第6話★女賢者がそのまんま信じるの、何ですか!?
この街のぼったくり商品、もとい、名産品である『賢者まんじゅう』。
その中には、この二つのキーワードが書かれた紙が入っていました。
『時間厳守』
『この街の天気は変わりやすい』
カシコさんはそれを見ながら、言います。
「これ、賢者検定のヒントなのでは…?」
賢者検定の、ヒント。
となると、このまんじゅう売りのおじさんの『合格間違いナシ』は、真実を言っていた、ということでしょうか。
ヒントが入っているからこそ、合格間違いナシだった、という。
「こ、これ、ヒントなんですか…?」
僕はおじさんに向かって確認します。
するとおじさんは、ニヤニヤしながら、言います。
「さぁ? 何のことだか?」
いや、間違いなくヒントな気がする。
もし、このメッセージ入りの紙が、本気でただの異物混入なら、ここまで開き直るわけがありません。というか、こどんな手の込んだ異物混入だとも思いますけども。
確かに賢者検定の詳細の手紙には、こう書いてありました。
『追伸。時間があれば、スマーテストの街を、素直な気持ちで楽しんでください』
素直な気持ちで楽しむということは、売り言葉も素直に信じる、ということでしょうか。
ヒントを得るためのヒントも存在していた、ということになります。
「も、もしかして、そのことに気づいて…?」
僕はカシコさんに確認します。
すると彼女は、困ったように答えました。
「いえ…? 私は別に…。ただ『合格間違いナシ』って言ってたから…」
あ、何でも言葉通りに信じちゃう人、というだけでしたか。
何にせよ、これが賢者検定のヒント。
『時間厳守』
『この街の天気は変わりやすい』
………。
いや、あまりに漠然としすぎてないですか、これ。
天気が変わりやすいから何なのか。
カサとかちゃんと持っていこう、くらいしか思いつくことがないですし。
そもそも時間厳守なのも、当然じゃないかと。社会人ならば。
するとカシコさんは言いました。
「時間厳守…。時間厳守…」
「な、何か分かったんですか…?」
「いや、時間厳守ですよ! 早く集合場所に行きましょう!」
見ると、時刻はすでに12時30分でした。
13時まで、あと30分です。
「は、はい!」
走りながら、彼女は言います。
「さっそく役に立ちましたね!」
いやいやいや、こんなレベルで役に立っても。
僕たちは急いで、集合場所である『教会前の広場』に向かいました。
◆
12時40分。
僕たちは大きな教会を目指して走ります。
そして教会にたどりつくと、目の前に広場がありました。
100メートル平方くらいある、石畳の大きな広場です。
そこには、たくさんの人が集まっていました。
「これ全部、賢者検定の受験者でしょうか…?」
カシコさんは不安そうに言います。
「そのようですね…」
受験者たちは、一点に注目しています。
その先、広場の中央には、大きな掲示板が立っていました。
ただ、掲示板には、何も貼ってありません。
「何でしょう、あれ…? 何もない…?」
「何ですかね…?」
そう思っていると、周囲の人がザワザワしはじめます。
そして人混みがザッと開きました。モーゼのようです。
見ると、一人の女性と、二人の男性が歩いてきました。
女性は華麗な黒いローブを身にまとっています。そのローブには、細かな金の刺繍が施され、長い銀色の髪がローブの背中に揺れていました。
さらに同じ格好の男性が後ろをついてきます。
「お、おい、あれ…!」
「大賢者、ライトラ様だ!」
「う、うそっ! 本当に!?」
聞いたことがあります。
大賢者、ライトラ。
賢者ギルドの幹部で、様々な魔法を操るとされています。
あ、ちなみにこの世界にも魔法があるわけですが、魔法を使えるのは、ほとんどが「賢者」です。
逆に賢者ではない一般人は、よっぽどの場合をのぞき、魔法を使うことはできません。
使える魔法の数も賢者としてのクラスによって様々ですが、上位になればなるほど、使える魔法の質・量ともにレベルアップしていくとされています。
ライトラと呼ばれるあの女性は、10種類以上の上位魔法を使えると聞いたことがあります。
「あ、あの! 昔からずっとファンです!」
参加者の女性が声を掛けます。
「ず、ずるーい! 私も!」
他の女性も叫びます。
「あ、お、オレも! 前から憧れてました!」
男性たちも、彼女に集いました。
しかしその賢者はまったく返事をせず、ただ歩みを進めます。
「控え! 控えい!」
付き人の男性が叫ぶと、野次馬たちの動きが止まりました。
その場の全員に注目される中、ライトラは掲示板に近づき、その前に立ちました。
そして彼女は、掲示板に、一枚の紙を貼り付けました。
もちろん全員がそこに注目します。
その紙には、手書きの文字で、このような文が書いてありました。
「賢者検定 受験者のみなさま。
お集まりいただき、本当にありがとうございます。
賢者検定の開始時刻は13時10分です。
検定会場は、 教 会 の チ カ です。
遅刻したら失格です。気をつけてください。
それでは、また検定会場でお会いしましょう。
賢者ギルド」
僕をふくめて、受験者たちがその文面を読んでいる間に、ライトラは、また付き人たちと歩き始めます。
またも群衆が道を譲り、彼女はそのまま、教会に向かっていきました。
そして教会の前につくと、ライトラは何かの呪文を唱えました。
その瞬間。
教会の入り口の前に、大きな地下への階段が現れました。
「おおおっ!」と周囲から歓声が上がります。
するとライトラは、付き人たちとともに、その地下への階段を降りていきます。
そのまま、三人とも、階段の中に姿を消しました。
「お、おい! 教会の地下だよ!」
「遅刻したら失格だって! 急げ!」
「は、早く行きましょう! 追いかけないと!」
参加者たちは、競って教会の前の階段に向かいます。
そして次々と階段を降りていきました。
「ぼ、僕たちも急ぎましょう! カシコさん!」
僕はカシコさんにそう声を掛けます。
しかし、カシコさんはそこから動こうとしませんでした。
「ちょっと待ってください」
「えっ…?」
「今、何時ですか?」
「えっと…」
僕は時計を見ます。
時刻は12時50分になっていました。
「この張り紙には、開始時刻は、13時10分とあります」
「は、はい…。ですのであと20分しか…」
「20分あります。急がなくてもいいのでは…?」
いや、そんな悠長な。
「で、でも…。あの階段がすごく長いかも…?」
「もちろんその可能性もありますけど…。なんか引っかかるんですよ…」
「引っかかる…?」
僕には意味が分かりません。
しかしカシコさんは、明らかに何かを考えているようでした。
(つづく)
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