第13話 島根は身長197センチのゴールキーパー
次の休み時間も、
あいつは一体何をしてるんだろう?
ともあれ、俺には昨日の部活をすっぽかしてしまった件について、謝罪に回らないと行けない所が二つある。
まず隣のクラスへ行き、島根を呼んだ。
と言っても、デカいのですぐ見つける事が出来る。
真ん中の列の一番後ろの席に座っている、小山の様なシルエットの持ち主に、俺はドア越しに声を掛けた。
島根は俺に気づくと、軽く手を挙げてノソリと立ち上がった。
「おぅ、
サッカー部繋がりの心優しき友人であり、【ゴール前の鉄壁の巨人】と部内で呼ばれている彼は、ドアに頭がぶつからないように慎重にくぐり抜けてから、心配そうに俺の肩に両手を置いて言った。
まさか、危険なお茶もどきで酔っ払ったせいとは言えない。
「ああ…も、もう大丈夫だ!それよか黙って帰る事になっちまったのに、ハコちゃんにも伝えといてくれたんだろ?すまねー、ありがとうな」
俺は、島根の背中を手でパンパンと軽く叩きながら、二人で肩組みするみたいな格好で(体格差が激しいが)、そのまま廊下の端へ移動しながら話した。
「そんで、これ今朝ハコちゃんからお見舞いっつって貰ったんだけどさ。連絡してくれたお前にも受け取る権利はある筈だから、半分コしよーぜ」
と言って、今朝貰った葉っぱ柄のタッパーを出して、パカッと蓋を開けた。
島根は瞳を輝かせ、でっかい掌をまるで乙女のように両頬に当てて小さく『ファッ』と叫んだ。
「おおっ!!ま、まさか、これは…て、手作りクッキー!!…ハ、ハハ、ハコちゃんの…!!」
島根のリアクションのデカさに少し驚いたが、コイツも腹が減ってたのかな?
「?うん、そーそー。めちゃウマだぞ!俺、腹減ってて先に半分食っちゃったからさ、残り食ったらタッパー返しといてくれるか?それとも、こういうのって洗ってから返した方がいいのかな?」
島根は両手で大事そうにタッパーを抱えて受け取ると、今までに見た事の無いくらいに顔中の線が緩んだ笑顔で、
「うん!おう!な、なら俺がちゃんと今日持って帰って、責任取ってきちんと洗って返しておくぞ!!」
と、物凄い重要物を預かったかのように言った。
俺は笑って『じゃ、また昼休みにな』と言って、自分のクラスに戻るのにその場を離れた。
何だか、さっきから廊下が騒がしいようだが、賑やかな女子達が騒いでる声がする。
まあ、俺には関係ないか。
ともあれ良かった、謝罪の一つはこれでクリア。
あと一つは、部長の所なんだが、これは次の休み時間に行こう。
※※※
島根が心詞に呼び出されて廊下で話をしてる頃、女子トイレ付近では瀬戸内
話題はやはり恋バナと、最近話題のアプリについてだった。
「コレさぁ、カナりん激推しなんだってー。自分と相手のプロフ入れて、ガチャ引くだけで適任の恋愛スキルマスター出してくれて、チャットで相談乗ってくれるんだって!で、それがすーーーっごい的確で、レベチでヤバいんだって。しかも
三人の中では一番背が低いが出る所は出ていそうな体型で、赤茶色い癖っ毛をドット模様のシュシュでポニーテールでまとめた活発な感じの少女、
最新機種のスマホの画面に派手なフラッシュ文字が躍り、
【“恋のお悩み1発解決!!簡単なプロフ入力だけでアノ人との恋愛成就に導くスキルマスター召還!!!まずはお試し☆ココをクリック☆初回限定100連ガチャ☆☆☆”】
このような文言が、様々なタイプのイケメンキャラが交互に現れる画面の下に書かれている。
「見た事あるけど…私はそういうの頼るって、どうかな~って感じ?」
ハコはペットボトルに口を付けながら言った。
それは今朝、心詞が購入していたのと同じ飲み物だが、それを知ってるのは彼女だけだ。
「なぁにー、ハコあんた、ちょっとヨユーなとこ見せてるぅ??さっすがマネージャー様ってだけでポイント高いよねぇ~」
