7.無明・コラボ配信④前


・不破守の場合


 自分が無口だと言うことは自覚している。過去にこれといって何かあったわけではないが、気付いたらそうなっていた。

 その無口を廿樂さんはどうにかしろと言った。


「普段から会話をする癖を付けろ。無口なのはなんとなくわかるし、お互いの信頼で言わなくてもわかり合っているのも。

 それでもだ、会話ってのは探索ににおいて思ったより大事なんだよ。意思疎通だけでは伝わらない細かな指示だったりとかな。

 少しずつでいいからなんとかしていきな」


 タンク役に指示は必要だろうか、どちらかと言うと受ける側ではないだろうか。

 その考えは探索が進んでいくごとに間違いだと気付かされた。

 今までに体験したことの無いほどの大量のモンスター。チームの余裕がどんどんと無くなっていく。

 廿樂さんの指示でなんとか持っている状態。気を抜けば直ぐに死にかけないほどの苛烈な訓練。


 強くなりたい。あの日見たあの探索者のように。

 この苛烈な訓練をチームの方針として申し出たことを後悔はしていない。得られるものは多い。


 そう思ったのだが、それすらもこの人は覆してきたのだ。



「守。私がやるのは組んで一番やりやすかったタンクだ。お前が目指すべきタンクではないかもしれん。

 だけど見て学ぶことはあるはずだから見ておけよ」


 そう言った彼女は凄まじかった。


 恐らく『次元収納』から取り出した、漆黒の大楯。

 卓越したヘイト管理。里奈を補助する指示出し、砂鉄との連携は俺よりもいいかもしれない。今日初めて入ったチームであるにも関わらず、だ。


 自分で集めたモンスターを大楯で殴って殺していく。補助魔法での妨害、砂鉄が持てると思ったらヘイトを移して誘導。

 タンクとは耐えるのが役割だと思っていた。だが彼女はそうではない。

 楽できるところは楽をしている。それもアタッカーの砂鉄との連携を崩さずに。


 燐からバフを受けたいときは一瞬ヘイトを分散させて一歩下がる、受けたらまたヘイトを集める。


 そのヘイト管理は、全て指示役である里奈が戦局を把握しやすいように行われている。

 これはタンク役の俺と指示役の里奈の2人しか気づかないだろう。


 これは目指すべき理想像なのだろうか。

 いや、それを悩む前にもっと彼女を見よう。学ぶことは多いはずだ。



・新開砂鉄の場合


 俺は天才だと信じてやまなかった、探索者を始めるまでは。

 顔はイケてる、運動も1度見ればだいたいできる、勉強なんてしなくてもテストでそこそこの点が取れた。高校ではよくモテた。

 探索者を始めたのは、天才の俺ならすぐに大金を稼ぎだせると思ったからだ。

 だが、現実を知った。ただ地道な努力の世界だった。

 今まで努力を強いられたことなどなかった。挫折した。辛く苦しかった。だが、それが逆に燃えた。

 4年ほどで高みと呼ばれる一級探索者になれた。


 使えないほどの大金も手に入れた。当初の目標は達成したと言ってもいいが、あの日、あの人に助けてもらった情景と鮮烈な羨望が目を閉じればすぐに思い出せる。

 目指すべきはあの高みだ。


 自分達でもダンジョン配信をするが、他の人たちの配信を見るのが趣味だった俺は、急に出てきた廿樂という女性をたまたま見つけた。

 俺はすぐにリーダーである里奈にそれを伝え、チームの意向として彼女に教えを乞おうとした。

 お互いの素性も分からないので断られるかとも思ったが、すんなりと承諾の返事が来たことを里奈から聞いた。


 実際に会った彼女の瞳を見た時、全てを見抜かれた気がした。焦燥、羨望、目指しこそしてるが今のままでは特級などにはなれそうにもないという自信の無さ。

 多分、この自信の無さを自覚してるのは俺だけだ。これは一度挫折したことがないと分からないのかもしれない。

 それすらも見抜かれていそうで、眼が合った瞬間、寒気がした。


 探索が始まって、他のメンバーは彼女が逐一助言と指示をした。だが、俺にはほぼ何もなかった。

 隠れて努力をしてきた。それが少しばかりチームメンバーとの差に出ているのは自覚していた。別に悪いことではない、少し抜けている自分よりも、彼女たちの方を見るのは当然だ。

 指示、サポーターとしての気配り、立ち回り、学ぶことはたくさんある。


 と思っていたのだが、いい意味でそれを裏切られた。



「砂鉄。お前は器用貧乏だが、努力ができる。ならお前には純粋なアタッカーとしての高みを見せよう」


 理想を見せると言った彼女が出したのは、俺が持っているのと同じような2本の青龍刀。

 俺が持っているのとは明らかに格が違うであろう得物。


 見ていろ、と言われ戦闘が開始した。


 そこから始まったのはまさしく蹂躙。ヘイトを他人に押し付けるスキルでも持っているのか、明らかに場を荒らしているのに全く彼女にヘイトが向いていない。

 純粋な物理、暴力。俺のように魔法をたまに挟んだり回復を自分でするわけでもない。


 自分がこうなれる気はしない。だが磨けばこうなるのかという高みを見た。

 俺の強みとは全く別のモノ。俺が目指すべきはこれではない。


 だが、ここまでできなければ特級探索者にはなれないのか。そう思った。

 なら俺はこのチームで、最も強くあろう。最も努力をしよう。彼女のような強さと、細やかな器用貧乏を両立しよう。


 目指すべきは器用貧乏ではない、器用富豪と呼ばれるような、そんな特級探索者になろう。


 

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