第15話 そんなに真っ直ぐ見つめて可愛いとか言われると困ります
2月14日。今日は、クラスメイトの約半数がそわそわしていた。その約半数は、もちろん男子だ。女子からチョコをもらえるかもらえないかの話題が先ほどから聞こえてくる。そんな中、俺と晃太もチョコの話をしていた。
「で、碧は、露崎さんからもらうの?」
「もらえるなんて話はしてない」
もらえたとしても瑞季は、手作りでは渡しては来ない気がする。料理は、苦手と言っていたからな。って、なんで少し期待してるんだよ。
「俺は、もちろん香奈からもらうぜ」
「へいへい、羨ましい限りですね」
「ここで朗報だが香奈は、碧の分も用意してるらしい。もちろん友チョコだ」
「言わなくてもわかってる」
「いや、一応もらう時に誤解しないようにしとかないとな。もらったチョコを本命と誤解──」
「彼氏がいるのにそんな誤解するか」
軽くツッコミをいれると晃太は、何が面白いかわからないか笑い出す。笑うツボがいまいちわからんな。
「おはよう、晃太、碧。チョコ作ってきたよ」
香奈はそう言って晃太に渡し、そしてなぜかニヤニヤしながら俺にも渡してくる。なんだその笑みは……。
「ありがとう香奈。もったいなくて食べれなかったらごめんな」
「え~、作ったから食べてよ」
意味不明な会話を聞きながら俺は、香奈からもらったチョコが入った小さなハコを見た。
「碧くんや、何か疑っているようだが、何も変なものは入ってないよ。ふつ~のチョコだから」
その普通が余計怖いんだよ。まぁ、もらったからには食べるけど。
「露崎さんは、誰にあげるんだろうな」
「男子みんなもらいたいって顔に書いてるよね。けど、みっちゃんがあげるのは碧ぐらいじゃないかな」
「俺?」
「うん。だって、懐かれてるってことは好かれてるってことだし……あっ、来たよ」
教室の出入り口に視線をやるとそこにはクラスメイトに挨拶する瑞季の姿があった。自分の席に着いた後は、小笠原さんに話しかけられ、とてもじゃないが俺達のところに来る雰囲気はなかった。
「相変わらず人気者だな。そう言えば香奈は、いつもどうやって弁当誘ったりしてるんだ?」
「普通にみっちゃん借ります!って仲良さそうな人から許可もらって連れてきてるよ。男子のいるところにみっちゃんを連れていくだけで睨む女子がたまにいるらしいから」
それ、怖いな。なんで男子がいるところに連れていくだけで睨まれるんだよ。
「碧、みっちゃん呼んでこようか?」
「なんで?」
「なんでって話したいことあるでしょ? 俺のチョコはないのかとか聞きたいだろうし」
俺、聞きたいなんて一言も言ってないし。
「あれ、香奈は?」
いつの間にかさっきまでここにいたはずの香奈の姿がなく晃太に聞くと瑞季がいる方を指差した。
「香奈ならそこに」
暫くして香奈が瑞季を連れて帰ってきた。この流れは、俺がチョコはくれるのかと聞かないとダメなのか?
「みっちゃん連れてきました!」
連れてきましたじゃないよ! 瑞季、何事ですかと言いたげな顔してるし。
「おはよう、瑞季」
「はい、おはようございます碧くん」
「「…………」」
話題がなく沈黙が続くと香奈が俺の肩を叩いてダメだよと言う。
「今日はバレンタインだけどみっちゃんは、誰かにチョコ渡す予定ってあるの?」
言えない変わりに香奈が瑞季に聞いてくれる。
「ありますよ。碧くん、香奈さん、前山くんの分は、作ってきましたからお昼はご一緒してもよろしいですか?」
「もちろん一緒に食べよ。作るってことはまさか手作り!?」
「え、えぇ……チョコを作るのは得意ですから」
料理は苦手と言っていたが、チョコは作れるのか。
「じゃあ、私もみんなにチョコ渡すのは昼休みにしようかな。心配しなくてもみっちゃんの分もあるからね」
「ありがとうございます」
昼休み、チョコを渡す会みたいになり、周りの男子から視線を感じたが香奈や晃太がいたことにより特に変な噂にはならなかった。
放課後、晃太と香奈に先に帰っていてくれと伝えた後、少し遅れて教室を出た。廊下に出て職員室の前を通るとちょうど職員室から瑞季が出てきた。
「何かあったのか?」
「あっ、碧くん。生徒会に入らないかと先生から話がありまして」
「入るのか?」
「いえ、断りました。碧くんは、今から帰りですか?」
「うん、そうだけど……」
「でしたら少しだけ時間もらえますか?」
再び教室に戻り、彼女を廊下で待っていると暫くして瑞季がカバンを持って教室を出てきた。
「碧くん、どうぞ。バレンタインチョコです」
そう言って瑞季は、俺に紙袋を渡した。
えっ、今日2回目なんだけど……。昼休みに一度瑞季からチョコはもらっている。それなのに2つ目?
「さ、さっきのは友チョコです。こ、こっちは友チョコでもなく義理でもないチョコです」
瑞季から紙袋を受け取った俺は、じゃあ、本命チョコ?と考えていた。
「ありがとう」
「いえ、碧くんには感謝しきれないぐらいいつも甘えさせてもらっていますので」
「今から食べてもいいか?」
「もちろんいいですけど……」
まだ開いていたので誰もいない教室に入って自分の席に座る。瑞季は、ついてくるが立ったままなので俺は、隣の席の人のイスを借りてそこに座ることを彼女に勧めた。
「ありがとうございます」
そう言って彼女はそのイスに座る。
「これってマカロン?」
「はい、そうですよ。普通にチョコだとつまらない気がしてチョコマカロンにしてみました」
紙袋の中には長方形の箱があり、その中には4つのマカロンが並んでいた。1つ手に取り食べると口の中に甘い味が広がった。
マカロンは、日頃食べないが美味しいな……。
「どうですか?」
「凄い美味しい」
「そうですか。それは良かったです」
2つ、3つと食べて残り1つは、自分が食べに彼女の口元へ持っていく。
「えっと……食べないのですか?」
「さっきから食べたそうな顔してたからさ」
「えっ、あっ、そんな顔してません!」
そう言って顔を赤くした彼女は慌てて手で隠すが耳まで赤いので俺は、小さく笑った。
「笑わないでくださいよ……」
「可愛い」
「可愛いと言ってもらえて嬉しいですが、勘違いしてしまいます」
「勘違い? 本当に可愛いと思ったから言ったんだけど」
手を退けた瑞季だったが、俺がそういうと顔を下に向けた。
「そ、そんなに真っ直ぐ見つめて可愛いとか言われると困ります」
「よくわからないが困らせて悪かった」
そう言っていつものように頭を撫でると彼女は嬉しそうな表情をする。
「碧くんなので許します」
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