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 アオバが描き出した、『すべての時間が休み時間の学校』。

 校舎図を見ると、三階建ての作りとなっているようだ。

 さっそく一階にある教室を覗こうとすると、ケケケッというやや高い音とともに後ろから声をかけられた。


「ヨウコソ、ミナサマ。ワガ『ガッコウ』ヘ。ヨロシケレバ、ワレガココヲ、アンナイシマスヨ」

 声のする方へと振り返ると、そこには一匹の緑色のカエルが、両手を前に出しながらちょこんとポーズを取っていた。


「うわっ! えっ、カエル!? しゃ、喋ってる!?」

 いつも大人びた口調で話すタカラが、聞いたこともないような素っ頓狂な声を上げると、他の四人のメンバーも一様に同じ反応を繰り返す。


「はっ!? 服着てるんだけど!? しかも、片岡さんと同じような服じゃねーか!?」

「――! す、凄い! お話の世界みたい、だぁ」

「か、カエルはちょっと……」

「これを見ると、本当にここはファンタジーの世界なのね。はぁ……、脳がついていけないわ」


 ユタカとりょうたは興奮状態だったが、さくらはさらに眉間にしわを寄せて頭を抱えている。

 そんなさくらの背中の後ろには、タカラとあさひが顔を真っ青にしながら顔を隠していた。


「……ミナサマハ、カタオカサマカラ、キキュウヒッキチョウノ、ナカミノコトハ、キイテイナイノデスカ?」

 案内役としてかって出た緑色のカエルが、訝しげに五人の様子を見つめてくる。


「え、ええ……。使い方については一通り説明を受けたけれど、そういえば中身のことについては何も聞かされていないわね。というか、まさか私たちがこのノートの中に“入る”なんて、思ってもみなかったもの」

 さくらがそう言うと、緑色のカエルは頷き、希求筆記帳の中身の説明をしてくれた。


「ソウデスカ。デハ、ワレガセツメイシマス。コノセカイニハ、カナラズ、アンナイヤクガソンザイシマス。コノセカイヲツクッタモノノ、キオクノダンペンニ、ソンザイスル、イキモノガ、アンナイヤクトシテ、ショウカンサレルコトガ、オオイデス」


 ゲコゲコとした口調で聞き取りづらい音もあったが、要は、この世界を描き出した者の記憶の片隅に色濃く残っている生き物が、案内役として現れるとのこと。

 そして、案内役の他、その生き物は『先生役』や『児童・生徒役』となり、作成された時間割表に沿って一緒に体験してくれるとのことだった。


「はぁぁーー? カエルが先生? そんなの無理だろ」

 説明を聞いたユタカは馬鹿にしたように言い返したが、案内役、もとい、先生役のカエルはケロケロッと声高らかに鳴き声を上げる。

「ソレデモ、タイケンガ、スベテオワラナケレバ、カエレマセン。マズハ、ヤッテミマショウ」

 そう言うと、そのカエル先生は生き生きと号令をかけた。


 キーンコーンカーンコーン


「ソレデハ、ミナサマ。コレヨリ、『ガッコウ』ヲカイシシマス」


 そう言うと、カエル先生はボワッと白い紙を五枚手元に出し、五人へ配布した。

「コノカミニハ、キョウノヨテイガカイテアリマス。スキナジカン、スキナトコロヘイドウシテクダサイ」


 配られた予定表には校舎図が書かれ、そこには各教室ごとに実施される内容が割り振られていた。


【校庭・体育館】→鬼ごっこなど体を使った遊び(植物や生物の探索活動も可)

【一階教室】→教科書の学習(自分でやりたい教科を選択可)

【二階教室】→ものづくり(絵を描くのも可)

【三階教室】→楽器演奏(好きな音楽を聞くのも可)

【図書室】→読書(その他、静かに遊べるものであれば何でも可)

 *一限〜五限まで自分で自由に選択し、開始時間までにその教室(校庭・体育館)へ移動すること。



「……えっ? 何これ?」

 配られた予定表を見て、全員が戸惑いの表情を浮かべていた。

「ナニ、トハ? コレハ、アオバサマガ、オーダーシタモノデス。コレガ、ココデノ“ガッコウ”デス」


 アオバが描き出した『すべての時間が休み時間の学校』は、てっきりずっと遊んでいるだけかと思いきや、どうやらそうでもないらしい。

『休み時間』なのだから、子どもたちがやりたいことを自由に選択できるよう、学校全体に選択肢を配置したのだった。


「……凄いですね。アオバちゃん。あの短時間に、こんなに具体的に思い浮かべることができるなんて」

「確かに。これは理想の一つですよね。僕も、自由にやりたいことを選択したいですから」

「うん……。ぼく、これ、やってみたい」

「オレも、これはアリだな。よっしゃ! いっちょ、やってみるか!」

「えっ? わ、私も生徒役? 私は先生役でいいんだけど……」



 その後、先生役のカエルと生徒役のカエルに混じりながら、全員がアオバの思い描いた学校の中で、すべての時間を思う存分体験したのだった。

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