女賢者がアホすぎる❤️~世界最悪のテスト【賢者検定】に合格せよ!

優勝

第1話★女賢者がその顔は何ですか!?


「私、賢者になりたいんです!」


息を切らせながら、そう大声で叫ぶ美少女。


その顔は、とんでもないことになっていました。




話は少しだけ戻ります。


僕の名前は、ボンです。

そもそものフルネームは「平 凡平(たいら ぼんぺい)」です。


うん。自分でもフザけた名前だと思います。

ただ、両親はフザけた意味でつけたわけではありません。


「何でこんな名前つけたの?」


幼いころに、父にこう聞いたことがあります。

「こんな名前」という言い方で、僕の心の中に燃え盛る、隠しきれないネガティブなニュアンスを感じたのかもしれません。

父は少しだけ切ない顔をして答えました。


「『凡』という字にはな、『すべて』という意味があるのだ」

「すべて…?」

「そうだ。すなわち『凡平』は、『すべてを平和にしてほしい』という願いをこめてつけたのだ」


父はそう言いながら、得意げな顔をします。

そしてヒゲを指でつまむ仕草をしました。


すべてを、平和。

しかし僕の人生は、間違っても平和じゃありませんでした。


この名前のせいで、からかわれたのは、十度や二十度じゃ、ききません。

しかも試験などでは、この名前のおかげで、逆に周囲からのハードルが上がるんです。


「平凡だけど、そう思わせて実は平凡じゃないんだろ?」

「すごい成績なんだろ?」


みたいな。

そんなワクワクした期待を感じるんです。


でもちゃんと、成績が悪いんです。いや、大したことがない成績なんです。文字通り、平凡なんです。

で、みんな

「平凡じゃねぇか」

「そのまんまじゃねぇか」

って思ってくれるんです。

いいじゃん! と。

だから言ったじゃん! と。

そんなふうに思うんです。心から。


就職の面接でもそうでした。

「キミ、名前…。ぷくくくっ…」

ウケます。

十中八九、ウケます。


あ、「十中八九」というのは、いや、たとえでもなんでもなく、リアルに十社以上受けたからです。

二社か三社で「十中八九」っておかしいですものね。ちゃんと十社以上受けました。そしてちゃんと、八社九社で、ウケるわけです。

話戻すんですけど、その会社で、人事部長がウケながら、聞いてくるんです。


「平凡…いや違った、平…凡平くん…。ぷくくくっ…。この会社を、志望した、理由は…?」


そう言われて、僕は頑張って、答えます。


「は、はい…。御社の企業理念に共感しまして」


その瞬間、人事部長の目がストーンと冷めて、こう告げてきます。


「キミ、言うことも平凡だねぇ」


いや、だからぁ!

だから平凡だって言ってるじゃん!

いや言ってないけど! 名前で主張してるじゃん!


…そんな気持ちになります。

「平凡と思わせて、そこからのぉ?」「実はぁ?」

みたいなの勝手に期待しないでほしいんです。本当に。


で、当然のように、落ちます。

面接の最初はウケるんですけど、僕の入社自体は受けてはくれないんです。

切ないですよ。


で、なんやかんやあって、今、転生してます。


いや、分かりますよ?

「なんやかんや」って、なんやと。

え、聞きたいですか? 本当ですか?

聞いて「平凡じゃん」とか言わないでくださいよ?


あの、トラックに引かれて、転生しました。


………。

ほーらぁ!

「やっぱり平凡じゃん」って声が聞こえた!

いや、しゃべってなくても、みなさんの心の中から響いてきた! ぐんっぐんに響いてきた!

だから言いたくなかった!


もうね、自分もまさか自分がこんなことになるとは、思ってなかったんですよ。

平凡とはいえ、何とか受かった平凡企業で、平凡な人生を歩んできただけだったんですから。


でもまぁ、とにかく転生してしまったのは、しょうがないと思います。


まぁね、確かに平凡な転生のしかたはしましたけど。それでも異世界転生すること自体は、平凡じゃあ、ないと思うんですよ。

みなさんも、異世界転生の話を、もう、さんっざんに聞かされてきたと思うんですけど、いざ実際に異世界転生した人って、います? いたら手をあげてー!


…うん。いないですよね。もしくはあなたの周りにいます? いませんよね?


そういう意味では、異世界転生自体は、レアだな、とは思うんです。ですので、それなりに前向きに生きることにはしています。


で、この世界。

いわゆる「剣と魔法の世界」なんです。

みんなね、剣と魔法を使って戦ってまして。

え、いやまた「平凡な異世界だな」って思いましたよね!?

いやいや、異世界の時点で平凡っていうのはおかしいと思うんですけど。


でもね、この世界、一点だけ、普通の異世界と違うところがあったんです。


実はこの世界は……


「あーーーーーっ! あのあの! 聞きたいんですけど!」


その瞬間です。

僕の耳に、突然にカン高い声が響いてきました。

響いた、というより、もう耳の中にねじ込まれるような。

ぶっとい針が耳に突き刺さって鼓膜を突き破るような。

そんなするっどい声が、ギュン! と右耳に飛び込んできました。あ、一応言っておきますけど、たとえです。リアルには鼓膜は破れてないです。良かった。


でも人間って、あまりの音がすると、何が起こったのか一瞬わからなくなるんですね。そのときに知りました。


「あ、あの! 聞いてもいいですかあああ!?」


さらに声は響きます。

これやばい。右耳から入ってきた声が、左耳に向かって出ていく。左耳の鼓膜もダメージを受けそうです。


ちなみに説明が遅れたんですが、この異世界、ちゃんと日本語が通じます。

言語がたまたま日本語とすごい一致している世界らしいです。すごい偶然ですよね。


何にせよ、とにかくその女子は、とにかく興奮して、何かを聞きたい、ということが分かりました。


「ちょっと…! ちょっと待ってください…!」


僕はあわてて耳を塞ぎ、深呼吸をしました。

ジンジンするけど、ギリギリ鼓膜は破れてないようです。良かった。

ちなみに耳を塞いだのは、さらなるダメージを避けるためです。


あらためて、僕は声の主を見ました。


目が吸い込まれそうなほど大きくて、鼻が小さくて、唇がつややかに赤い。そしてピンクのウェーブヘアー。

一言で言うと、かわいい顔をしています。


そして体。

胸ははちきれんばかりに大きく、それでいて腰がキュッと細い、素晴らしいスタイルです。

さらに白いローブを身にまとっており、なんともいえないセクシーさを醸し出しています。


えぇ。

文句のつけようがないほど、美少女でした。


ただ、一点だけ、すごい欠点があったんです。


「だ、大丈夫ですか…!? しゃべっても、いいですか…!?」


その美少女は、僕に確認してきます。

僕が返答する時間すらも惜しいのか、さらに言葉を続けました。


「あ、あの! わ、私…!」


女子は、さらに声のトーンを上げて、言いました。


「私、賢者になりたいんです!」



そう叫ぶ彼女のほっぺたには、大きな文字で「アホ」と書いてありました。



どう見ても、賢者に見えませんでした。


(つづく)

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