第5話★女賢者がまんじゅうノドに詰まらせるの何ですか!?
「お、おまんじゅうを、食べる…?」
聞き違いかもしれません。
僕はその美少女こと、カシコさんの言葉を、確認のために繰り返しました。
するとカシコさんは言いました。
「はい、そうです。あのおまんじゅうを食べましょう、と言いました」
やっぱり言ってた。
聞き違いではありませんでした。
「お、お姉ちゃん! いいねぇ! 食べていこうよぉ!」
屋台のおじさんは嬉しそうです。
「なぜ!? あれ、急いで集合場所に行こう、みたいな流れでしたよね?」
「はい」
「それで何で、まんじゅうを食べる、みたいな話になるんですか!?」
僕の疑問にたいして、カシコさんは答えました。
「あ、すみません…! 私、お金もふくめて、全部なくしちゃって…。だから、かわりにお金、払ってもらわなきゃいけないんですけど…」
いや、そこじゃない。
僕が注目してるのはそこじゃないです。
そう思いますが、彼女は気にせず、くりくりっとした目をこちらに向けて、言います。
「とにかく食べましょう?」
いや、買う前提で。
「どうしてそうなるんですか?」
するとカシコさんは、「何でそんなことが分からないんですか?」というような表情をして、言いました。
「だって、あの屋台のおじさん、さっき言いましたよね?」
「え?」
「『賢者まんじゅう、食べていきなよ! 合格間違いナシだぜ!』って」
「は、はい…」
「合格間違いナシですから、やっぱり食べないとダメじゃないですか!」
何それ!
ただの売り文句じゃないですか!?
え、冗談ですよね?
僕はそう思いましたが、カシコさんは『本気』の目をしています。
「そう! その通り! 合格間違いナシの賢者まんじゅうだぜ!」
おじさんは嬉しそうにニッカリと笑っています。
あんたも、うるさいです。
「いいから、食べましょうよ! だってここは賢者検定の街ですよ!? みんな賢いんですから、ウソなんてつくはずないですよ!」
そういう問題だろうか。
「いや、少なくとも自分は賢いと言い切れないですし、カシコさんも…いや、何でもありません…」
「とにかく食べましょう!」
カシコさんは、まったくもって引く気配がありません。
しかたない。買うしかないようです。
僕はサイフを開けて、おじさんに聞きます。
「いくらですか?」
「ほう…? あらためて聞くが、何で食べたいんだい…?」
何それ。
ここに理由必要ですか。
「『合格間違いナシ』だからです!」
カシコさんはキラキラした表情で言いました。
何の迷いもないようです。
「わはは! いいだろう! さぁ500ケン出しな!」
あ、ちなみに『ケン』というのは、この国での通貨です。1ケン=1円くらいの価値と思って間違いありません。言語に引き続き、日本に近いの、すごい偶然ですよね。
すなわちまんじゅう一個が500円なので、何にせよ高いです。絶妙に高い。
観光客用にぼってます。カシコさんが主張しなければ、絶対に買いません。
「一個でいいのかい?」
おじさんの質問。
カシコさんは満面の笑顔で答えます。
「二つお願いします!」
いや、僕のお金ですから。ただでさえ高いんですから。
「よかろう。ほらよ」
おじさんは、茶色くほっかほかのまんじゅうを、カシコさんと僕にくれました。
見た目はまったくもって、温泉まんじゅうです。
そこに「賢」と印字がされていました。日本語が通じますので、言うまでもなく漢字も同じです。
何にせよ結構ダサいです。
こんなまんじゅう二つのために、1000ケンも使ってしまいました。
こ、この美少女め…許さないぞ…!
「ボンさん、ありがとうございます! はい、あ~ん」
「!?」
カシコさんは、受け取ったまんじゅうを、僕の口に向かって持ってきてくれます。
え、すみません。
こんな行為、元の世界でも、してもらったことがありません。
「許す。すべて許します」
僕は思わず口にしてしまいました。
「えっ? 何言ってるんですか? はい、どうぞ」
「う、うん…」
彼女の手から、まんじゅうが直接口に入ります。
…。
おいしい。
いや、まんじゅうの味は、平凡な味です。普通に温泉まんじゅうと同じく、皮がこしあんを包んだだけの構造です。
僕くらい、いや僕以上に平凡な味です。
しかし、美少女が直接食べさせてくれたという行為が、このまんじゅうの味を、数倍、いや数十倍、数百倍に引き上げてくれています。
ふとカシコさんの方を見ます。
カシコさんは、真っ赤な顔をしていました。
えっ!?
まさか、僕にまんじゅうを『あ~ん』させてあげることが、彼女にとってここまで恥じらうようなプレイだったのでしょうか!?
そう思うまもなく、彼女の顔は、どんどん紅色に染まっていきます。
最初がサーモンピンクくらいだとするなら、どんどんトマト色に近くなり、さらに見ているうちに、ドロ黒い赤になってきています。
「んっ! んーーーっ!」
いやこれ、ノドに詰まらせてる。
「ちょっ! ちょっとぉ!」
僕は背中をダンダンと叩きます。
「かはっ!」
そんな声とともに、まんじゅうがいったん口内に戻ったようでした。
「はーっ! はーーーっ! し、死ぬかと思いました…!」
いやいや!
死ぬかと思ったのはこっちですよ!?
僕はそう思いながらも、とりあえず命が助かったことに感謝しました。
「何で噛まなかったんですか!?」
「い、いえ…。昨夜に寝込んでから、今朝も何も食べてなかったので、お腹が減っていて…。焦るあまり…」
アホです。やっぱりアホです。
すごい記憶力のときは一瞬アホじゃないかも、と思いましたが、やっぱりアホだと思いました。
そう思ったときです。
「んっ…!?」
僕の口の中に、何か違和感があります。
なんだこれ…?
まさか、異物混入…?
賢者まんじゅうのくせに、異物混入…?
いや、『くせに』か分かりませんが、なんかまんじゅうからも賢さを感じない、と思いました。
僕はあわてて口から出します。
よく見ると、小さく折りたたまれた、白い紙のようです。
アンコの中に入っていたようです。
「な、何だこれ…?」
「んっ…?」
その瞬間、カシコさんも、何か違和感があったようです。
「こ、これ…何かしら…?」
見てみると、やはり同じような紙を口から出しました。
美少女が口から紙を出す、という状況に不思議なエロチシズムを感じましたが、その思考自体が賢くないっぽい気がしたので、考えないことにしました。
しかしどちらにせよ、ふたりとも、まんじゅうに紙が入っていたようです。
「ちょっ…! 異物混入がすぎませんか!?」
僕は屋台のおじさんに抗議します。
しかしおじさんは知らんぷりをしています。何で!? なぜそこまで開き直れる!?
「ま、待ってください、ボンさん…!」
「えっ…?」
「ちょっと開いてみてください…!」
「は…?」
カシコさんに言われるままに、その紙を開いてみます。
そこには
『時間厳守』
と書いてありました。
何だこれ。
「こ、こっちは、こうです…」
カシコさんは、自分の紙を開いて、見せてくれました。
『この街の天気は変わりやすい』
そんなメッセージが書かれていました。
「……」
「……」
僕たちは顔を見合わせました。
あらためて、おじさんの方を見ます。
おじさんは、ニコッと笑いかけてくれました。
「あの」
カシコさんが、僕に向かって、口を開きます。
「これ、賢者検定のヒントなのでは…?」
(つづく)
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