昔はよかった

 研究室で、若い研究員が大型の機械を作っている。手つきはたどたどしい。

 その様子を、中年の教授が腕を組みながら見ていた。

「私たちが研究員時代だった頃は学生の質がよかったんだけど。今はレベルが下がったなあ」


 三十年後。

 同じ研究室で、腕がついた中型の機械を作っている若い研究員。スイッチを押すと、機械はひっついている腕を前に後ろに動かす。その動作はぎこちない。

 壮年の教授は論文を読みながら、チラチラ観察した。

「三十年前の研究はよかったのに。今はレベルが下がったわ」


 六十年後。

 小型の機械を試行錯誤で作っている若い研究員。コードに繋いで超高速の計算をさせている。

 隣の初老の教授も、横目でその様子を見ながら機械の研究をしていた。

「三十年前の技術はよかったのに。今はレベルが下がった」


 九十年後。

 高齢の教授は昔の小難しい学術書を読み、腕を組んでしきりにうなずいていた。

「昔はよかった。今はレベルが下がった」

 若い研究員が作ったソフトは、人間と自在に会話し、どんな質問にも答えている。

 人類の科学力は、最高レベルに達しつつあった。

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