第16話 ホワイトデー前日
「で、いらないのか?」
差し出したマカロンを手に持ったままだったので瑞季にいるか尋ねる。
「で、ですが、それは私が作って碧くんにあげたものですから私が食べるのは───」
「はい、どうぞ」
言葉を遮り、マカロンをもう一度彼女の口元へやると瑞季はパクっと食べた。その時、彼女の唇が少し指先に触れた。
「やっぱり食べたかったんだな」
「あ、碧くんがすすめてきたので……」
「マカロンありがとう。美味しかった」
「はい、初めて作りましたが、そう言ってもらえて良かったです」
そう言って彼女は、嬉しそうな顔をした。
***
テスト明けで学校が休みに入ったその日、瑞季と香奈は、最近できたというカフェ『kurage』に来ていた。
「鈍すