第12話 チャットツールは『BigBird』と言う(らしい)
制服に着替えて教室に戻った俺は、今朝の黒猫とマネージャーの件を
どうやらマネージャーの方は、昨日の段階で彼が早々に手を回しておいたようだった。
「お前が酔って倒れて、俺が自宅へ連れてったのは事実だからな。後で詰問されるより、先にこっちから情報提供しといた方が突っ込まれ辛いだろ?」
と、いう訳で、危険なお茶で酔っ払った俺を
何とも手際の良い奴め。
「黒猫は知らん」
こちらの件はテリ外だと言って、鞄から自分のノーパソを出すと『打ち込みに専念させてくれ』と言い、画面に集中し出した。
こうなるともう、何を言っても上の空になるので、俺は諦めて自分の席に行った。
隣の席の鳳は相変わらず朝から数人の陽キャに取り囲まれ、こちらが話掛ける隙が無い。
昨日の今日でいきなり俺が気軽に話してるのを見られると、周りから変な勘繰りをされそうだし、かと言ってまだ聞いていない事柄もあるしで、どう声を掛けていいか分からない。
そして、思い返すと帰りの夢の中で、彼女がお風呂に入ってくるシーンなんかを見てしまったせいで、変にモヤモヤして恥ずかしくなってしまうのもあり、困ったものだ。
そうこうしている内に始業の
正直、全然授業に身が入らない所だが、じきに期末テストが控えてる身としては、ちゃんと勉強しないとマズい。先月の中間はちょっと…言いたくない位だった。
ノートだけでもきちんと書いておこうと正面の黒板に集中していると、ヒュッと手元に何か飛んできた。
それは、小さな封筒だった。
色合いが、昨日鳳から渡された一筆箋と同じだ。俺は隣を見た。
昨日やって来た転校生は、俺の方をチラリと見て、微かに首を縦に振った。
封筒を開く。
中身は昨日と同じ一筆箋を三つ折にしたものと、小さなチャック袋に入った、長い鎖の付いた親指の爪位の大きさの透明な六角形の石(?)だった。
三つ折の紙を開く。
【 先日は私共の至らぬ故、御身にご迷惑をお掛けしてしまい、誠にお詫び申し上げます。 お話の続きと今後の予定を立てさせて頂きたく、早急にこちらにアクセス願います。 尚、同封の石は、今より
鳳 ひびき 】
相変わらずの達筆だが、文面がまるでトラブル対処後の取引会社からの謝罪文のようだ。
あいつ本当に女子高生なのか…?
そして手紙の下部にはクラシカルな文面とは不似合いな、httpsから始まるアクセスコードと、ご丁寧にパスワードも一緒に記されている。
まさか詐欺とかじゃなかろうな…そういえば最近、個人のアカウント乗っ取りとか、危険なアプリが出回ってるって、何かで聞いたような気がする。
俺は窓際の席に居る、伊達眼鏡の友人の方を見た。ちゃんと授業を聞いてる…ように一瞬見えたが、よーーく見るとノートの下にスマホを隠して、片手でノートを取って更にもう片方の手で、スマホにフリック入力で操作してやがる!!
“…恐れ入った…”
一時限目が終わり、俺はまた幼馴染みに手紙を相談してからと思ってたが、あっという間にどこかへいなくなっていた。何かを調べるとかで忙しくしてるみたいで、こんな時のあいつに頼み事は絶対無理だ。
俺は仕方なく男子トイレの個室で手紙を広げ、細い鎖付きの石を首から掛けてシャツの中にしまい、記載されたコードをスマホに打ち込んだ。
すぐにパスワードの入力を要求する画面になり、それも1文字1文字打ち込んだ。
認証され飛んだ先には、簡素なページが表示され、中央に HIBIKI OTORI とアルファベット表記の名前に下線が引いてあるだけだった。
そこをタップすると新規ページが立ち上がった。
白い画面の中央に【BB】と言う濃いオレンジ色の小さなロゴマークが現れ、ロゴがだんだんと大きくなるように表示され、やがて文字が扉のように開いて沢山の鳥がそこから飛び出るアニメーションになり、最後に残った一羽の鳥が【ようこそBBへ】の文字を引っ張って来て、文字の最後に現れた右三角マークをタップすると、下段に文字を入力する窓がある画面になった。
どうもチャットツールのアプリのようだ。
ラインやグーグルチャットにも似ているが、今まで全く見た事の無い物だった。
使って良いかどうか戸惑っていると、『キョッ♪』と言う音が鳴ってメッセージが届いた。
『こんにちは、鳳ひびきよ。早速開いてくれて感謝するわ』
この口調は本人と見て大丈夫な気がする…だがまだ迷ってると、また『キョッ♪』と鳴り、続けてメッセージが入った。
『安心して。こちらは鳳家で独自開発したチャットツールで、一般公開していないので他に使用している機関は無いわ。 まとまった時間を割くのは難しいようだから、このツールでお話させて頂きたいのだけど、大丈夫かしら?』
鳳家で独自開発って…え、何者??と思ったが、大丈夫そうなのでまずは返事しとくか。
「送信」を押すと今度は『ヒュッ♪』と空気の吸い込むような音がする。
『OK』
俺はこのタイミングでトイレから出て教室に帰った。
うん、確かにこれならスマホでフツーに何かやってるように見えるだけで、転校生との接点は全く悟られないな。
席に戻ると、メッセージが増えていた。
『授業中や音を消したい時は右下の歯車マークから“消音”を選んでくれればOKよ』
これは有難い。早速操作をして消音にした。
『さっきの手紙に同封した石は、【アウェイクド・クォーツ=トルマリン】と言って、こちらも鳳家が独自開発した、電磁幽体への干渉と移行を助ける物よ。これを身に着けていると霊体や他次元物質の視認とアストラル体との連絡がし易くなるのよ。必ず、どこかしら身に着けていて頂戴ね』
なんかさっきからゲームのチュートリアル説明臭いので、ちょっと笑いそうになったが、あの石は常に持ってろって事か。俺は首から下げた石が位置する、胸の辺りを何となく押えた。
ん?必ずって事は、
『風呂とか、寝る時も?』
2時限目が始まったので、教科書を広げながら打ち込んだ。『そうよ』と言う返答を見て、一旦スマホをしまった。
隣の鳳も教科書とノート以外は出していない。まだまだ聞きたい事はあるが、俺は授業にひとまずは専念する事にした。
真面目にノートを取り始めたが、まだ頭はそう簡単に切り替らなかった。
次に何を聞いておこうか整理したい所だ。俺はノートの端っこに薄い文字で(すぐ消せるように)質問事項を羅列した。
①アストラル体って何?
②昨日のコスプレみたいな服?
③9度目の転生ってマ?
④未来のオレが考えた?
⑤来年日本が無くなるってマ?
⑥↑なんで?
⑦今朝起きたら猫がいて、先週俺が拾った?(してない)
⑧とりま何しなきゃなの?
⑨↑なんでオレ?
一通り書き出した気はするが、あとは…なんだろう。
と、思った所で妙な違和感を覚えた。何か重大な事柄を忘れてやしないか。
俺のカレーパンを奪ったり、酔っ払わせたりした、凶悪な犯人の事を。
最後にもうひとつ、書き加えた。
⑩あのジャージのコは?なんなの?←シツレーだ、オレに
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