第15話 『白虎』
しっかりと、意識があると理解をしてから数秒。起き上がり、辺りを見渡す。木造のコテージに似た、簡易の宿泊施設のような光景が広がっていた。丁寧にかけられた布団を見て、事の成り行きを思い出す。
エルガノンへ向かう道中、ギガノスの刺客ベルフェゴゥルからの襲撃を受ける。アストラル、カルトレア、そして自身の三人、手も足も出ぬまま毒の針に貫かれた筈だ。その後のことは分からないが、とにかく生きている。これだけで、安心と胸を撫で下ろすことができた。
「お、起きたみたいだね」
言葉のする方向へ。階段を登る音と共に現れた、一人の青年が居た。その背後には、心配を見せるカルトレアの姿もある。
「ライア、無事でなによりだ」
「まぁー、結構危なかったけどね……死んだらどうしようもないわけだし」
「あぁ、有難うミヤビ」
カルトレアが名を呼ぶ、その青年。美しい白髪を靡かせ立ち尽くし笑う。
「そうだ、遅れたね。ボクはミヤビ、エルガノン衛兵団の派遣監視員だよ」
ミヤビは語った。ここら一帯を占めるエルガノンの森林地帯『マリウル』にて、監視を行う役職を担っているそうだ。ザスディアがギガノスに侵略され、外部からの襲撃に備える姿勢が強くなっているという。
「ミヤビさんが助けてくれたんですか……?」
「一応野生モンスターもたまに沸くからね、見回りしてたんだけど、ものすごい叫び声聞こえてきたんだ。ボクじゃなかったら危なかったね」
そう言って、また笑う。カルトレアがミヤビに向ける視線が、なんとなく呆れを帯び始めていた。
「ミヤビは起源魂『
カルトレアは表情を変えず、説明を垂れ流す。エルガノン衛兵ということと、恐らく歳が近い。雑な反応などを見るに、カルトレアとミヤビは、元々互いを知っていたのだろう。
「そういや兄貴は……?」
ふと思い出すように、見渡しても、見つからない。アストラルが一番ギガノスに反感を買っているという事実が、不穏で胸を埋め尽くした。
「アストくんは、二人とは溜まってる疲れが桁違いだった。だからしばらく療養させとこうと思ってね、別室で寝てもらってる」
ミヤビの言葉に、ひとまずの安心を覚える。しかし、二年近くも洗脳を受け、その力を略奪やらに使い続けていたのだろう。身体的、精神的に持つダメージは、我々には計り知れない。
「さて、カルちゃんどうしよっか。アスくんこっちで預かっとく?」
「そうだな……遅かれ早かれ、私達がまだ生きているとバレればギガノスとの全面戦争は眼前だ。その際絶対に巻き込まれるアストラルの体力は万全にしておいた方が良いだろう」
結論へ。自身とカルトレアはエルガノン東四番街へ向かい、シズクとココロに合流する。その間、森林地帯マリウルにてアストラルは療養。完了次第、四番街にて全員合流の予定だ。
「了解。アスくんはボクが責任を持って送り届けるよ。多分、完治まで二日くらいだと思う」
「……よし。もう少し休んだら行くか」
カルトレアは、自身の身を労っている。彼女も同じくして、毒の恐怖に溺れていた筈だ。こういった面も、未だ、師とは程遠いと感じてしまう。
「あ、そうだ。これ持って行きな」
ミヤビは、突拍子もなく思い出したように、戸棚を漁る。その手に握られた二本の瓶には、薄い緑をした液体が入っていた。
「『
至れり尽くせり、ミヤビのご好意に甘え、万全で旅の準備を始める。いよいよもう、元の生活には戻れないだろう。
だが、それならば、我々はギガノスを討つしかない。退路の絶たれた道に建つ壁を、破壊しながら前へ進むしかないのだ。
「それじゃあ、行ってくる」
「ミヤビさん、兄貴を頼みます」
「うん、任された」
カルトレアと二人、また、新緑の道とも呼べぬ道を歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます