Invisible hearts
蒼野 翠莉
第1話
俺の内心が共感されているかのように、今日の天気も厚い雨雲に覆われていた。ここ最近、世界が灰色でモノクロのように映る。俺には、もはやこの状況が天気の為に皆と同様であるのかを判断する余裕すらなかった。
いつもの塔の2階から暗い街を見下ろしながら、俺は霞んだ目で煙を吹かしながら当時まだ高校生だった自分の思い出に耽るのだった。
上司『 またか!! 何度説明すれば分かる!そんなふうだから、いつまで経っても仕事が出来ないんじゃないのか?気持ちが、努力が足りないんだよ!!学生だから、アルバイトだからって許されると思うなよ!?』
『 ………………はい。すみません、、。』
そもそもアルバイトで安い給料しか払わないのに、正社員と同じ働きをする方が無理があるだろう。今日なんて日曜なのに休憩なく、時給も県の最低賃金以下で一日中労働だぞ?
普段誰もいない、それなりに綺麗な塔を秘密基地にしていた僕は、この場所を気に入り疲れたり思い詰めた時によく来ていた。高地にそびえ、街が一望でき、珈琲やジュースを飲みながら落ち着くのである。夜景も美しく、たまに塾帰りに寄ったりもする。
『 ……そろそろ違う仕事でも探そうかな…』
流石にここまで条件の悪い労働環境で何度も叱られてしまうと凹むものだ。冬の肌寒い風が僕を嘲笑うかのように吹き付けてきた。高地にそびえる塔でコンクリート製ということもあって普段からそれなりに寒いが、今日は特に冷える。まるで社員の僕に対する普段の対応みたいだ。最悪だけど。
とはいえ、僕の学校は地域で言う進学校(とは言っても有名大学が1年に1人出るか出ないかの自称進学校な訳だが)であり、当然アルバイトなど許可されていない。教師に見つかろうものならかなりお叱りを受ける。
近くにありながらも飲食店等と違って教師が訪れる心配も薄いこの職場にしたのはその為だ。僕は特段お金に困っている等の理由がある訳では無いが、裕福な家庭でも無いために、それなりに進学の資金を貯めたかった。
『 まぁ……それなりに貯金出来たし、充分と言えば充分か……これ以上アルバイトだけに時間割くのも本末転倒だし。』
高校2年の終盤に差し掛かっていることもあり、そろそろ本格的に受験勉強をせねばならない。というか、学校で強いられるだろう。そろそろ資金より時間に投資をしないと、せっかく貯めた資金も全く持って意味を成さなくなってしまう。
『 ……やば、、そろそろ塾行かなきゃ。』
僕は塔の階段を踏み外すことの無いように慎重かつ素早く駆け下りると、近くにある進学塾に向けて歩き出した。
Invisible hearts 蒼野 翠莉 @aigyokusui
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