第23話 ともだち
エルガノン東四番街にてシズク、ココロと合流して一日が経つ。
ベルフェゴゥルが我々を殺したと報告していたとしても、フロウズの喪失が起因となって新たな追手が現れる可能性もあるだろう。そんな、いつ起こりうるかも分からない戦いに少々の迷いはあれど、今はこの平和が続けと願うばかりであった。
「すまん、ライア。私とシズクはエルガノンの上層に呼ばれているので留守を頼みたい」
おおかた、我々の到着をアグニが上層に伝えていたのだろう。元ザスディアとして国交に面識のあったカルトレアとシズクは、エルガノンとこれからについて談義をするそうだ。
ココロは今日も今日とて、例の友人の家へ出かけてしまった。既に日は暮れつつあるものの、すぐに帰ってくるだろうとため息一つと共に留守番と洒落込む。
それに、もしアストラルの回復が想像以上に早ければ、いつあの二人が現れてもおかしくはない。そんな期待も抱き、一人ベッドで暇を潰す。シズクの残した、経済誌を硬い頭で読み進めていった。
ふと、喉が渇く。エルガノンは豊穣の地であるため湿度は充分なはずだが、やはり季節や時間による変化は身体に渇きをもたらす。キッチンの小さな瓶に秘めた水分を求め、経済誌を置いて立ち上がる。
昨晩は、とても賑やかな光景だった。それに対比するよう、静かな空気が異様に物寂しさを描く。
腰の辺りに、何かが触れた。呼応するよう、木製の床へと落ちる音。何かにぶつかったようだ。
振り返った先、そこにはまたしても一冊の本。シズクが居るところは、いつも本に溢れている。などと考えていたのだが、どうやらこの主はシズクではないらしい。可愛らしいディテールが彫られた日記帳、裏表紙に、ココロの名が記されていた。
申し訳ないことをした。すぐさま拾い上げるも、ページが開いてまっていたため中身が見えてしまった。まだ、記し始めて数日といったところか。
「今日はエルガノンに来て初めての友達ができました。シークちゃんです。昨日、街で出会ってお家に招待してくれました。シークちゃんは料理がとても上手です。振る舞ってくれたシチューが絶品すぎて、二回もおかわりしちゃった。お陰で晩御飯食べれなくてライアに心配かけちゃったみたい。そういえば、ココアちゃんは具合が悪くて病院にいるみたい。大丈夫かな。」
先日の内容だった。
ただ。彼女の内面、考えていること、それ以上に、あまりにも目を疑うその文字列に。違和感などではない。胸騒ぎ、嫌な予感、それよりも、胸糞の悪い妄想に心臓は加速する。
日記を閉じ、小屋の鍵を片手に戸を開け放つ。あまりに焦っていたせいだろうか。鍵を持ち出したのに、閉めるのは完全に忘れていた。だが今は、それ以上に息を切らす事しかできない。
この広い、エルガノンで。なんのヒントもない、ただ二人の人間を探せなどと。焔を出す事しか出来ない自身に、そんな事が可能なのだろうか。
日は暮れつつも、人通りは減らない。国の中心に近いというだけあって、賑わうばかりだ。そんな有象無象を掻き分け、手当たり次第の顔を探す。よそ見の最中に、何度も人とぶつかり続けた。
ふと、首の後ろをがっしりと捕獲される感触に、襟が首を絞める。切れる息をよそに、その主を求めて振り返った。
「危ねえな、何してんだお前」
カルトレアも、シズクも、アストラルも居ない。この状況で誰かの助けを借りられるというのなら、こいつしか居ないだろう。あまりの偶然に、感謝する。
「レクト……」
「最近よく会うなぁ」
呑気に耳へ小指を突っ込むレクトの二の腕を両側からしっかりと掴み、真剣な眼差しを向ける。この件は、双方の利害を一致させるだろう。
「東四番街にシークが居る……俺の家族が危ないんだ、力を貸してくれ‼︎」
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