第40話 偶然のランチタイム(2)

   *


「……だから、今日で理人から、連絡来なくなって、十一日めなんです」

「うん」

「なんで、理人、そんなふうになっちゃったのかな」

「そうねえ」

「……俊一さんに、お聞きしたいくらいです」

 茜音は、ごく真剣に話したのに。

 なぜか俊一は、途中から、笑いをこらえているような表情をするのだった。

「ていうか、茜音くん。……理人が連絡しなくなってからの日数を、わざわざ、カウントしてるんだね」

「え……おかしいですか?」

「おかしかないけどさ」

 そう言いながら、やっぱり、俊一は笑いをこらえている。

「だって、携帯の履歴とか見たら、日数なんて、一目瞭然じゃないですか」

「そうだけどさ。……ただの友達だったら、今日で十一日目、なんてカウントしないでしょ」

 そう言ってから、再度、「きみが『ただの友達』だったらね」と、強調してみせた。

 それから俊一は、ポケットからスマホを取り出した。

「茜音くん、今日の夜、九時ごろって、自宅にいる感じ?」

「九時ですか? ……いると思います」

「オッケー」

 そして、何やらダイヤルすると。

 スマホの画面を茜音に見えるように左手でささげ持ち、そして、右手の人差し指を一本、唇の前にたてて、「黙ってて」というジェスチャーをした。

 ──しい。何も、言わないで。

 俊一はスピーカーフォンにしたらしい。

 呼び出し音が鳴っている。

「──はい、理人です」

 ものの数回のコールで、理人が応答したのが、茜音の耳にも届いた。

「あー、俺。俊一。……ごめんな、急に電話して」

「どうしたんですか、こんな昼間に」

 ああ、理人の声だ。

 聞き覚えのある彼の声が、ごく普通に受け答えしている。

「理人、今日の夜九時ごろ、自宅にいる?」

「九時ごろ? あ、はい、いますよ」

「ひま?」

「ひまです」

 即答している。

「じゃ、夜、九時ごろ、電話したら、出られる?」

「ええ、いいですけど……俊ちゃん、どうかしました?」

 理人の怪訝そうな声。

「あのさ、理人。……悪いけど、今のこの電話、スピーカーフォンにしてんの」

 そう言って俊一は、茜音のほうへスマホを向けた。

「そんで今、俺、偶然、茜音くんと一緒にいるんだけど」

「え? ……茜音と?」

「そ。……で、この電話、スピーカーフォンだからさ。さっきの理人の言葉、茜音くんに、ばっちり聞こえてたから」

「……」

 理人からは、無言が返された。

 驚いているからか。

 それとも、気分を害しているのか……

「いいよ、茜音くん。喋りなよ、理人と」

 俊一は、茜音に、スマホの画面をさしだした。

「あの、……理人?」

「茜音? ……おまえ、どうして」

 理人の声は、確かに茜音に届き、茜音の声も、理人に届いた。

「そんじゃ、長くなりそうだから、これで切るわ」

 そのとき唐突に、俊一がダイアローグに闖入してきた。

「あとは、お若いおふたりで、夜九時に、ごゆっくり」

 そんな見合いの仲人のような口上を述べて。

「理人、おまえ、茜音くん、泣かすなよ?」

「……俊ちゃん、あの、」

「じゃーな」

 俊一は、あっさりと通話を切ったのだった。

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