第二章:学校を壊そう
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「何で話せるのに、書けないの?」
「この字じゃ、読めないよ。もっと、丁寧に書いて。やり直し」
「いくら答えが合っていても、ひらがなじゃ点数はあげられないわ。漢字で書いて」
もう、何回言われたセリフだろうか。
わかってる。自分だって、きれいに書きたい。漢字で書きたい。
でも、でも、どうしても、頭の中ではわかっているのに、書くことができないの――
「じゃあ、まずは片岡さんから教えてもらった手順通りにやってみましょうか」
ユタカの提案により、学校を“壊す”と決めた六人。
とは言っても、この『希求筆記帳』を使いこなせないと何も始まらないため、まずは片岡に教えてもらった手順で学校を思い浮かべることにした。
さくらが仕切り役となり、片岡から言われた説明をそのまま暗唱する。
「まずは、このページを広げて、そして次は……」
「ちょ、ちょっと待てって! 一度に言われてもわかんねーよ」
「そうだよー。もうちょっと、ゆっくりがいいなぁ。ね? りょうたくんも、そう思うでしょ?」
「ぼ、ぼく……」
いきなり一人で始めようとしたさくらに対し、ユタカとアオバが抗議の声を上げる。
その言葉を聞き、さくらの表情が少しくもったように見えたが、すぐにうなづき、作業部屋になっている書斎をくるりと見渡した。
「そうね。じゃあ、一つずつ言われたことを書き出してみましょうか。何か書くものがあるといいんだけど」
「そうですね……。あっ! このエリアにいろいろありそうですよ」
一緒に書斎を見渡していたあさひが、文房具類が置いてある一画を発見する。
「本だけじゃなくて、ここの主さんは学校用品も一緒に持ってきたみたいですね」
「こっちにホワイトボードがありますよ。これでいいんじゃないでしょうか」
タカラはそう言うと、別の区画に置いてあったキャスター付きのホワイトボードをカラカラと押してきた。
「おー、これに書いてもらったら見やすいし、忘れなくていいな。アオバ、お前、藤橋センセーが言ったの書けよ」
ユタカは側にいたアオバにそう言うと、タカラが運んできたホワイトボード用の黒いマーカーを差し出した。
しかし、その言葉にアオバはビクッと肩を揺らし、それまで満点の笑顔だった表情を硬くする。
「……ヤダ」
「はっ?」
「………書きたくない。ユタカくんが書けばいいでしょ。“先輩”だからって、エラソーに言わないでよ」
「はぁっ!? べ、別にオレはそんなつもりで言ったんじゃねーよ! な、何だよ。急に不機嫌になって……」
「ちょ、ちょっと、二人ともどうしたんですか? 落ち着いてください」
急に険悪モードになった二人の雰囲気を察し、タカラが慌てて仲裁に入る。
「別に、誰が書いてもいいんですから、そんなことで言い争わなくても……」
「“そんなこと”じゃないっ! そんな、そんなこと、じゃ……」
悲痛な叫びにも聞こえるアオバの発言に、他のメンバーは戸惑いを隠しきれなかった。
そんな中、どよんと重い空気を振り払うように、小さな右手がゆっくりと掲げられ、小さな呟く声が聞こえてきた。
「……、あの……、ぼく、書いてもいい、です……か?」
思ってもみなかった発言に、一斉に五人の視線がりょうたへ注目する。
じっと見られるその視線に、緊張度が跳ね上がりそうなりょうただったが、ゆっくりと、ゆっくりと言葉を繋げていった。
「……ぼ、ぼく、話すのはうまく、できないけど、書くのはできる、から。書くのは、好きだから……」
そう言うと、りょうたは真っ直ぐに前を見つめて、ホワイトボードへと向かっていく。
黒いペンのキャップを外し、さくらの説明を聞きながら、ホワイトボードの左側のスペースに一文字ずつ、くっきりとした形を白い画面へ浮かび上がらせていった。
〈ききゅうひっきちょうのつかいかた〉
①大きなブックスタンドにおく。
②なにもかいてない、白いページをひらく。
③白いページに、右手をおく。
④やりたいことを、あたまの中でつよくおもう。
〈ちゅういすること〉
・しょさいでつかう。
・そとへもっていかない。
ひらがなが多用されているが、番号ごとに手順が短く書かれ、大事なポイントは赤いペンで囲いをつけている。
見やすく、わかりやすい。これがあれば、忘れにくく、かつ、振り返ることができる。
そして、ホワイトボードの右側スペースには、さくらが補足説明をふりがな付きで書き加えた。
〈
・ノートの
・
「……りょうたくん、すごい。アタシなんかより、ずっと、すごいよ」
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