第22話 再会

 エルガノン東四番街。一番街とそこまでの差はないように見えるが、国の中心に近いともあって人の数が多い。そんな中、二人の影を探して歩き回ることにした。陽は落ち、既に灯りが灯り始めている。

「しかし情報を隠すためと言えど、四番街もなかなかに広いな。シズクとココロは何処にいるのか……」

 観光名所でもないので、手頃な場所に地図はなかった。カルトレアの青龍でさえも、二人とすぐに合流できる未来は見えていないらしい。

「とりあえず、俺は宿屋を探して回る」

「いや、一度国の衛兵たちから情報を聞き出そう。ミヤビと同じように、何人か顔馴染みが居る筈だ」

 確かに、シズクが国との交渉の結果エルガノンへの亡命を許されたと言うのなら、国からの情報が鍵になるだろう。眼前にあるヒントを使わないという手はない。

「よし、エルガノンの国旗を背負った奴を探すぞ。この時間ならそこらに居る」

 見渡す景色に、多くの人々が行き交う。その中に、国を背負う者の影を探して目を回した。ふと、長身の男がエルガノンの国旗を背負い、剣を携え辺りを見回している。この地域の見張りといったところか。

「カル、あいつか?」

「お、丁度良いところに。知ってる顔だ」

 カルトレアと二人、見上げるほどの巨体へ近付き、眼前に立つ。衛兵の男も気が付いたようで、こちらへ視線を落としていた。

「久しいな、アグニ」

「ん、なんだお前……ってカルトレアじゃねえか」

 アグニと呼ばれた男は、カルトレアとの対面に、興味のなさそうな返答を落としていた。ザスディア崩壊を前提とした再会に、もう少し驚嘆をこぼしたりするものかと思っていたのだが。

「色々あって、エルガノンに亡命した。シズクに会ってないか?」

「あぁ、ガキと二人で国が提供した小屋に住んでる。お前らが来たら案内しろって伝えられてるが……一人足りねえな」

 シズクが伝えた通りなら、アストラルもこの場にいたはずなのだろう。だが、来たる日まで合流はお預けとなっている。

「色々とあったんだ。とりあえず、よろしく頼む」

「……まぁ、いいけどよ」

 

 

 アグニに連れられた小屋は、図書館よりも小さいが、それほどまでにチープなものではなかった。

 持ち場へ帰るアグニを見送り、その引き戸に手をかける。

「お、丁度二日で着いたな」

 雑誌片手に、こちらへ笑うシズクの姿があった。あまりにも、久しい。二日程度と思えば短く感じるが、中途に色々とあったのだ。仕方がないだろう。

「ライア、カル‼︎おかえり‼︎」

 鍋を両手に抱え、ダイニングへどすんと配置するココロがこちらへ叫ぶ。もはや、いつしか家族と同等になっていた面々との、再会である。

「あぁ、ただいま」

「カル、無事だったか?」

「……みんなのお陰でな」

「とりあえずご飯食べよう?冷めるよ‼︎」

 既に、懐かしさが満ちている。暖かな家庭に、帰ってきた様だ。知らない家の中だが、それぞれの顔が懐かしさを作っていた。

 ココロの作ったシチューが、食卓の真ん中に陣取っていた。エルガノンに来て初めて出来た友人が振舞ってくれたものがとても美味しく、再現したくて今晩のメニューを決めたとの事だ。

「ところで、アストラルはどうした?」

「少し疲労が溜まっていたらしくてな。ミヤビの元で療養して貰っている。数日でこちらに来るらしい」

「そうか、ミヤビなら安心だな」

 カルトレアとシズクの会話に、唯一ミヤビを知らないココロが首を傾げていた。自身は苦笑を溢しながら、ひとつ、ココロに問う。

「ココロは食べないのか?」

 彼女の眼前に、器は存在していなかった。何故なのか、理由を求める。

「実は、お昼にその友達の家で食べすぎちゃって……二回もおかわりしたんだよね。だからお腹いっぱいなの」

 少し恥ずかしそうに、ココロは笑っていた。

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