推しに流れる血はピンク色
星いすず
第1話 ピンク色ではない
「ああ、同じなんだね...」
推しから溢れ出る赤い液体を目にして、私はそう呟いた。
ステージ上で自ら首にナイフを滑らせた。まるで、それが演出かのように。
デビュー5周年を祝う日本武道館でのライブ中に、その出来事が起こった。
白いステージに滴る赤い液体。今日の公演を祝う紅白幕のように見える。
花道横の席。初めてこんな至近距離で、推しこと北原 拓海を拝めることに、私はチケットが届いた時から浮かれていた。
この一か月間は、いつも三日坊主で終わってしまう食事制限も捗った。見えるかどうかもわからないが爪は淡いピンク色のジェルが彩る。昨日は美容院に行き、髪をきれいに切りそろえてもらい、いつもは頼まない少し値の張るトリートメントもした。
しかし、その努力が無駄になったことを、会場全体を重く切り裂く悲鳴で思い知らされた。
スタッフに誘導されメンバー5人がはけていく。最年少メンバーの優紀はあまりのショッキングな出来事に立てないようで、スタッフに抱えられていた。ショックを受けているのはメンバーだけではない。客席では大勢の客の悲鳴と1人また1人と倒れていくような鈍い音が聞こえる。
そこからのことは、正直よく覚えていない。アナウンスとスタッフの誘導に従い整列退場をし、救急車のサイレン音や報道陣の声を聞き流し、九段下駅へと向かった。自宅のある北綾瀬までは約40分。電車内は例のニュースで持ちきりだ。数人の視線を感じ、私はグッズである首にかけていたタオルを、鞄の中にしまった。
北綾瀬についてからは、何時もの帰路を辿るだけだった。家に着くと着替えず、化粧も落とさずにベッドに入った。朝になって目が覚めたら、すべて夢であってくれと祈るように。
推しに流れる血はピンク色 星いすず @hoshiisuzu
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