第7話 自由民政府

 ウィーとサムはドローンに従って、ドラ山の麓に到着した。そこには中腹の洞窟に向かう見上げるような長大な階段が見られた。この数百段はある長い階段を自転車を抱えて登るのは無理で、ウィーとサムは自転車から荷物の入ったリュックを下ろし背中に背負い、空調スーツの酸素濃度を上げて登っていくことにした。武器は船を降りた時から携帯していない。

 ドローンに監視されつつ数百段の階段を二十分かけて登りきると、幅五十メートル以上はある巨大洞窟の前に到着した。そこには百メートル四方の大きな広場があり、そこに上半身裸の数百人の男たちが、銃や刀や弓矢の雑多な武器を構えて威圧するように待ち構えていた。

 ウィーとサムは戦う意思はない事を示すために、ヘルメットを取り跪く事にした。

すると、男たちの中から白装束の三人の老人が出てきて、話をはじめた。

「我々が、自由民政府の相談役だ。あなた達は西のドーム都市から来たと言うが本当か?」

ウィーが答える。

「私達は西のドーム都市カナクの評議会の命で、二艘の船に乗り二百キロの海を渡りこの地に来ました。目的は、不足している電気機器の資材提供を依頼する為です。これは皆様へのご挨拶の品です」と、背負った荷物から折り畳みのテーブルを出し、その上に紫色の布をひき、ヤシの実、パイナップル、バナナ等を並べた。それを見た男たちは明らかに喜色を浮かべどよめいた。

「このような果物を二艘の船いっぱいに運んできました。どうか、それに免じて電気機器の資材の提供をお願いしたい」

三人の老人は、男たちと相談した後「それでは中に案内しよう。話はそこで聞こう」

と答えた。


 広場にいた男たちは道を開け、ウィーとサムは洞窟の中ではなく左手の滝の方向に案内された。滝はキラキラと輝きながら左手の谷に落下してゆく。谷の下からゴオーという滝の落下音が聞こえる。右手の垂直に近い岩と滝の間には幅三メートルほどの道が続いており、その道はドーム内と同じような冷気に満たされている。その中ほどに岩に隠れるように水力発電所があり、入り口には「ノード第一水力発電所」という名が刻まれている。

 建物は三十メートル四方の広さの3階建てで、中に入ると1階中央に巨大な鉄の独楽のような発電機が設置されている。その横の階段を登り、二階のテーブルと椅子のある大部屋に案内されたウィーとサムは、三人の相談役の長老と向き合い、話し合いを始めた。


長老達が話し始めた。

「西のドーム都市から客人が来られたのはあなた方が初めてです。我々三人は七十年前の原発爆発でサイバー都市を脱出した人達の最後の生き残りです。つまりあなた方と同じくサイバー人を祖先にもつ同族という事になります」

「すべてを原発の電力に頼っていたサイバー人達は、あの原発の爆発で生きる方法を失いました。あの時、私達は子供でしたが原発の爆発で人々が混乱し、灼熱地獄となったドームを脱出し、四散していった様子をよく覚えています。」

「それから様々な事が起こりました。水力発電所のあるドラ山付近には数万人のサイバー人が押し寄せ、押しつぶされてこの階段付近で多くの人が亡くなりました。多くの人はドラ山に近づけず、仕方なく南に続く山々に逃れたが、そこには今まで捕獲の対象としてきた自由人達が居住していた。サイバー人達は、はじめこそ武器を用いて自由人達を追い払い、川の流れる渓谷や池を占拠して居住したが、これ迄とは比較にならない酸素不足と熱暑の中で、衰弱死する者が増えていった。自由人達の反撃にあう事も多く、徐々にサイバー人達は劣勢となり、自由人達に襲撃され捕獲される対象となって行った。サイバー人が自由人を襲撃し捕獲していた以前とは全く逆の事態となった。そしてサイバー人の多くが死に絶えた」


「このドラ山には原発の爆発後、数少ないサイバー人達が居住していたが、放射能の影響による病気と自由民の襲撃により数を減らしていき、徐々に自由民が侵入し居住するようになっていった。この滝の近くの水力発電所付近は冷気に満ちた一等地であり、放射能の影響も減少し、いまでは自由民の中でも多数派を占めるオルゴ族の居住地となっている」

「そして、いま私達サイバー人の生き残りの三人が自由民に保護され、電力を復活するという仕事を与えられ、この水力発電所の跡地で相談役の長老と呼ばれて生きている事になります」


 ウィーとサムは、長老達との相談の結果、浜に停泊している二艘の船から果物・食料を運び、ドラ山の自由民達に提供する事、その後水力発電所の倉庫から電線その他の資材を船に運び、西のドーム都市カナクに届ける事。そして、ウィーとサム達カナクから来た電気技師達が、水力発電の再起動を手伝うためにドラ山に暫く残るという事が取り決められた。

 ウィーは無線で後方の二人に連絡し、その日のうちに二艘の船から果物などの食料が下ろされ、自由民達の曳くリヤカーでドラ山に運ばれた。次々と運ばれるパイナップルやバナナを見て、滝近くの洞窟から出てきた女性子供などの自由民達は、歓声を上げ興奮気味で果物食料を分け合った。

 その翌日から、ウィー、サム達4人の電気技師は、水力発電所の倉庫で各種電線などの必要資材を探し出し、自由民達の許可を得てリヤカーに乗せて二艘の船の待つ浜辺に運び、小舟を往復させ、資材を船に積み込んだ。ウィー、サム達4人以外の電気技師たちは西のドーム都市との連絡を取るため、船に乗り出発する。


 こうして、ウィー、サム達4人の電気技師はドラ山に残り、自由民政府のために水力発電所の復活に取り組むことになった。調べてみると水力発電の機械には幾つかの重要な部品が欠落していた。おそらくサイバー人達が、自由民達に水力発電所を使用させないために、ここを去る事に幾つかの部品持ち去ったらしい。


 船に乗って西のドーム都市カナクに向かった二艘の船は一か月後に再び果物などの食料や衣料を満載してドラ山の浜に来航した。同時に水力発電所補修のための資料を届けられた。電気技師たちはこの届けられた資料を基に部品を設計し、製鉄・溶接・旋盤などの工程を経て、部品をひとつひとつ作り上げて行った。

 その後も悪天候の間を縫って、カナクからの船が往復来航し、ドラ山の浜に食料や衣料品を届け、ドラ山の浜から電線などの資材をカナクに運んだ。その間、カナクから来た電気技師達は、ドラ山の人達に電灯や酸素発生装置や空調装置の作り方など電気技師の仕事の基本を教えていった。

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