第2話★女賢者が話聞かないって何ですか!?

状況を整理しましょう。

ここから読みはじめた、いや僕の話を聞きはじめた人のために、状況を整理します。


僕の名前は、平凡平(たいら ぼんぺい)。

あ、すみません。名前をネタにするターンは前回でやったんで、普通に受け入れてください。

とにかく平凡な人間です。

で、平凡な展開で異世界転生して、この世界で生きてます。


この世界には、普通とちょっと違った点がある…と説明しかけた時点で、美少女に矯正カットインされたんです。

美少女は「賢者になりたいんです!」と叫びました。


でもその美少女の顔には「アホ」と書いてありました。

矛盾しとるやん、と。


ここまでが前回です。


自分でも説明しながら、あぁアホっぽい話だな、と思います。

もしも前回から僕の話を聞いてくれた人がいたとするなら、よくまぁこの二回目まで聞きに来てくれた、と思いますから。感謝感激で涙が大洪水です。


で、まぁ、あらためて美少女の顔を見ます。

美少女さん、顔に「アホ」と書いてあるだけじゃありません。


正確には、顔の右頬に「アホ」と書いてあるんですけど、左の頬には、「はなまるマーク」が描いてあります。

あ、はなまるマークって、ご存知ですか?

あの、小学校低学年のコとかが、テストでできたときに、先生や親からもらうマークです。

ぐるぐるって○を描いて、最後の一周をぴょんぴょんと波打たせて描いて、花みたいに見せた、あのマークです。自分で描くと、意外に楽しいやつです。

あれで喜べるの、低学年までですからね。高学年や中学生になって、テストであのマークの答案が返ってきたら、「バカにすんな!」って思いますものね。


で、とにかくそんなマークが描いてあるんです。


すごい。

アホさをさらに高めてる。

本来なら「できる子」の象徴であるはなまるマークが、さらにアホさを高めてる。


なんかキリスト教とかで、「右の頬を打たれたら、左の頬を差し出せ」みたいな教義があった気がするんですけど、この異世界では「右の頬にアホと書かれたら、左の頬にはなまるマーク」みたいな教義があったりするんですかね。うん。ないと思います。

自分自身もこの世界で長らく生きてきたんですけど、そんな教義はないと言えます。


あ、すみません。年齢について説明してませんでしたね。

自分自身、現実世界で26歳で転生して、今は23歳です。


ね、どっちもどっちで平凡でしょ? 聞かなきゃ良かったでしょ?

何より26歳から、この世界に転生した時点で、よくある『現実世界の知識で異世界で無双』みたいなのをイメージする人も多いですよね。


でも、僕の場合、ぜんぜん違って。

何より、転生したのを思い出したのが、ここ数日ですからね。

突然に「ハッ!」って思いついたんですよ。

雷に打たれたとかそんな立派なキッカケとかなくって、単に朝ごはん食べてるときに「ハッ!」って。平凡ですよね。

もう何しても平凡。


あ、で、年齢の話ですよね。

ちなみに目の前の美少女は、17歳くらいでしょうか。なんか雰囲気的に。これはちゃんと個性立ってる。

まぁ自分自身、あっち(現実)でもこっち(異世界)でも平凡な人生だったんで、女性との縁なんてほぽないので、カンなんですけど。


「あ、あの! 話聞いてくれてますか!?」


美少女はさらに大声を出します。

耳を塞いでいても、鼓膜がキュインキュインするくらい、耳に響いてきます。

軽く歯医者のドリルみたいな感じです。


「あ、は、はい…聞いてます…。あの、すみません。声をもう少し小さ…」


「聞こえてなかったらすみません! 私、賢者になりたいんですっ!」


聞いてない。キミが聞いてないよ。僕の話。

そもそもこの時点でも賢者っぽくない。

賢者ってもっと、民衆の話に耳を傾け…的な存在じゃないですか。聖徳太子の、よりすごいバージョン、みたいな感じじゃないですか。


なぜキミは、それで賢者を目指そうと思ったのか。


いや、そんなことより、先に確認しておかなければいけません。


「あ、あの! ちょっと! 待って!?」


僕は思い切り大声を出して言いました。

そもそも声が小さい方ですからね。これくらい大声でやっと普通の人の声と同じです。

その瞬間、彼女は目をぱちくりさせて、言いました。


「しゃ、しゃべった!?」


『しゃべった』って何やねん。

人語を介さない生き物だと思ったのか。


僕の思いに気づいたのか、美少女は慌てて言いました。


「い、いえ…。ずっと黙ってらっしゃったので…」

「いやいや、しゃべらせてくれなかったからでしょう…!?」

「そ、そうでしたか…。すみません…っ! で、私、あの、賢…」


あ、またこのパターンだ。これ放置しちゃダメだ。


「賢者になりたいんですよね!?」


彼女が言い終わるより先に挟み込みます。


「!? ど、どうしてそれを!?」


脳みそがガシャポンの景品か。あのプラスチックのケースに入るサイズか。

自分で言ったからに決まってるじゃないかと。


「い、いえ…自分で話してたから…」


「あ、そ、そうでしたね! すみませんっ!」


いろいろな意味で、賢者と真逆な美少女です。

いえ、賢者という夢を語ってなかったら、ただのかわいい女の子で済むと思うんですが。

そんなのより、とにかく最重要なことを告げます。


「あの、賢者とか以前に、ちょっと見てください」

「は…?」


僕は美少女に、手鏡を見せました。

この世界の育ての両親が『そんなだいそれたことをしようと言うのなら、これを使って、せめて見た目だけでもマシにしなさい。多少は印象が良くなるから』と言われて渡されたアイテムです。


まさか自分の見た目とかより先に、少女の顔のラクガキを指摘するために使うことになるとは思いませんでしたけども。


「この手鏡が、どうしたって言うんですか…?」


そう言いながら、彼女は手鏡を覗き込みます。


「…え…?」


その直後。

みるみるうちに、彼女の顔が赤くなりました。

『アホ』と『はなまるマーク』の下地が赤くなったわけです。


「ななななな、何これぇ!?」


あ、気づいてなかったんですよね。やっぱり。


よし、これで

「万が一にも、自信満々に『アホ』と『はなまるマーク』を顔に描いている人」

じゃないことが判明しました。そっちはそっちで、ヤバいと思うんですけども。


彼女はしばらく慌てます。

そりゃそうです。うら若い女の子、しかも美少女が、いつのまにか顔にラクガキをされていたというこの状況。

自分でも慌てますからね。美少女なら、なおのことそうでしょう。


しかし。

彼女の口から出たのは、こんな言葉でした。


「そ、それでも…」


「えっ?」


「それでも賢者になりたいんですっ!」



そんなのより先に、早く拭け、と思いました。


(つづく)



【お礼】

読んでくださったあなた、本当にありがとうございます!

一瞬でも良いと思われましたら、

★とハートを一つでもいただけましたら涙を流して喜びます!

重ねて本当にありがとうございました!

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