4.無明・コラボ配信①


 初めて顔を見た時、ものすごく美人な人だなと思った。

 コラボ配信の前に、一度打ち合わせをしておこうというこちらの提案に対して彼女は


「あ、コラボの前とかそういうのするんですね」


 という、まるで配信初心者のような返答を…いや、話題が大きすぎるだけで、まだ3回しか配信したことがないんだったなと思い返し、新宿ダンジョン探索者協会支部で打ち合わせをすることになった。

 打ち合わせは無難に終わり、彼女はサポーターとして私たちのチームに付き、色々と助言をしてくれる、という運びになった。


 そして、コラボ配信当日。



「では改めまして、無明のリーダー兼ヒーラー、本郷里奈です。本日はよろしくお願いします」


「アタッカー、新開砂鉄だ」


「ウィザードのはざまりんよ、よろしく」


「…タンク、不破まもる


 私たち無明は、4人全員が大学の同級生で一級探索者、チームのダンジョン配信者としては日本で1番チャンネル登録者が多い、自分で言うのもなんだが人気のダンジョン配信者だ。

 チームとしてもバランスが良く、お互いの信頼関係もいい。個人個人の実力としては一級上がりたてといったところだが、チームとしては日本に並ぶものはいないという自負がある。


 だが、私たちが目指すのは一級ではなく特級探索者。配信はチームを組んだころからやっているが、どちらかというと楽しいからやっていると言ってもいい。

 一級に上がってから半年、配信をたまにしながらダンジョンに潜っているが、今迄の実力の伸びと比べて、明らかに停滞しているのをチーム全員が感じていた。

 配信をすれば、ファンのみんなは『若くして一級に上り詰めた天才』だのなんだの持て囃してくれるが、そうじゃない。


 だからこそ、突如として現れた3人目の特級探索者。歳が近いのも相まって、私たちは藁にも縋る思いで助言を求めようとした。

 だが、配信に関わること以外で接触できるとは思えない。SNS等で頭を下げる勢いで教えを請おうとしてもいいが、それでは彼女に利が無さすぎる。

 なので、コラボ配信という手を取った。


 打ち合わせで彼女の考えを聞き、私たちは特級探索者の教えを乞うことができる、彼女はサポーターに徹し少しばかり軽視されているその役割をリスナーに教える。


 配信、というコンテンツで彼女を利用するような形になったが、彼女もなんとなくそれを理解しているのか二つ返事で了承してくれた。


 そして現在、新宿ダンジョンの61階層に転移して配信を開始したところ。

 今回はお互いの視点で配信している。コラボ配信では少し珍しい形だ。


「はい、ということでこんにちは。今回はお知らせしたとおり無明さんとのコラボ配信です。

 彼女たちには特級配信者の私から、探索に関して指導、助言ということで、今回彼女たちの邪魔をあまりしないようにサポーターをさせてもらう。

 同時に主に中級以下には軽視されてるサポーターという役割の重要性を周知させてもらおう。

 というわけで、挨拶もほどほどに探索を開始しようか」


 私たちの挨拶は省く、なるべく探索に集中するため、との私たち側からの提案であった。普段は読み上げ機能でコメントを返していたりもするが、それも今回は無し。リスナーからの声への返答はすべて彼女にお任せしている。



 遠慮はいらないから厳しめに指導してほしい、そう言ったことをものの30分で後悔することになった。














「守!お前もっと声張れェ!ヘイト管理も甘ェ!スキル使えない時でも殴って蹴ってヘイト取れ!タンクがヘイト取りすぎるくらいでいいんだよ!何回言わせるんだ!」


「…うす!」


「砂鉄はアタッカーとして優秀だな。あんま言うことないわ」


「あざぁっす!」


「燐!魔力管理は一級品だがもうちょい限界値上げろ!使いこんだら気持ち悪くなるのは分かるが慣れろ!」


「はぁい!」


「里奈!リーダーならもうちょい指示出しちゃんとしろ!ある程度信頼関係あるのは分かるが言わなきゃ伝わらんぞ!」


「はい!」



 探索開始から30分までは良かった。

 廿樂つづらさんは何も言わなかった。自分の配信を聞いているリスナーに対してサポーターの役割を説明しながら、ある程度こちらの動向を見ているだけだった。


 こちらの実力や連携の練度を確認していたのだろう。


「じゃあここから口出していくから」


 と言ってから、打ち合わせの時やダンジョンに潜る前とは打って変わって、雰囲気がかなり変わった。

 

 スキルを使ったのか、この階層のモンスターを集め、扱きが始まった。


 罵詈雑言、ほどではないがかなり厳しい口調でダメ出しの嵐。慣れているのか、目の付いたところから自分たちがこれで良しとしていた妥協点まですべて修正される。

 

 次から次へ休みなく襲い掛かるモンスター。ギリギリ捌き切れる量で、死にはしないが少しでも油断すると大怪我を負いかねない。



「スパルタ…古典的だ…」


「俺は余裕あるが…守とかギリギリだろ」


「…吐きそう」


「魔力量ギリギリ…ここまで追い込んだのは初心者以来でしょうか」


 1時間ほど戦闘を続けて、やっとの休息…なのだが、配信をしているということも忘れ、草原に大の字で寝っ転がっている。


「あー…大丈夫そうだね。ギリギリそうだけど」


「これのどこが大丈夫に見えるんですか」


「別に死んでないし欠損もない、五体満足の内は無事だよ」


「それはそうですけど…」


「それじゃああと10分休憩したら62階層行こっか」


「…え?」

 


 特級探索者の真の実力の底はまだ見えない。

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