閑話①&登場人物紹介①

 5月下旬のある日。


 最高気温は30度近くになり、さすがにすれ違う人々も夏っぽい服装に変わっている中、先週まで朝夕が少し肌寒かったため衣替えを延期していた俺こと清水陽向は、相変わらず長袖で外を歩いていた。


 隣で歩くのは、同じダンジョン攻略のサークルに所属する倉本ハジメ。

 ここ最近倉本とは、サークル活動日以外にも一緒にダンジョン攻略に行っており、大学で一番仲が良くなったと言えるであろう存在だ。


「暑いなぁ。まだ5月だぞ?」

「温暖化も進んでいるし、旧暦ではもう夏だけどね。でも清水くんは、まずはその格好をどうにかするべきじゃないかな?」


 そう言う倉本はすでに半袖姿で、衣替えを済ませていた。

 彼は今年上京してきた俺とは違って実家暮らしを続けているため、そういったところに母親が口うるさいらしいのだ。


 本人は親が大学生にもなって色々口出ししてくることを不満に思っているみたいだが、実家を離れ両親と別れて暮らす俺にとっては口うるささすら、うらやましく感じるものである。


「妹さん、もうすぐ帰ってくるんでしょ?何か言われる前に衣替えした方がいいと思うけど。」

「うっ。確かにそれはそうだな……。」

 

 そう、妹。

 プライベートのことを話すようになった倉本には、妹が能力者の雪であり、同居していることも話していた。


 ただ最近はサークルメンバーにも妹が雪であるということがどこからか漏れてしまったらしく、男女問わず友達として紹介してほしいという不届き者もいる。

 俺としては普段の行動を見る限りとても紹介したいとは思えず、断り方にいつも困っているところだ。


 そうこうしているうちに、大学からも近い目的地である攻略拠点があるダンジョンビルの前に着く。

 様々なものが充実しており、初心者にも優しいと評判のこの攻略拠点。


 俺も倉本もダンジョン攻略初心者と呼ばれる段階はすでに抜け出しているが、日本全体でも有名な人気の攻略拠点であるここが近くにあるのに通わないという選択肢はなかった。


「まぁ、そんなことは置いといて!今日はついにスライムの上位種に挑むぞ!」

「うん。僕も楽しみにしてたよ。今日は2人だけど、僕たちならきっと楽勝だよ!」


 そう。ここまで普通のゴブリンやスライムの上位個体相手の攻略を中心に進めてきたが、今日はついにスライムの上位種に挑むことを決めていた。


 とてもダンジョンのある建物の中とは思えない入り口までの人通りの多い飲食店がある道を進み、さっそく突入する。


 1時間ほどかけてスライムの上位個体を相手に入念に準備運動を行い、スライムの上位種が現れる可能性が高いエリアに辿り着いた。

 当然攻略本のスライムに関する記述は隅から隅まで読んだし、作戦会議も昨日の講義後にみっちりと行い、対策は万全だ。


 さっそく上位種であるスライムロードを見つけた俺と倉本は、緊張した面持ちで戦闘を開始する。


「さぁ、さっき決めた作戦通りに!」

「了解。」


 倉本の合図で、俺は剣を片手に飛び出す。

 倉本の言う作戦とは、とにかく俺がターゲットをもらって注意を引きつつ、倉本の魔法で体力を削り切るという、シンプルながら役割分担をしっかり考えた作戦だ。


「清水くんっ!?」


 もちろんスライムロードも突っ込んでくる俺に対してただ見ているだけでなく次々と魔法を放ってくるが、たまに当たるのは仕方ないことと割り切って、スピードを落とさずに走り続ける。

