第9話★女賢者なのに、そこまで信じちゃうの、何ですか!?

13時10分。

教会のトビラが、音を立てて閉まる、その瞬間。


「ちょおっと待ってくださーい!」


僕とカシコさんは、ギリッギリに教会の中に滑り込みました。

中にいた受験者たちが、一斉にこっちを見ます。

「こいつら、間に合ったのか…」

みたいな表情をしています。


「はーっ! はーっ! はーーーっ!」


僕たちは肩で呼吸をしていました。


「ア、アタシも…ま、間に合ったよ…」


赤髪の女も、後ろから続きます。


彼女の手を引くカシコさん。

僕は迷いました。

このまま彼女を助けるべきか。もしくは見捨てるべきか。


本心では、もちろん見捨ててそのまま教会の中に走っていきたいと思っていました。


でも、その答えも、カシコさんがいなかったら、得ることはできませんでした。

それでも、ここで試験会場にたどりつかなかったら…。

いやでも…!


逡巡を繰り返したあげく。

「うおおおっ!」


僕は気づくと、カシコさんの手を握っていました。


「ボ、ボンさん!?」


助けてもらえるとは思わなかったのでしょうか。

カシコさんは驚きの目でこちらを見つめます。


「い、いいから助けてくれぇっ!」


赤髪の女は、大声で叫びます。


僕には、平凡な力しかありません。

筋肉も中肉中背、間違ってもマッチョではありません。


しかし、一生で出せる力のほぼすべてを使って、カシコさんの手を引っ張りました。


そしてそのまま階段から駆け出し…。

教会前の扉が、ギリギリ閉まる直前に中に入り込み…。


そして今に至ります。


「試験ー! 開始時刻ー! ただいまより、賢者検定を始めますー!」


教会の、神父が演説を行うであろう教壇の前に立っていたのは…。

先程のライトラでした。


「あ、あれっ!? あの階段の中に進んでいったのでは…!?」


カシコさんが「信じられない」という目をしてライトラを見つめていました。

確かにライトラは、階段に進んでいきました。


そして今、なぜか教壇にいます。


「おそらく移動魔法でも使ったんじゃないかい…」


赤髪の女は言います。


「あのクラスの賢者なら使えるって言うし…。そもそも移動魔法を使えながら、アタシたちの目の前で教会の前に地下階段を出して、さらにそこを降りていくのも、今から考えたら、ただの誘導だったんだねぇ…」


「赤髪の女…」


すると彼女はカッと目を見開いて言いました。


「ちょっと! その言い方やめてくれないかい!? アタシにはシーファっていう名前があるんだよ!」


「シーファ…」


「そんなお名前だったのですね…!?」


カシコさんは驚いた顔で言いました。


「いや、カシコさんは一緒に食事してたんですよね!?」


「そ、そう言われても…。名乗りませんでしたし…」


「あぁ…。名乗らなかったねぇ…。すまなかったね、お嬢ちゃん、アンタの荷物、返すよ」


「えっ!?」


シーファと名乗った彼女は、自分のバッグの中から、白いリュックサックのような荷物入れを出しました。


「えええ!? 私の荷物! 何でお持ちなんですか!?」


いや、盗んだからですよね。

僕は心からそう思いました。


「いや…盗んだの…アタシだから…」


シーファさんは気まずそうに言いました。いや、そりゃ気まずい。

荷物を見せても察してもらえなかったわけですから。


「えええええ!? 盗んだのシーファさんだったんですか!? ていうか私の荷物、盗まれてたんですか!?」


そこ。

そこを今認識するんだ。

僕は頭がクラクラしてきました。


「いや…そうだよ…。なんか盗んだのに、ここまで疑われなかったのは、はじめてだよ…。それに何より、助けてもらっちゃったしね…。なんかアンタたちの前でウソつくのが、バカらしくなってきてね…」


シーファさんは、気まずそうな顔で言いました。


少しだけ僕たちの間に、あたたかな雰囲気が流れます。

しかしそれもつかの間、ライトラの声が突き抜けるように響きました。


「賢者検定の開始前に…。よくぞ時間厳守のヒントでここまで来た…! まずはほめてつかわせよう…!」


声の一つ一つに神々しいオーラが含まれています。


「あぁ…。ありがたい…!」

「恐縮です…ライトラさま…!」


その言葉だけで地面に伏せ、感涙している人間もいました。


しかし一方、反論する受験者もいます。


「お、おいおい! 何だよそれは…!」

「そ、そうだ! 分かりにくい書き方しやがって…!」


一人が声をあげると、二人三人と続きます。


「階段に降りていった人間はどうなったんだ!」

「そうだ! オレと一緒に受けてきた親友も、降りていっちまったんだぞ!」


親友なのに、彼を置いて、一人で降りていってしまったのでしょうか。

そしてあの男は、それを止めなかったのでしょうか。


どっちにせよ親友とは違うんじゃないか、と思いました。


「降りたヤツら、消えちまったぞ!」

「そうだ! あいつら死んじまったのか!?」


そこかしこから、大騒ぎする声が響きます。

人間心理は炎のようなもので、一箇所が燃えると、次々と燃え広がります。

ネット炎上などもまさにそんな仕組みでしょう。


これは収まりそうにない…。そう思った瞬間、透き通るような声が響きました。


「シャランプ」


その瞬間。

あたりの騒音が一瞬で止みました。


(つづく)



まったり続けていこうと思っております…!

見てくださった方、ありがとうございます。

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女賢者がアホすぎる❤️~世界最悪のテスト【賢者検定】に合格せよ! 優勝 @yusyo

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