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消え入るように呟き、表情を硬くするアオバ。
しかし、そんなアオバの顔を真っ直ぐに見据え、ハッキリと、心の奥まで届くような声が響き渡った。
ユタカだった。
「そんなことねえ」
「えっ……?」
「そんなことねえよ。凄えじゃん、アオバ。妄想でも何でも、こんなにハッキリと自分が思う『楽しい学校』を描き出せるなんてよ」
「えっ、そ、そうかな」
「オレなんかさ、さっきは結構偉そうに『学校を壊そう!』なんて言ったけど、まだこんなに頭の中でハッキリ描き出してたわけじゃねーもん。それを、初っ端からこんな楽しい学校を作れるんだからさ、凄えって!」
「そうですよ、アオバさん。この世界の“普通”は、僕たちの世界の“普通”とは違うはずですから。片岡さんの話しが本当であれば、僕たちが“普通”の基準を作っていいんですよ」
「そ、そっかぁ……。えへへっ。何か、こんなに褒められたの初めてかも」
ユタカだけではなく、タカラからも称賛の言葉を貰い、他の三人も同様に頷きを入れる。
その様子を見て、アオバはようやく嬉しそうに頬を緩めた。
白紙のページは、まだまだある。
もっと、もっと、思い浮かべたい。
アオバは、自分の描いたページを眺めながらさらに想いを強くしたのだった。
「さてっ……と。五時間目まで学校で過ごしたのは久しぶりだから、かなり疲れちゃったわね。そういえば、今は何時なのかしら?」
そう言ってさくらは書斎を見渡したが、どこを見ても時計らしきものはない。
書斎の窓から見える外の景色は灯りもなく、一色の青黒い夜が広く、深く塗られているだけだった。
確か、片岡からアフタヌーンティーを出してもらった時に、大広間に置いてあるボールクロックの鐘の音が三回大きく鳴り響いていたはず。
しかし、あのノートの中に吸い込まれた時は一時間目の時間から体験できたわけだから、こちらの世界とノートの世界とでは、時間の流れが大きく違うことが予想された。
「もう夜かぁ。何だか、あっという間だな。オレは全然まだまだ体力あり余ってるけどな!」
体全体を使ってまだまだ動けるアピールをしているユタカに対し、タカラはやれやれと呆れたように両手を上げる。
「貴方のおばけ体力には、ついていけませんよ……。でも、確かに楽しい時間はあっという間に過ぎる感じですよね」
「ホント、ホントっ! もっと、いーーっぱいやってみたいよね!」
アオバがはしゃぐように言うと、あさひもクスッと微笑みながらも、力強くうなづいた。
「時計を気にしなくていいのは、ありがたいわ」
トントントン。
書斎の扉の向こうから、軽く乾いた音が三回響き渡る。
「皆様。そろそろ夜も深くなってまいりました。本日の作業はここまでにして、ご就寝されてはいかがでしょうか。よろしければ、ベッドルームまでご案内させていただきます。」
片岡の声だ。
この書斎には時計はないが、片岡が言うからにはもう寝てもおかしくはない時間なのだろう。
現に、りょうたは重たそうな目をこすり、ウトウトと頭を揺らしていた。
「今日はここまでにしましょう」
さくらの号令のような言葉を聞き、全員が一同にうなづく。
興奮状態の脳内が少し落ち着くと、体全体に疲れがが増してくるのを感じていた。
それでも、心地よい疲労感。
夢中になってやりきれた、達成感。
明日は、何を思い浮かべようか。
眠りから覚めても、暗く、重い現実は出てこない。
わくわくした高揚感と、溢れるばかりの希望感に包まれながら、ベッドルームに案内された六人はあっという間に深い眠りの世界へと誘われたのだった。
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