第13話 残された暗号

 図書館へ向けて、新緑を掻き分ける。ギガノス勢力に拠点を把握されているというのはどうしようもない事実、今後、あの場所で生活など出来る気はしていない。

「ところで、アストラル……だったな。私は君にすごく見覚えがあるんだが、どこかで会っただろうか?」

 三人肩を並べ、何気ない言葉が飛び交う。カルトレアの疑念が、首を捻らせた。

「いや……どうだろうな。ただ俺は元ザスディア国民だ、アンタの事はよく知ってる」

 若くして衛兵にて実力を見せていた彼女の事は、ザスディアだけならぬ隣国の民なら知らない人の方が少ないまである。だからこそ、ギガノスに目をつけられブラキュールという刺客が現れたのだろう。

「そうか。いやしかし、本当に何処かで……」

 そんな話をしているうちに、第二の故郷が姿を見せる。幸い、焼き討ち的な事にはなって居ないようだ。一安心を抱えて近寄るうちに、ひとつ、異変を見た。

「あれ……誰も居ないのか」

 シズクと一緒にいるといえど、この図書館に戻ればココロがまた危険に晒されていたかも知れない。それは百も承知なのだが、それならば、一体何処へ向かったというのだろうか。

 カルトレアが、ドアノブに触れる。どうやら、鍵がかかっていないようだった。不用心なものだ。いつも通りの扉を潜り抜け、帰宅を済ませた。

「えぇ……」

 扉の先。いつも最初に目に入るのは、綺麗に陳列された本棚の数々。しかし、それらが乱雑にばら撒かれ、辺り一面が本の海と化していた。

「まさかギガノスに先手を打たれたか……」

 動揺を見せるアストラル。しかし、襲撃にしては乱雑さが物足りない。窓ガラス、調理器具、植木鉢、と。本以外は、一切が荒らされた形跡を残していなかった。

「これは……シズクのトラップか」

 恐らくシズクは、我々にだけ伝わるメッセージをここに残している。万が一ギガノスの追っ手が来た際、そのメッセージが見つからないよう撹乱させるため、わざと本を撒き散らしたのだろう。

 ふと、キッチンの方へ目を向ける。積まれた皿の横、とても見覚えのある本がぽつんと姿を見せている。シェルデンとの戦いに使った、武器の本が置かれていた。

「二人とも、あったぞ」

 カルトレアとアストラルが、キッチンへ集結する。二人の見守る中、武器の本を開き、ぱらぱらとページを巡っていく。

 七十二、二十四、五十一のページに、なにやら文字の記された紙が挟まっている。真意は見えず、何の意味もない文字列だった。

 これら全て、シェルデンとの戦いに用いた盾、クロスボウ、鎖鎌が描かれたページである。

 挟まっていた紙を取り出し、テーブルの方へ並べあげる。シズクがシェルデンとの戦いで使った順に、武器のページを並べ替えてみると、その羅列は縦読みで意味を示し始めた。

 

『えるがのんひがしよんばんがいにてまつ』

 

 エルガノン東四番街にて待つ。

 エルガノンとは、元ザスディアの隣国に位置する国家。農林水産業が盛んに行われ、食物の貿易市場を支配していると言っても過言ではない自然の国である。

「エルガノン東四番街……徒歩なら、二日といったところか」

 自然の国と語るだけあり、国土の半数以上を森林や湖で固めている。徒歩で人の居る街へ向かうのは中々難しい旅路になりそうだが、なによりも、きっとシズクもココロもカルトレアに会いたがっているだろう。ヒントを残してくれたシズクに、この本も返さなくてはならない。

「……行こう、エルガノン」

「勿論だ」

 

 目指すは、自然の国エルガノン。

 またしても、先ほどと同じように三人。肩を並べ、新たなる舞台へ向けて一歩を踏み出す。

 

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