第三章

「ねぇ、何であんたみたいなヤツと紅葉くんが仲良くしてるわけ?」

いつも通り図書室に行こうとすると、自称・葉山紅葉ファンクラブ会員の女子グループに止められた。

「……。」

驚きすぎて言葉が出ない。

「何か言えよ、ブス。」

もう一人の葉山くんファンが言った。

「…あの、その、小説作ってて。」

私は勇気を振り絞って言った。

「はぁ?意味わかんない。とりあえず、紅葉くんの前から消えろ。」

そう言った後、なぜか私の頬をビンタして帰って行った。

私も帰ろうとしたけれど、あんなに言われたのに、なぜだか足が図書室の方に進んでいた。

扉を開けると、葉山くんが私の方に早足で来た。

「蝶花、何かあった?」

私の赤くなった頬を見て葉山くんは言った。

「……。」

『葉山くんのファンにビンタされた。』とは言えなくて、私は何も言えなかった。

「蝶花?」

葉山くんは私を心配するように私の名前を呼ぶ。

「……私も、物語の主人公みたいに、自分の意見がしっかり言える人になりたかった。」

口から出たのは、誰にも言えなかった本音だった。

私はこれまでにたくさんの本を読んできた。

でも、どの物語の主人公も明るくて、自分の意見がはっきり言えて、友だち・仲間がいた。

どれも私にはないものだった。

「ごめん。そんなこと言われても迷惑だよね。それに、私みたいに主人公にあこがれてる人なんて世界にはたくさんいるもんね。」

「そんなことない。これまでも、これからも、どんなに歴史の教科書とか資料集で調べたり、検索サイトで調べたりしても、蝶花は蝶花しかいないよ。みんな、一人しかいないよ。」

葉山くんはどこまでも優しかった。

すると、葉山くんは何かいいことを思いついたような明るい顔で言った。

「俺が物語にする。俺が蝶花を主人公にする。つくろうよ、二人だけの物語。」

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