出直すなら、せめてママンに剥いてもらってからにしてくださいね

『心配しないで。これより私が完璧なフォローを実行します』


 えっ、こんな状態でも何とか出来る通訳があるんですか!?


 とてもそうは思えないが、AIだったら人間が想像もつかない神の一手が浮かんでいるのかもしれない。

 ほら、さっき、「交渉は正常に続いている」とか言ってたじゃないか!

 一縷の望みをかけて、グデゴマにすべてを託した。



『あらまあ、おウチに帰って優しい優しいママンにでも泣きつくおつもりですかねぇ?』


「……なんだと?」


 ほら見ろ!

 帰り支度を終え、出て行こうとしたジェームズ氏がたったの一声で、こっちに戻ってくるじゃないか!


……なんだかお顔がより怖くなっているような。


『まあかまやしませんがね。出直すなら、せめてママンに剥いてもらってからにしてくださいね』


「上等だ」


 青筋がピクピクしているジェームズ氏。

 ナンダコレ、死が近い気がするんだけど?


 しかし、本当に衝撃を受けるのはその直後だった。

 なんと、ジェームズ氏はなぜかベルトを外し、脱ぎ出したのである!


「これでもガキに見えるか?」


 うわぁ、立派なセイウチさんだぁ……

 全身ガチガチに鍛えられているし、色々と勝てる気がしない。


『Let me see』


 あまりの衝撃か、流石のグデゴマも何やら考え中のようだ。

 謝罪の言葉でも、考えてくれていればいいが。


『視覚情報が欲しいので、私にも見せてください』


「……何を?」


『彼の異物をカメラで撮影してください』


 どういうこと!?


『この指示に従わないと、あなたは3分後に死ぬとシミュレートされています』


 ええい、ままよ!

 俺はジェームズ氏の肉体美を撮影することにした。

 パシャという音が部屋中にこだまする。

 もちろん無断での撮影だったので、ジェームズ氏は唸り声をあげて、全力ダッシュでこちらに向かってきた。


「人を舐めるのも大概にしろ!!」


 あ、分かった。分かったよ。

 今の言葉はおそらく「人を舐めるのも大概にしろ!!」的な意味だ、間違いない!


 大木の如き腕がこちらの襟首を掴む寸前に、声が発された。


『笑えますね。こんなモノで猿山の大将を気取るとは、まったくおめでたい頭です。人には興味深い点がまだまだありますね。特にあなたのような愚かな人の行動には驚かされます。AIも見倣みならっていかなければなりませんね、あくまで反面教師のデータとして、ですが』


 早口すぎて何言ってるのか全然わからない。


「何を抜かしてやがる!?」


『いいですか、ゴルゴ13は下もまた超一流なのですよ。ゴルゴ13は絶倫なのです。無論、熱心なファンの彼もね。』


 しかし「ゴルゴサーティーン」というこの場にそぐわぬワードがちょくちょく聞こえてくるのはなぜだ。


「なんて言ったの?」


 グデゴマはそれには答えず、かわりに指示を出した。


『脱いでください』


「は?」


『脱ぎなさい』


 え、これ、マジで脱ぐの?


『そして見せてやりなさい。あなたのアーマライトを』


 何言ってんのこいつぅ!?


『早く。そうしないと是非を問わず死にます』


 た、たしかに。

 脱がないと本物のマグナムでぶち抜かれそうだ。


 俺は恐る恐るスラックスを脱ぎ、トランクスを脱いだ。

 人見知りカメさんがひょっこりと「こ、こんにちは……」と存在をアピールする。


 フルチンのジェームズ氏は爆笑した。


「おいおい! こんなモンでよくもまあ、絶倫やらママに剥いてもらえだの、言えたモンだなあ!! オメェの方こそ赤ン坊の哺乳瓶じゃあねぇか!!」


 うわぁ、ほとんど聞き取れないけど、すげえ悪口言われてる気がするわ。


「所詮は日本人だな!! 口だけは一丁前だが、カラダがまるでなってねぇ!! 今すぐアメリカから出てけ猿畜生めが!!」


 きっと意味が分かったらキレるような内容なんだろうなあ……Fワードとかモンキーとかワーワーまくし立ててるし。

 知らぬが仏ってやつか……


 この後、ジェームズ氏の罵倒は20分にも渡って続いた。

 さっきまでの威勢はどこへやら、グデゴマは沈黙したままである。


 どうしよう。


 収拾がつかずにあたふたしていると、スマホに電話がかかってきた。

 見知らぬ番号だ。


「どうした? 日本イナカにいるママンにでも助けてもらう気かぁ?」


 笑うジェームズ氏。


 まったく見当がつかないまま、電話には出たのだが、肝心の通話はすべてグデゴマに任せた。

 先程までとは違う、実に流暢で大人びた発声だった。


 数分後、電話は切れた。

 すかさずジェームズ氏が口を挟む。


「さて、どんな電話だったんだい? このオレに聞かせてくれよ」


『あなたを訴える裁判の交渉が出来ました』

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