3.親友
「春香、お前これどうすんの?」
「んあ?」
親友がそう言ってスマホを突き出してくる。
そこに映っているのは、いわゆるアンチスレッドというやつ、それも私の。
「放置でいいでしょ。ざっと目を通したけどあることないこと書いてるだけだし」
「そうは言ってもお前なぁ…」
溜息をつかれても。
こいつは私の親友、高宮
人外の沼に頭までどっぷり浸かっている私と違って、普通の社会人だ。
たまに一緒にご飯食べに行ったり、こうして家に遊びに来たり、そして、私にダンジョン配信を勧めた張本人。
「というか、そもそも俺はこんなにバズるとは思ってなかったんだよ。それが蓋を開けてみればチャンネル登録者85万人?なんだこれ」
「それは私も思ったわ。あれから暇があったら他の探索者の配信見てたりするけど、なんかパッとしないよね」
「お前と比べるな、可哀そうだ。俺としては、徐々に人が集まってくればいいなぁと思ってたんだが…現代のSNSの力を舐めてたかなぁ」
言いたいことは分かる。
他の配信者と比べてみても、映えを考えない、愛想もない、人気取りという言葉を考えない。
それを自覚してるし、めんどくさそうなので変えるつもりもない。
「だろうな。そういやお前Tweeterのフォロワーもなかなかエグいことになってたよな。知り合いとか、前の配信でいたダンジョン配信者とかフォロー返しといたら?」
「え…めんどくさ」
「お前なぁ…まぁいい機会か、こういうのはちゃんとしておいた方がいいぞ。知り合いに普通の配信者がいるからそいつから聞いたSNSの処世術とか教えとくわ」
いろいろと教えてもらった…ほんとめんどくさかったが。
だが、後々そういったことで問題になることもあるとのことで…それも知り合いの経験談らしい。私は渋々ながらも全部聞いておいた。
50万近いフォロワーの中から、知り合いやら有名なダンジョン配信者をフォローしたり、DMを相互フォロワー限定にしたり、プロフィールを整えたり、等々と。
めんどくさかったが、本当にめんどくさかったがひとつずつやっていた。
「めんど…世の中の配信者はみんなこんなことやってんの?」
「大半はやってると思うぞ。なんならそういった配信者のコミュニティとかあったりするしな」
「へぇ、そんなもんまであるのね。よく知ってるなぁ」
「あー、まぁ、仲のいい奴がたまたま配信者だったんだよ。とりあえずそれはいいんだよ、今はお前のことだ。今後の計画とか立ててんのか?」
「え、あー…」
今後の計画、か。昔から行き当たりばったりな性格だったし、後先考えた記憶もあまりない。
先日の配信のことを棚に上げる形になるが、探索者を始めた理由は一番金が稼げそうだから、だったりする。あと、現実から逃げるのに最適だったから。
少し話が逸れたが、特にこれといって計画も何もない。
適当にダンジョン配信と雑談配信を繰り返して、たまに他のダンジョン配信者と関わっていければいいかなとしか思っていない。
「そんなとこだろうと思ったよ。だが、なぁ。春香はあまりにも規格外すぎるから助言できそうにないんだよな。
あまり人の声とかあんまり気にしないだろうから、これからもお前のやりたいようにやっていけばいいんじゃないかなぁとは思ってる。勧めた側としては申し訳ないとは思うがな」
「あんま気にするな」
昔からあまり人の意見というのがあまり気にならない
興味本位でアンチスレを覗いてみたりするが、なんか馬鹿な奴が馬鹿なことを言ってるなぁくらいにしか思わない。
配信のチャット欄とかでも罵詈雑言を見たりするが、基本的にスルーである。反応して火種になるのもどうかと思うし。
「まぁ、せっかく勧めてもらったことだし楽しいと思う間はやってみるよ」
「ああ」
あれから数日、一度適当に配信をしてそろそろチャンネル登録者が7桁に行きそうになっているところ。
渋谷ダンジョンの80階層で配信をしたので、またしてもチャット欄やSNSが阿鼻叫喚であったが。
Tweeterにはダンジョン配信者としては日本一と称される無明というチームからコラボ依頼のDMが届いたりして、次のダンジョン配信では彼らと新宿ダンジョンに潜ることになった。
そんな中、
今までは、迷惑メールに個人ドメインで届いたアホみたいな内容のメールしか届いてなかったが、とある企業からのメールが受信欄に届いていた。
「なんだこれ、Re:Mind株式会社?内容は…端的にまとめたらスカウトかこれ」
Re:Mind株式会社、聞いたこともなかったので知らべてみた。
出てきたのは…うん?
「Vtuber、かぁ」
かなりの人数のVtuberを抱えるエンタメ系企業。新興企業ではあるが、最近は勢いのある新進気鋭の会社らしい。
「弊社所属のVtuberになってほしい、活動方針に口は出さないし、最大限のサポートをする。
配信をやるにあたって、なにもかも自分でやるのはめんどくさく、専属でそういった雑事すべてをやってくれる人を雇おうかと考えていたところだ。
そういったことも考えていたので、この提案はまさに渡りに舟であった。
「企業所属…あー、金銭関係の話もあるよなぁ。そういったのはあの人達に全部任せてるしとりあえず連絡して、えーっと返事もとりあえずしておくか」
提案に関しては、ある程度受ける方向でという考えで、と返信して、私なんかに専属でいてくれる税理士さんと弁護士さんにも連絡しないとなぁ。
ダンジョンに関して、金銭や法律関係はかなりめんどくさく、稼げば稼ぐほどそういった法律に縛られる。だからダンジョン協会からの提案で、私には専属の税理士と弁護士さんがついている。
彼らにはいろいろと迷惑をかけているが、今回も迷惑をかけることになるなぁ、などと考えながら頬を掻いて電話をかけるのだった。
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