8.無明・コラボ配信④後
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魔法少女になるのが幼い頃からの夢だ。
小学生のころに見た女児向けのアニメ、敵と戦う魔法少女をテレビで見た時、心を打ちぬかれた。
中学生になっても、高校生になっても、続々と続くあのアニメを毎朝見続けた。
友人たちには、そんな所謂オタク趣味を言えなかった。薄々恥ずかしいものだとは自覚していた。
だけど、高校生の終わりごろダンジョン配信というものと出会った。
その中でも目についたのはやはりウィザードと呼ばれる魔法を放つ人たちだ。
大学生になった瞬間に、探索者登録をした。高校生でも登録できたが、受験に集中したかったのでそれは止めておいた。
そして私は探索者になった。幸い、同じ大学に最近探索者を始めたという3人がいたのでチームを組むことになった。
そこからはただひたすらに魔法の習得と研究をした。
だが、思ったよりも自分には魔法の才能が無かった。スキルの細かな習得方法というのはダンジョンが出現して、その存在が世に出てから今まで判明していない。
強く望めば手に入ると言われたり、ただ才能の世界だと言われていたり。
私は、あのテレビの中の少女のような、杖からキラキラと出すような超常的な魔法を習得するに至らないまま、一級探索者になってしまった。
中級以下の魔法を効率よく使うことでなんとか誤魔化していたが、もう限界かもしれないと思っていた。
そんな中で里奈から提案された廿樂という特級探索者とのコラボ配信。藁にも縋る思いだった。何か魔法について教えてもらえるのなら地に頭を擦り付けてもいいと思えるくらいまで、私は魔法についての壁を感じていた。
そして始まったコラボ配信。廿樂さんは古典的なスパルタだった。魔力枯渇ギリギリまで追い込まれ吐きそうに何度もなった。吐きたかったが配信されているのを思い出しギリギリで耐えた。
何も魔法について教えてもらえなかった。ただ、魔力消費で起こる倦怠感に慣れろとしか言われなかった。
そろそろ本当に土下座してでも教えてもらおうかと思ったとき、急遽予定が変更となった。
「燐、そんな物欲しそうな顔をするな。
まぁ、お前がどれに憧れてるのかは知らないが…初代って知ってるか?」
初代、もちろん知っている。私が生まれるよりも前に放映されていたシリーズの初作で、未だにファンも多い不朽の名作。
だが、私が憧れたのはもっと後の、あのキラキラとした魔法使い…はずだったのだが。
「勘違いされてるようだけど、私は純粋なアタッカーではないんだな。
無理矢理例えるなら…物理魔法職?」
彼女の配信を見て、おかしいとは思っていた。
普通に殴って蹴っているだけなのに、時折見える魔力の揺らぎ。画面を通してもそういったものは魔法に精通している者なら見えたりするものだ。おそらく里奈も気付いているかもしれない。
アタッカーが多用する『身体強化』の極地、若しくはそれに準ずるスキル、それを戦闘中は常に使用して身体能力を底上げしている。
殴ったり蹴ったりしているときは、『
前線に出る魔法職、実質的なアタッカーが1人増え、混戦時には後ろに下がって魔法職に徹する。
そういった、遊撃役のような変則的かつ自由な動きができる人が1人いるだけで、チームの選択肢が大幅に増える。
「スキルってのは私にもどんなものがあって、それがどうやって手に入るのかは未だに分からない。
魔法の習得もそうだな。才能なんて片づけるやつも中にはいるが私はそうでないと思ってる。
燐がどういう形で強くなりたいのかはなんとなくわかる。その道を突き進もうとするのを止める権利は私にはない。
だけど、まぁ、これも1つの正解だということを覚えておいてくれ」
こうあるべき。そうは思わなかったが、なにか自分の中での考えが180度変わったかのような気分だった。
多分、私はこの人が示してくれた道を進むだろう。
殴って蹴って、そんなものは私が憧れた魔法少女ではないかもしれない。
だけど、あの初代も、私の中では立派な魔法少女なのだ。
・本郷里奈の場合
私は弱い。単純な探索者の力量としても、無明のリーダーとしても、そしてヒーラーとしても。
ずっと、弱かった。強くなりたかった。だから探索者を始めた。
なのに、私は強くなれなかった。チームメンバーはどんどん強くなるのに、だ。
頭を使うのは得意だった。指揮能力は右に並ぶものはいないと言われた。
だが、私が求めていたのはそれじゃなかった。
単純に力で強くなりたかった。だけどモンスターとの戦闘は怖かった。選んだのはヒーラーだった。
ヒーラーとしての実力は、正直、駄目だ。
チームメンバーに引っ張ってもらって一級探索者になったようなものだ。
配信で見せるようないい子のままでは、いられない。そういう思いで廿樂さんに頭を下げて教えを乞った。
指導はスパルタだったが耐えた。強くなれるのなら恥も外聞も捨てる勢いだった。
基礎も基礎から見直され、挫けそうになったが何とか耐えた。
急に打ち合わせとはした予定とは違うことを廿樂さんが言い出した時、疑問符が頭に浮かんだ。何を言っているんだこの人は、と。
だけど、そこからは怒涛の展開だった。
守はタンクとしての一種のお手本を、砂鉄は純然たる高みを、燐は変則的ながらもウィザードとしての1つの正解を見せつけられた。
あまりにも、あまりにも格が違いすぎる。歳もそこまで変わらないはずなのに、経験値が違いすぎる。
「里奈、ちょいと酷なことを言うがお前は指揮官、リーダーとしては一級品だが、ヒーラーとしては拙すぎる。
ヒーラーはチームの命綱だ。それが脆いとすぐ死ぬ。
お前には正解を見せる。ヒーラーというのはこうあるべきだという像を。
上手いヒーラーは最低限これくらいはやる。個性を付けるのはそこからだ」
「里奈の指揮はある程度見たが、いつもとは違う指揮ではお前たちもやりにくいだろうから好きに動いてくれ、こっちが合わせるから。
動いてほしい時は適宜指示を出す」
そう言った廿樂さんはまさしく完璧、ヒーラーとしての理想像だった。
私のヒーラースキルでは耐えきれないほどのモンスターを呼び寄せ、戦場を支配していく。
タンクの守が使ったヘイトスキルを把握してヘイトを取りすぎないギリギリで回復をしていく。
タンクの負担のかかる利き手へと的確にヒール飛ばし、負担を軽減させる。
ヘイトを買いすぎる場合は燐や砂鉄を使ってポーションを使わせる。
ギリギリの、谷間で命綱無しで綱渡りをするような戦闘だ。
この人なら何があっても大丈夫だというある種の信頼はあるだろうが、今日初めてのパーティーでこのギリギリの戦闘を繰り広げるのは私には無理だ。
砂鉄が守のカバーに動くのも織り込み詰みで、それすらも計算して動いている。
未来視のスキルでもあるのではないだろうかと疑いを持たざるをえないほどに完璧だった。
使っているスキルは私でも持っている物ばかり。私と違うのは、徹底したヘイト管理、回復スキルの回転率、余裕があるときは攻撃魔法を使ってモンスターを倒していること。
最上位のヒーラーはこれが当たり前なのか、と軽い絶望を憶えた。
だが、私は無明のリーダーであり、命綱でもあるヒーラーだ。
なら、鍛えよう。こうあろう。
この人に、頭を下げて教えを乞おう。
弱い私は終わりだ。ここからの本郷里奈は、強くあろう。
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