聖美は少し意地悪な感じで言うと、じゃれるように身体をぶつけた。
二人はきゃらきゃらと笑い合う。
ハコの方が少しだけ背が高く、他の二人と比べると幾分ふっくらした印象に見える。だがそれは彼女が太っている訳ではなく、他の二人が痩せてるのだ。
「でもさそれ、本当に無料なの?課金しないと結果見れないとか、見れても実は来月以降にバーンと請求来るとか無い?アタシ、そーゆーのが一番コワいんだけど。てか無理」
壁にもたれて自分のスマホを片手で操作している、三人の中で一番背が高くて細身の少女、
肩までのショートボブは黒い直毛で、艶が有り美しいがやや地味な印象だ。
「てかさ、それって裏を返すと『完全無料だったら使いたい』って事じゃん?やーだー、ミッチーてばエ~ロ~い~」
聖美はそう指摘してまたキャキャッと笑う。
本心を衝かれて美知は一瞬赤くなり怯んだが、すぐにムッと口を
「エロくないし。そんなの誰だって無料だったら使うじゃん?問題は相手が誰だって事でしょ?どーせキヨは言いたくてたまんないだけでしょ~」
その反撃を食らって気の強くて舌の回る聖美はすぐさま応戦した。
「は?なにそれ、アタシが言いたいだけみたいなのって感じわるっ!てかミッチーだって好きな人いるんでしょ?だったら突っかかんないでココはフツーに教え合いっこでいーーじゃん!!」
軽い言い合いが始まった二人の間に挟まれて、ハコはペットボトルを手にしながらオロオロと
しかし、内心では今朝の自分の勇気の行動を称え、あの瞬間を何度も何度も反芻するのが止まらない。
“今朝は朝イチで
「やっぱカッコ良かったなぁ~…”」
二人が言い合うのを止めて、いつの間にか揃ってこっちを凝視している。
「…?っれ?ど、どーしたの二人…とも?」
二人は目を合わせて頷くと、ハコの方に向き直った。
「んーとぉ、…」
「…てかさ、アンタ、『やっぱカッコ良かったなぁ』って、オモきし言ってたんですけどーーっっ!!」
二人は同時にハコの台詞を真似て言った。
しまった、心の声がいつの間にか出てしまっていたとハコは気付き、耳まで真っ赤に染まった顔を両腕で覆った。
「ひ…いやーー!!ちょ、ちょ待って待って待って!今のナシ、ナシで~~!!」
聖美と美知は顔を見合わせてニヤリ、と悪戯心満載の顔つきになると二人でハコの両腕を掴んでその場所から引きずり出した。
「さーて、それじゃ~ぁ、ハコっちには昼休みまでには何やらイイコトあったらしいの、すっかり吐いてもらいましょ~か~~♪」
「そっそっ、うちらの中で一人だけ抜け駆けダッシュは聞ぃ~て~ない~♪」
「えぇえぇぇ~~ちょ、ちょーーーぃやぁぁ~~~!!」
二人はハコの両腕をそれぞれ組んで、出鱈目に歌いながらスキップし、ハコは後ろ向きの姿勢のまま、教室まで連行されて行った。
ハコはその間、叫びながらコケないように注意するのに気を取られ、すれ違いに
※※※
結局、心詞は休み時間内にスマホを開けなかった。
この3時限目は急なテストがあり、俺は大いに慌てた。
小テストだったが不意打ちだったので、他の生徒もてこずったと見える。授業の後半にテストの解き方の為の時間が費やされたが、質問が相次いで終業の
お陰でトイレが混んでしまい、しかも4時限目は移動教室という間の悪さも手伝って、またスマホを開く事が出来なかった。
この時、スマホを開いていたら少しは心構えが違っていたのかも知れない、とも思ったが、それは後の祭りだった。
しまいっぱのスマホのトップ画面には、先ほど加えられた【BB】アプリに複数のメッセージ着信の通知を知らせるマークが付いていた。
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