参
「なんだこの音」
「これは……結界を突破されたみたいね」
学園を覆っている外敵の侵入を拒み、侵入された場合は知らせる結界。
それが突破され、けたたましいサイレンが鳴り響く。
「ついに来たのか」
長く待たされたぞ。
やっと戦える。
「侵入者を探しに行く。あんたは俺と一緒に」
「――術式展開」
「「――!?」」
他人の魔力が拡散する。
何者かが術式を行使した気配。
それを感じ取ったが最後、俺たちは囚われた。
血のように赤い結界に。
結界の中心から、高らかな笑い声が響く。
「ギャーハハハハハハハ! 殴殺だぁ!」
学園を覆う赤い結界。
さっきから身体に起こっている違和感。
間違いない。
情報にあったギガスの術式だ。
つまりここに奴がいる。
聞こえてきた笑い声はギガスのものだ。
「余裕ですね、この状況で」
「ん?」
「笑っていますよ」
「ああ、ついな」
強敵と戦える。
そう思うと無意識に口が緩んでしまう。
「声がしたほうに行く。走れるか?」
「ええ、まだ平気です。急ぎましょう。手遅れになる前に」
「ああ」
俺は王女様の手を引いてかける。
結界の中心は中庭のほうだ。
俺たちがいる裏庭からぐるりと回っていくと、大きな噴水がある広間に到着する。
その噴水の上に、ギガスは立っていた。
「あれがギガスか。いかにも悪そうだな」
半裸で巨大なグレートアックスを担いでいる。
筋骨隆々で日焼けした肌も相まって、豪快で凶悪な罪人っぽさ満載だ。
「さーて、目当ての姫様はどこかなぁ~」
「この結界はお前のものか!」
「あん?」
ギガスの周りにぞろぞろと生徒や教員が集まってくる。
腕に自信がある者たちだろう。
学園に残っている者で、数十名が彼を取り囲む。
「なんだ雑魚ばっかりじゃねーか。めんどくせーなぁ、てめぇらに用はねーんだよ」
「おかしなマネはよせ! 早く結界を解くんだ!」
「うるせぇぞ、雑魚が」
「え……」
次の瞬間、ギガスに物言いした男子教員が両断される。
無残に、真っ二つに。
「っ、魔術を放てぇ!」
「――ひひ」
「まずいわこの流れ! やめさせないと!」
「もう遅い」
残念ながら彼らは術式を発動してしまっている。
取り囲んだ数十名が一斉に。
本気で術式を発動し、ギガスを攻撃した。
学生を含むといっても、魔術師数十名の一斉攻撃だ。
囲まれて逃げ場はなく、直撃は必至。
王女様はギガスの身を案じたのか?
否、そんなわけがない。
彼女が制止しようとした理由は、すぐにわかる。
「――いいねぇ、美味かったぜ」
「なっ……馬鹿な! 無傷だと!?」
「お返しだぜ」
ギガスはグレートアックスを振り上げ、地面に向かって振り下ろす。
衝撃と破壊力は拡散し、四方を粉砕する。
集まった者たちはその衝撃に吹き飛ばされてしまった。
凄まじい威力の正体は魔力の放出だ。
彼女術式、この赤い結界の効果は、捕えた者の魔力を吸収し、術者に還元すること。
放たれた魔術は全て、術者であるギガスに吸収され彼を強化した。
「なんて威力……」
「こうやって街を壊滅させたんだろうな。納得だ」
俺の魔力も徐々に吸われている。
術式を使わなくても吸収され、術式を使えばさらに速い。
この結界の中であいつと戦うのは不利だが、逃げようにも結界も同様の効果を持っている。
外からの破壊も、魔力の吸収によって時間経過と共に硬度が増す。
つまり、奴を倒さない限りこの結界は解けない。
「オレらの魔力も吸われてな。うっとうしい」
「わ、私たちも手伝いましょうか?」
「大丈夫、俺がやる」
話しながらイヤリングを外し、王女様に渡す。
「二人はもしもの時、王女様を守ってくれ」
「おう」
「わかりました」
「……お願いしていいのね? リイン」
「ああ」
珍しく面白そうな相手だ。
しかも相手が罪人なら手加減の必要もない。
さっきの衝撃で周りに人はいなくなった。
「ん? そこにいるのはターゲットか! 隣の男はいらねーなぁ!」
「リイン! 後ろ!」
豪快にグレートアックスを振り下ろす。
その一撃を、俺は刀を抜いて受け止めていた。
「――!」
「せっかちな奴だな」
「あんまり時間かけないでよ。こんな臭そうな男に魔力座れるの、オレは嫌だぞ」
「頑張ってくださいね、リイン」
グリムとヴィルの言葉を受け取り、俺はグレートアックスを弾き、がら空きになった腹に蹴りを入れる。
「うおっ!」
戦いやすいように王女様から距離を空ける。
吹き飛んだギガスは空中で体勢を整え、地面を削りながら止まる。
「いい蹴りだな。お前は楽しめそうだ」
「こっちのセリフだ。ガッカリさせないでくれよ」
俺は正眼の構えをとる。
ニヤリと笑みを浮かべ、ギガスが先に動く。
吸収した魔力を全身から放出し、身体能力を向上させている。
一瞬にして間合いをつめ、アックスで斬りかかる。
俺は横に回避した。
アックスは地面に衝突に、亀裂を生む。
「いい反応だ!」
「嬉しそうなところ悪いけど」
胸ががら空きだ。
俺の刀がギガスの胸部を捉える。
完璧に入った。
が、浅い。
刃は通っても深くは入らない。
ギガスは斬られてもお構いなく、グレートアックスを振り上げる。
俺はギリギリでのけぞって回避し、数歩下がる。
「傷が……」
治っている。
一瞬目を離した隙に。
情報にもあったが、この術式内での奴は自己治癒能力を持っている。
周囲から吸収した魔力を全身に纏い、肉体の硬度も増した。
「……ふっ、斬りごたえがありそうで安心したよ」
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