「……どういうことだ? なんで俺の身体が……てめぇの術式か」

「術式? 生憎だけど、俺の術式はこれ一つ」


 俺は握っている刀を持ち上げる。


「魔力を消費して剣を生み出す。魔剣や聖剣は作れない。ただの剣だけを作る術式だ」

「ふざけてんのか? ただの剣の刃が、今の俺に通るわけ」

「通るんだよ。お前は無敵じゃない」

「――!」

 

 それを証明するように接近し、ギガスに斬りかかる。

 奴も警戒して大きな隙は見せないが、グレートアックスより刀を振るほうが素早い。

 腕、足、脇腹の順で軽く切り傷を残す。


「っ、なんで斬れる!」

「俺の魔力特性は斬撃だ。お前が放出する魔力ごと削っているんだよ」

「特性だと? そんなことでこの魔力を超えられるわけ」

「量は認める。けど全然ダメだ。お前は魔力の扱い方をまるで理解していない」


 まさに宝の持ち腐れ。

 せっかく手に入れた魔力が泣いている。

 でも、あまり責められないな。

 俺も昔は放出するしか魔力の使い方を知らなかった。

 先生に出会わなければ、今の俺はいなかった。

 そしてグリムたちとの戦闘によって、魔力操作はさらに磨かれている。


「俺は師に、出会いに恵まれた」

「何を笑ってやがる。余裕のつもりか? 忘れてんじゃねーだろうな! この結界内では魔力は使うほどに吸い取られるんだぜ! 俺に魔力切れはない! だがお前はどうだ? 俺の魔力を突破するため相当な無理を――!」

(こいつ……身体からほとんど魔力が漏れ出ていない。いや、まさかゼロ……)

「気づいたか?」


 俺が先生から教わった魔力の使い方は、魔力を留めて循環させる。

 高い魔力操作の技術がなければ不可能な芸当だ。

 その技術をもってすれば、奴の術式効果を無効化できる。


「お前の術式は魔力を吸い出すものだ。魔力の流れを支配しているわけじゃない。だったらこっちも魔力操作で抵抗すればいい。吸収されないようにな!」

「っ、そんなことが!」


 徐々に俺の剣技に圧倒され、ギガスは攻撃の手数を減らす。

 魔力操作の技術に限った話じゃない。

 戦闘経験もこちらが上だ。

 どれだけ殺してきたか知らないが、自分と同等かそれ以上の相手と戦う経験こそ、実力の底上げにつながる。

 先生と出会ってからずっと、俺の剣技は磨かれている。


「だがな!」

「――!」


 ここにきて豪快な攻撃を放つ。

 防御の意識を攻撃に回したのか。

 奴の術式なら致命傷でさえ治癒してしまう。

 賢明な判断だ。


「この結界じゃ俺は無敵なんだよ! いくらお前が強くてもなぁ!」

「それはもう終わったよ」

「は?」

「――よく見てみろ。世界の色が変わるぞ」


 紅蓮の結界が、紫色の染まる。

 まるで世界が一瞬で夜空に覆われてしまったように。

 

「な、なんだこれは……俺は何も……」

「お前の術式の核となるのは結界のほうだ。結界の壁が吸収した魔力をお前に還元している。戦いの中でわかった。お前自身に魔力を吸収する力はない。なら、結界を覆ってしまえば効果は止まる」

「何を……言ってやがる? なんだこれは!」

「魔力だよ」


 ギガスは戦慄する。

 奴の結界を覆っているのは紛れもなく、俺自身の魔力だった。

 戦いながら足元から魔力を流し、結界の縁に合わせて覆うように流して固める。

 吸収されないように循環させながら。

 初めてここまで距離を広げて魔力を操ったけど。意外とできてしまって自分でも驚いている。


「こんな……ありえねぇ……魔力をまるで――」

「身体の一部のように操れ。先生がよく俺に言っていた言葉だ」

「――!」

「俺はその言葉を体現できるように修行した。最終的には魔力で日常生活が送れるようになるまでな」


 先生と出会い、魔力操作を教わり出してからほぼ毎日だ。

 一日も欠かすことなく魔力を扱う修行をした。

 先生に比べたらまだまだ未熟ではあるけれど、手足を動かさずに魔力だけで歩いたり、物を持ち運びすることだって可能だ。


「お前は強力な術式に溺れて研鑽を怠った。お前が魔力操作を身に着けていれば、世界だって敵に回せたかもしれないが……残念だな」


 俺にとっても。

 これだけ強力な術式を持っているなら、もっと善戦してほしかったというのが本音だ。

 戦い方は面白い。

 魔力量も今の俺よりはるかに多い。

 だけど結局……。


「お前じゃ、俺の修業相手も務まらないな」


 グリムやヴィル、先生たちのほうがずっと強かった。

 期待外れだ。


「な、なめんじゃねえ! まだ勝負は――」

「終わらせようか」


 俺は左足を一歩引き、切っ先を相手の左目に向けて構える。

 平晴眼。

 天然理心流にある独特な構えから放たれるそれは、防御不可能の絶技。

 昔、先生に見せた時は未完成で、簡単に受け止められてしまったけど。

 今なら再現できる。


 幕末の世を震撼させた天才剣士。

 最強と謳われながら病に倒れ、最後は戦場ではなく床の上で昇天した。

 かの剣豪が生きていれば、後の世は変わっただろう。

 突き技は本来、一度躱されたら後がない捨て身の技だ。

 その常識を覆した男こそ、この技の使い手。


 新選組一番隊組長、沖田総司。


 放たれるは神速の――


「無明剣」


 三連刺突。

 この御業は連続でありながら、ほぼ同時に三度の突きを放つ。

 回避も防御も不可能。

 気づいた時には、俺の刃は喉元を貫き終わっている。


「が……」


 ギガスが血を吐きだしゆっくり倒れていく。

 無敵の再生能力も、膨大な魔力がなければ効果を発揮しない。

 結界を閉ざされた今の彼に、致命傷を治癒する力はなかったようだ。


「大人しく檻の中にいるべきだったな」


 そうすればこの先も、生きていられたのに。

 自分こそが最強だという幻想に浸っていることもできただろう。

 俺は刀を鞘に納める。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

【あとがき】


第七章はこれにて完結となります!

次章をお楽しみに!


できれば評価も頂けると嬉しいです!!

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