第12話 決着
「まあでもな、それじゃあつまらねえ。一回だけチャンスやるよ」
ブラキュールの、勝利を確信したような顔。吊り上がる口角は、底知れぬ不穏さを見せている。奴の真意に一体どのような意図があるのか、一切の理解が出来なかった。
「一発だ。一発だけ殴られてやる。それで俺が気を失ったらその間に好きにすればいい。ただし、俺が意識を保ってたらその場でトラップを起動する」
一発の攻撃で、ブラキュールを沈めなければならないと。無謀に等しい。そんなものが出来るなら、最初の不意打ちでどうにかなっていた筈だ。
などと、考えている。とでも思っているのだろう。
「……やってやるよ」
拳を構え、ブラキュールの脳天に照準を合わせる。この一発に、攻略の全てがかかっているのだ。
全力を振り抜き、全ての感情を乗せるように。打ち込んだ拳は、ブラキュールの脳天へ。
しかし、やはり言葉通りには動いてくれなかった。こんな敵が、正々堂々なんて言葉に意味を持たせるとも思えなかったのも事実だが。
拳は、甲高い音を響かせた。ブラキュールの顔面を覆うように、血の盾が錬成され、その一撃を受け止めていたのだ。
「テメッ……ふざけやがって」
「馬鹿正直に殴られるわけねえだろぉ。人質取られた時点でお前らは負けてんだよ」
血の盾は崩れ、液体となってブラキュールの体内へ戻っていく。気色の悪い笑みと笑い声が、一室の環境を支配していた。
「ライア、お前……‼︎」
カルトレアの、迫真の声が届く。眼前の作戦失敗を見届けた、一人の虚しい叫びだろうか。威勢よく飛び出そうとするその身体を、アストラルに抑制されていた。
「あーあー、残念でしたぁ。お前らの妹?か知らねえけど、次会った時は残骸だなぁ」
ブラキュールは、笑い転げたのちにカウントを始める。ココロの命を奪うための、絶望へのカウントだ。
「さぁん、にぃ、いちぃ」
「クソッやめろッ‼︎」
眼前の男は、命を散らす瞬間までも。ただ、同じ笑みを浮かべているだけだった。
「ぜぇろ‼︎」
刹那、自身以外の誰もが、場に起きた一部始終に眼を見開いていた。
ブラキュールの身体の至る所から、血の塊で錬成された棘が生えてきたのだ。数え切れぬほどの風穴を開けたその男は、己の身に何が起きているのか、それすらも理解できないような顔で、絶叫を繰り返していた。
「はっ……はぁぁぁ⁉︎なんっ……なんで俺の……ゔぉ⁉︎」
血を操る魂。強力な力といえど、この量の穴は止血出来まい。それに、恐らく体内器官もかなり欠損しているだろう。
「ライア、お前何を……」
アストラルは、問う。恐らくブラキュールが一番知りたいであろう、この作戦を。一から、隅々まで語った。
「ココロに付着していたトラップ……それを回収して、ブラキュールの体内に戻した。馬鹿正直に、殴られてくれなかったおかげで楽に返せたんだ」
「テッ……あのときか……‼︎」
一発、殴らせてくれた。その血に、トラップのカケラをくっつけておいたのだ。ブラキュールはそれが自分の血だと、疑いなく体内へ戻してしまった。自分自身で作った罠に掛かるとも思わずに。
「ごめん、二人とも。驚かせたよな」
「いや……私こそすまない。心配をかけてしまって」
散り行くブラキュールの残骸をよそに、師との再会を果たす。実に数時間程度の戦いだったが、とてつもなく、長い旅路だったと感じられる。
「さて。追手が来るかも知れねぇ、早く逃げるぞ」
「あぁ」
アストラルの言葉の通り、これはギガノス全体を敵に回す侵略行為とも捉えられる。今はひとまず、この城を飛び出してシズクとココロに再開するとしよう。
人気の少ない方へ、ひたすらに、いつもの図書館を目指して駆けた。
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