第6話 ドラ山

 「ドラ山」付近に派遣される探索隊に、サムもウィーも選出された。先輩のウィーは隊長に選任された。若手の電気技師の数は少なく、サム達が体力が必要とされる探索隊に選出される事は必然だった。探索隊の隊長になる事が決まったウィーは、同居人のミアに「帰ったら結婚する」と約束した。いつもはすぐに怒るミアは、ウィーにそう言われて珍しく泣いていた。サムは、心配する母親と姉とポリーに明るい声で

「心配ない、危険ならすぐ帰ってくる!」と言い、

「万一の事があれば開けるように」と、内緒でポリー宛の手紙を姉に預けた。手紙の内容は、「サムが帰って来なかったら、ポリーはサムのドームに住み続けて良い、その手続きはした。それから他に好きな人が出来たらその人と結婚してほしい」というものだった。


 冬の比較的安定した天候のある日、8名の探索隊は港に停泊する二艘の漁船に分乗し、電気技師仲間や多くの家族友人達が見送るなか、西風に帆を張り出航し、青く輝く北極海を東へ向かった。目的地は200キロ離れたドラ山付近に広がるサイバー都市、そこにドーム人達が70年前まで住んでいた。その地には、まだ居住している者達がいる可能性がある。

 二艘の船にはそれぞれ船員3名と電気技師4名が乗船している。船は白い三角帆を張り、前面に太陽光発電パネル、船内には強力なバッテリー、用心のための武器弾薬、貯蔵庫にはヤシの実・パイナップル・バナナ・砂芋等の食料と飲料水が満載されている。帰りはこの船内を電線の束で満載にする予定だった。北極海は青く輝いている。この海が五百年前迄、氷山が埋め尽くす極寒の海だったとは信じ難い事だった。

探索隊一行を乗せた船は、北極海の青く輝く海を、右手に見える陸地に沿って、東に数百キロ離れた「ドラ山」に向かって走行して行く。


 二艘の船は、前後に百メートル程の間隔を取りつつ走行している。右手の陸地に時折、昔の建物や車の残骸が見える。二艘の船は走行を続け、日が落ちると岸に近い岩場に錨を下ろし停泊する。乗員は空調を効かせた船内で暑さをしのぎ仮眠・休息をとる。海に入ろうとする者はいない。サメだけはたくさんいるからだ。辺りが明るくなると、二艘の船は再び走行をはじめた。驚いたのは3日目に岩山の近くでダチョウの群れを見た事だ。上陸して捕まえようという者もいたが、かなり凶暴な様子を見て断念した。


 4日目の昼過ぎ、隊員たちは二艘の船が進む行く手前方の岬の向うに巨大なドームを発見した。現実とは思えない程巨大なドームは静まり返っている。双眼鏡で見える範囲を探したが動くものの気配は無い。二艘の船は岬を回りこみ、巨大ドームに続く浜辺に近づき、間隔をあけて錨を下ろし停船した。ウィー隊長が甲板に出て、巨大ドームに向け大音量のスピーカーでメッセージを伝えた。

「我々は西のドーム都市から来た友好使節です。皆さんに危害は与えません。誰かいたら出てきて話を聞いてもらいたい!」

十数回、同様のメッセージを流したが反応はない。


 目の前の巨大ドームは高さ数十メートル、横は目測できないほど半透明の壁が続いている。ドームの中は4階から8階建てのビルが見えるだけで約30棟並んでいる。ビル群の間には自動車が放置されている。人影は見当たらない。ドームの入り口らしき場所が50メートル左に見える。入手した情報によると、サイバー都市は行政区ドームを中心に6個のドームが放射状に並んでいるという。ドラ山は高いドームの壁に遮られて見えない。情報によると、巨大ドームの向うに標高五百五十メートルのドラ山があり、その中腹に滝と洞窟があり、その左に水力発電所があったという。手前のドームに人がいる可能性は低いと判断したウィー隊長は、サム達三名を引き連れて小舟で浜辺に上陸した。危険を避けるためそれぞれ自転車に乗り込み、2名ずつに分かれて出発する。無線で連絡を取りつつ、ドーム群を右へ迂回し、ドラ山方面を目指す。2つ目のドーム付近を曲がると、ドラ山の全貌が見えてきた。中腹に滝が流れ、そこから水沫が立ち昇りドラ山に虹が架かっている。


 ウィーとサムは自転車で走行を続け、前方にドラ山の洞窟がはっきりと見え、洞窟横の滝の音が聞こえる場所に到達した。すると滝の横の水力発電所の建物の方向からドローンが一台飛んできて、大音量で警告を発した。

「ここはノード自由民政府が管理するゾーンだ。部外者がこの山とドーム群に近づくことを禁止する! 立ち去れ!」

探索隊は停止し、隊長のウィーがメッセージをもう一度伝える。

「我々は西のドーム都市から来た友好使節で、電気関係の資材調達の目的で2艘の船で到着した。もし提供してもらえるなら、代わりに食料を提供できるのでよろしく願いたい!」

暫くしてドローンから返答が来た。

「ではそこで停止して待て!自由民政府の担当者が協議して回答する!それまでそこを動くな!」

返答の後、ドローンは滝の横の水力発電所の建物の方向に戻っていく。「ノード自由民政府」が慎重になるのも無理はないといえる。見知らぬ者を軽率に受け入れる事は破滅を招くという事だ。

ウィーとサムは熱暑の中待たされる事になり、隊長のウィーは、後方の二人に無線で事情を説明し、引き続き待機し連絡がなければ船に退避するように連絡した。これは万一危険な状態になった時に人的被害を最小にするためだった。


 三十分近く経ってからやっとドローンが戻ってきた。ドローンは落ち着いた声でメッセージを発した。

「ではドローンについてきてもらいたい。ノード自由民政府の担当者が面会する」






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