第10話 警備ロボット

 こうしてカナクの電気師達は一年間の期限付きでノードの地に滞在し、警備ロボットの修理復旧を試みる事になった。警備ロボットは、水力発電所の倉庫に14台が並べられていた。いずれの警備ロボットも、6台のキャタピラーの上に3メートルを超す人型ロボットが乗り、頭部に赤い目が二つ、両腕の先に麻酔銃の発射装置が見え、胴体の前と後ろ部分にそれぞれ番号が描かれている。12,18,19,20,23,24,25,58,59,60,61,62,63,64,の14台の警備ロボットは復活を待つかの様に、静寂の中に待機していた。

 調べてみるとそのうち6台のコントロールボックスが壊れており使い物にならない。残り8台は作動可能なようだが、話によると、オルゴ族の作業員が警備ロボットに充電し、試しにスイッチを入れたところ、警備ロボットはいきなり赤い目を光らせ、スピーカーから

「抵抗を止めて、手を上げて降参しなさい!そうすれば危害を与えない!」

と大音量で警告を発し、作業員たちに向けて麻酔銃を発射してきた。数人が倒されたため、緊急にスイッチを切って止めたという。敵味方の区別がつかないという大変な代物だったらしい。それで、この警備ロボットを作ったサイバー人の末裔であるカナクの電気技師を呼ぼうという事になったらしい。


 サム達電気技師は、無線でカナクの専門家に連絡を取り、この警備ロボットに関する昔の資料を手に入れる事にした。警備ロボットは、赤い目の部分に赤外線センサーが付いており、一定の大きさ、熱、動きを持つ物体に対して反応・追尾し警告を発し、停止しない者には麻酔銃を発射するという機能を持っているらしい。警備ロボットの攻撃を回避するには、味方の手の甲に一定の微弱電波を発するカプセルを埋め込み、その微弱電波に警備ロボットのセンサーが反応し、攻撃しないという判断をしていたらしい。

 サム達電気技師は、この手の甲に埋め込まれたカプセルと同様の電波発生装置を作り、大量生産してオルゴ族2千人に配布するという作業に着手する事になった。その為、まず1台の警備ロボットの両腕から麻酔銃の針を取り外し、危険のない状態にして作動させ、様々な種類の電波を発生させ、ロボットが反応しない電波を特定する作業から取り掛かる事にした。そのためサム達を乗せてきた船を、カナクに帰還させ、警備ロボットや電波発生装置の資料・部品を取り寄せる事になった。この船の往復は悪天候に阻まれ難航し、数か月の期間を要する事になった。


 その間、ノード政府のオルゴ族指導者達が危惧していたノスロ族の攻撃が始まった。五月のある日の早朝ドラ山の滝付近に、ノスロ族数百人が押し寄せ、犬数十匹をオルゴ族の見張り兵に放った。不意を突かれた見張り兵達は犬にかみつかれ、銃を撃った。その銃声を合図にノスロ族の先鋒数十人が滝付近の広場に乗り込み、オルゴ族の見張り兵数人を矢で射抜いて倒した。銃声を聞いたオルゴ族は待機していた男達が出動し、物陰から緊急用の銃で応戦し、侵入したノスロ族と犬に向けて発砲した。十数人が倒され、ノスロ族は滝付近の岩場に撤退し、そこから矢を放ってくる。オルゴ族も弾薬を節約するため矢と銃での応戦となり、数時間の戦闘状態と対峙が続いた後、ノスロ族は撤退した。この戦闘でノスロ族十数人を倒したが、オルゴ族も二十人ほどが犠牲になり大きな痛手を被った。

この戦闘もあり、警備ロボット復活のための電波発生装置の開発が急がれた。


 数か月後、ようやく警備ロボットの攻撃を回避する電波発生装置の試作が成功し、首に下げる小さな箱型にして実用実験をした後、オルゴ族全員に配布するための量産が始まった。その間もノスロ族との小競り合いは頻繁に続き、オルゴ族の若者の犠牲も増加していた。サム達電気技師はオルゴ族の女性たちに電波発生装置の作り方を指導し、流れ作業でやっとオルゴ族全員に配布する2千の箱型電波発生装置が完成したのは八月の末だった。


 十月のある日の深夜、槍や矢で武装したノスロ族数百人が犬数十匹とドラ山の滝付近に現れた。そこには警備ロボット4台が投入されていた。ノスロ族はドラ山の滝を目指して近づいてきた。すると待ち構えていた警備ロボットが起動し、赤い目を光らせ、忍び寄るノスロ族に、大音量で「抵抗はやめて手を上げて降参しなさい。そうすれば危害は与えない」と警告を発し始めた。巨大な警備ロボットに動揺するノスロ族に、警備ロボットは両腕を上げ、そこから麻酔銃の針を発射し始めた。

 この警備ロボットの登場に、ノスロ族は混乱した。麻酔銃の針により次々とノスロ族の若者が倒れ、仲間を助けようとした者も折り重なるように倒れていく。さらに警備ロボットは岩場を乗り越え進んでいく。ノスロ族は倒れた仲間を助ける事も出来ず、逃げ出して行く。


 戦いの後、滝付近の岩場には百を超えるノスロ族と犬が倒れていた。警備ロボット4台は無事悠々と戻って来た。戦勝に沸いたオルゴ族は警備ロボットを英雄のように迎えた。倒れた百を超えるノスロ族の若者は放置され、中には谷に落ちて亡くなった者もいたが、大半は翌朝までには回復し、ノスロ族の元へ帰って行った。

 これ以降ノスロ族は姿をみせなくなり、ノードのオルゴ族は平穏な生活を送る事が出来ようになった。その後、サム達電気技師はオルゴ族に警備ロボットの整備補修の方法を教え、さらに小型の風力発電機、水力発電機の制作方法を教え、オルゴ族がノスロ族にも電力を提供する事で平和に共存する事が出来ないかと提案した。しかし、オルゴ族はノスロ族との戦いで大きな被害を受けており、その提案にはかなり消極的だった。


 ノードでの役割を終えたサム達電気技師は、西のドーム都市カナクに帰還する事になった。オルゴ族の指導者達は、カナクから来た電気技師たちの功績に感謝し、ノード名誉市民の称号を贈った。12月になってカナクからの船が到着し、サム達電気技師はようやく帰還の途に就く事になった。

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