第8話★女賢者が泥棒に手を貸すって何ですか!?
「謎はぜぇんぶ、解けましたぁぁ!」
カシコさんの言葉に、自分は何も理解することができません。
「ど、どういうことですか…?」
すると彼女は、キラキラした目をさらに輝かせて言いました。
「あと少しだけ待ってください」
「は…?」
「だって集合時間は『13時』でしたよね? あと五分あります」
「そ、それはそうかもですけど…。でも…」
カシコさんは、先程の紙を出して、かわいく微笑みながら言います。
「ヒントにもありましたよね。『時間厳守』って」
その言葉に、思わず僕は言います。
「え…? それって『時間に間に合え』って意味ですよね…?」
「いえ、だから急げという意味ではなく、『決まっている時間は厳守せよ』という意味だと思うんです」
「決まっている時間…?」
「はい。集合時間である13時に、ちゃんとここに集合していなければいけない、ということです。それより早く、この時点で動いたらダメだよっていう」
「ど、どういうことですか…? でも、ここにずっといると、雨が…」
あらためて空模様を見ます。
雨はどんどん強くなっていました。
カシコさんは、濡れていくのも構わずに言います。
「大丈夫です! 逆にこれが大切なんです」
「大切…?」
「『この街の天気は変わりやすい』。だから今まで晴れていても、突然に雨になることもあります」
「は、はい…?」
「そして雨が強くなれば、その水分がさらに紙に染み込んでいきます」
「染み込む…?」
「はい、あの紙に…!」
カシコさんが指し示した先。
そこには先程、ライトラが貼った張り紙がありました。
「あれがどうしたんですか…?」
「見ていてください…」
「…?」
僕はカシコさんとともにその張り紙を見守ります。
ふと周囲を見ると、残っていた受験生たちも、全員がその張り紙に注目していました。
すると、張り紙が多量の水を含み、「ナ」の文字のうち一部がにじんでいました。
「あれは…!?」
カシコさんは言います。
「私のラクガキは水で落ちました。だからもしかして、あの張り紙の文字も、一部が水で落ちるんじゃないかって思ったんです」
「そっ…。そんな…!」
時刻は、12時59分です。
まもなく…時間が変わります。
「13時だ!」
「13時よ!」
周囲の受験生たちから、そんな声が上がりました。
見ると、こうありました。
「賢者検定 受験者のみなさま。
お集まりいただき、本当にありがとうございます。
賢者検定の開始時刻は13時10分です。
検定会場は、 教 会 の ナ カ です。
遅刻したら失格です。気をつけてください。
それでは、また検定会場でお会いしましょう。
賢者ギルド」
そうです。
「チ」の文字の上の部分だけインクが流れ落ち、「ナ」になっていました。
「時間厳守で、集合時間キッカリにここに来た人が見る、正しい記載! それこそがこれです!」
「ええ!? じゃあライトラが地下への階段を出して、そこに入っていったのは…!?」
「トラップということじゃないでしょうか! すなわち私たちが目指すのは…!」
「教会の中…!」
「その通りです! 行きましょう!」
僕たちは教会の扉に向かいます。
その場にとどまっていた受験生たちも、みなそちらに走っていました。
先頭を走る受験生が、教会の扉にたどりつき、そして開け、入っていきます。
「今度こそ、試験開始の13時10分までに、あそこに入ることです!」
「わ、分かりました…!」
僕は同意しながら、駆けていきます。
その途中で、地下への階段の前を通り過ぎます。
すると。
階段の中は、真っ暗闇になっていました。
「こ、これは…」
「おそらくですけど…。一度入ったら、出てこられないような魔法が掛かってるんじゃないでしょうか…」
「えっ…」
「だって、集合時刻を守ってなかったわけですし…」
「そ、それにしても…」
僕は気が遠くなりました。
よく目をこらすと、暗闇の中に、誰かの手が見えます。
「んっ!?」
「えっ…?」
さらに見ると、その手の先には、肩と顔がありました。
先程の、赤髪の女でした。
「あああっ! あなたは!」
「う、うぐっ…! た、助けてぇ…!」
「えっ?」
「か、階段を降りようとしたら、突然、奥から暗闇が伸びてきて、飲み込まれそうになったんだ…。な、何とか逃げようとしたけど、ううっ…。と、取り込まれる…!」
後ろから迫ってくる暗闇は、どんどん女の体を飲み込もうとしてきます。
さらに人間を吸い付ける力もあるようで、彼女は体を動かそうにも動かせない状態のようでした。
「い、今すぐ助けます!」
「は!?」
カシコさんは女に駆けより、手をギュッと握ります。
「せーのっ!」
少しだけ彼女の体がこちらに引きずられました。
「え、ちょっ!? た、助けるんですか!? この人を!?」
「だって、見過ごせないじゃないですか!」
うん。気持ちは分かるんですけど。
そもそも荷物を盗んだ人なのに。
「あ、あんた…!?」
「う、うううっ…!」
カシコさんは力いっぱい手を引っ張っています。
暗闇がどんどん近づいてきます。
どうする!? どうしますか!?
時計は13時7分でした。
あと3分。時間もない中で、僕の思考はぐるぐるぐるぐる、回転木馬のように踊っていました。
(つづく)
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