あなた様ほどの能力であればすぐに分かること


 こうしてジェームズ氏との交渉が始まった。


 先程のグダグダもあったのでどうなることやらと思ったのだが、意外や意外、スムーズに進んでいくではないか。

 何が話されているのかはさっぱりだが、流暢に会話出来ているように見える。それに加え、グデゴマの声は聞く人が安心感を持てるように最適化されているらしいのだ。

 向かいにいるジェームズ氏の顔色も穏やかに見える。


 上層部が出してきた胡散臭い話「AIの通訳聞いてメモるだけでカネが貰える(よっ、この給料泥棒!!)」だったが、現実味を帯びてきた。

 AIの能力に感銘を受けつつも、どことなく寂しさを覚える自分もいた。


 凄いなあ、だけれど……


『FXCK』


 ん?

 今、こいつ小声で「Fワード」言わなかった?


 そんな俺の違和感とは関係なく、交渉は進んでいく。


「ですから、その提案には添いかねます。御社の期待したいことは分かっていますが、こちらもビジネスですのでより条件の良い会社と優先して提携する方針となります」


『どうにも誤解をしているように感じFXCKられます。あなた様ほどの能力であればすぐに分かることだとFXCK思うのですが。ともに協力して今後の発展に向けFXCKた体制を』


 ちょくちょく混じってる気がするんだが……

 しかも、声が徐々に大きくなってない?


「Fワード」に気付いたのか、それとも言っていることがそもそも何かおかしいのか、ジェームズ氏は大仰おおぎょうに肩をすくめた。


「あなたと話していても、一向に話が進まない。そこにいる超一流の暗殺者さんに代わってもらってもいいですか?」


『まったくFXCK。死刑に処されるべきだと存じます。あなた如きでは彼と話をする権利はありませんよ。身の程をわきまえなさい』


 グデゴマの発言の直後、ジェームズ氏は思いきり握りこぶしを机に叩きつけた。

 流石にわかる……絶対、ヤバい。


「やめてグデゴマ、やめてくれ」

『やです』


 !?


『大丈夫です。交渉は正常に続いています』


 これで正常なの……?


 完全にご立腹に見えるんだけど。

 何かをぶつくさと言いつつ、人差し指を突きつけるジェームズ氏。

 相変わらずその内容は分からない。


 ぼーっとしてると、何やら帰り支度をしてるように見えた。


「グデゴマさぁん、あの方は、さっき、なんて言ったのぉ……?」


『通話を要約しますと【話にならん。おたくの会社との取引も全面的にやめる】となります』


 キャアアアアア!!!

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