 ダンジョン内では痛みが軽減されているとはいえ、痛いものは痛い。


『ヒール』


 魔法に構わずに俺が突っ込める理由はこれ。

 倉本は回復の魔法をスキルとして獲得しており、ターゲットを定める技術も高い。


 ちらっと振り返り倉本を見ると、仕方がないなぁといった感じで笑いながら首を左右に振っていた。


 スライムロードも俺の行動は予想外だったのだろう。

 魔法を打ちやめて防御態勢を取ろうとするが時すでに遅し。俺は走る勢いそのままにスライムロードに剣を振り下ろした。


「よしっ。手応えあった。」


 俺が剣で戦いターゲットをもらう一方で、倉本が後方から『ウインド』の魔法を使って相手の魔法をそらしつつ、攻撃の機会をうかがう。


『ウインド』は強い風を吹かせるだけで攻撃力は高くないが、その代わり連発することが可能で、使い方さえ考えれば、このように効果的に使える魔法だった。


 そして10分後。


 次第に動きが鈍くなっていったスライムロードに倉本が炎の嵐を発生させるスキル『ファイヤストーム』をヒットさせ、最後は俺が剣でとどめを刺した。


 俺と倉本はハイタッチを交わし、お互いの健闘をたたえ合う。

 運よく宝箱が出現していたため中身を確認すると、そこそこの価格で売れそうな『炎剣』が獲得できるというスキル本だった。


「僕は、清水くんがこれを使うのもありだと思うけど。」

「う~ん。それだと俺と倉本で属性がかぶってしまうだろ?」


 先ほどの通り、倉本のメインの魔法は火属性魔法。

 基本的には同じ属性で固め、攻撃なら攻撃、回復なら回復、支援なら支援とスキルを統一した方がいいとされる中、倉本は今の段階では攻撃、回復、支援の魔法一つずつを選択している、いわゆる器用貧乏タイプ。

 これから先も倉本と一緒に攻略を進めたいと思っていた俺にとっては、自分の獲得するスキルを何にすべきか悩む原因ともなっていた。


 俺たちはスキル談義をしながら、攻略拠点への帰路につく。


「お。清水くんに倉本くん、だったっけ?君たちも毎日頑張るねぇ。」


 人気が高く、それだけに攻略者数の多い場所ではあるが、さすがに毎日通っていると受付の人にも顔と名前を覚えられてきたようだ。


「さ、今日はスライムの上位種に挑んだんだったっけ?」

「はい、セイラさん。お願いします。」


 俺が提出した『炎剣』のスキル本を見て、やや驚いた顔を見せるセイラさん。


 まだこの頃は、相棒になりつつあった倉本とのダンジョン攻略が上手く行かないわけがないと信じて疑わなかったのだ。



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【これまでの主要な登場人物紹介】

 ・清水陽向

 主人公で大学2年生。

 地方から上京し、能力者である妹、雪と同居生活をしている。

 趣味はダンジョン攻略で使う武器は剣。

 サークルを脱退してからソロで挑むようになったが、それでも上位個体や上位種を楽々攻略する姿を度々見かけられ、彼のホームの攻略拠点では攻略者の間でちょっとした噂になっていた。

 オークエリアでのゴブリンジェネラルとの戦いの際に能力が覚醒した。


 ・清水雪

 主人公の妹で高校生。

 5年前、ダンジョンが発生した時に12歳ながら能力に覚醒し、後のダンジョン協会となる組織に保護される。

 今ではダンジョン協会の最強の一角として、その容姿や彼女が使う氷魔法の美しさから、アイドル的人気を誇っている。

 兄である陽向とは良好な関係で、自分の方が強くても何かあったときには兄が守ってくれると信じて疑わないでいる。


 ・セイラさん

 陽向がホームとする攻略拠点の取引所で受付として働いており、陽向がサークル関係で悩んでいた際には相談にも乗っていた。

 セイラさんに言わせれば陽向は『期待のホープ』で、いずれは攻略組と勝るとも劣らない存在になることを確信している。

 陽向の妹である雪とも仲が良く、陽向の普段の様子はセイラさんから雪に流れているらしい。


 ・マスター

 ミツハルさんとも呼ばれる。

 攻略拠点へと続く洞窟のある建物、通称ダンジョンビルの道を挟んだ反対側の建物の1階で喫茶店を経営するオーナー兼マスター。

 コーヒーだけでなく料理もおいしい喫茶店は、昼夜問わず人が多い。

 比較的人の少ない時間に頻繁に姿を見せる陽向と少しずつ話すようになり、一緒にダンジョン攻略に行ってからは歳の差はあるとはいえ友達のような存在。

 いや、もしかしたらマスターは陽向を子どものような気持ちで見守っているだけかもしれない。

 ガタイが良く強面なことから、初めて見た人は近付かないような見た目だが、人柄の良さから色々な方面の人からの信頼がある。



 ↓↓↓以降、物語とは関係性の少ない作者の独り言です。ご注意ください。

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【第一章あとがき】

 これにて第一章は終了となります。

 ここまでお読み頂いた皆様には心から感謝しています。


 執筆の原動力ともなりますので、まだされていないという方は、フォローや評価を頂けると非常に嬉しいです。

 感想の返信は気まぐれですが、必ず目を通すようにはしています。ありがとうございます。


 これからもよろしくお願い致します。


 2023/3/30


 

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