔法の道具とかも詳しく載ってるんだよー」

「何だお前、まだ諦めてないのか」

「ぶぅーー。いいじゃん、別にっ! 想像力を高めたら何とかなるかもしれないじゃん! ねっ、りょうたくん」

「う、うん……」

「ふふっ。確かに、『魔法を使う』というのは一度は憧れますもんね」

「私も小さい頃は、木の枝を魔法のステッキに見立てて遊んでいたわね。でもまあ、さすがにこのノートで表すのは難しいとは思うけれど」


 これまでいろいろな学校を“再現”してきた六人だったが、やればやるほど想像意欲が高まり、特にアオバはより幻想的、空想的な、いわゆるファンタジー要素が強い学校も思い描きたくなってきたため、いろいろチャレンジしている最中だった。

 しかし、『魔法を使う学校』といったより空想の世界に近いものはかなり漠然とし過ぎているようで、いくら参考となる本や図鑑を読み込んでイメージしてもぼやけた空間だけが広がり、『希求筆記帳』のページは白紙のままだった。


「うーん、やっぱりダメかぁ……。『すごい魔法を使ってすごいモンスターをやっつける!』みたいなこともやって見たかったんだけどなー。ねえ、りょうたくん」

「う、うん。やって、みたい」

「でもねぇ……。そもそも、“魔法とは何か”を詳しく学べる本があるわけじゃないし、泉さんが持ってきた本も結局は創作物でしょ? 創作物は現実のものではないから、やっぱり難しいんじゃないかしら」

「宇宙や深海は現実にあるから反映できるけど、オレたちが知っている“魔法”は作り物だから、それは『今までまったく見たことのないものや知識として知らないものは投影できない』ルールに当てはまるってことか」

 小学生コンビは魔法というものにまだ強い憧れを抱いているようだったが、中学生以上のメンバーは『創作ではない魔法やモンスター』を現実に知り得ることはできないとわかっているため、やはり無理がある感じていた。


「そうですね。魔法というのが人間ではできないことなのであれば、この『希求筆記帳』を使っても再現はできないということなのかもしれませんね。でも、そもそもこのノートは“魔法のような道具”なのに、その中の世界で魔法は再現できないなんて、それはそれで何だか変な感じですね」


 そうポツリと呟き、あさひは開いていた『希求筆記帳』の白紙のページを閉じようとした。

 が、急にその閉じかけのページを手で遮られる。

 パッと振り向くと、いつもより緊張気味の表情で、眼鏡のレンズとレンズをつなぐ部分をクイッと上げる人物がいた。

 タカラだ。



「あの……すいません。僕、実は試してみたい“学校”があるんですが、やってみてもいいですか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る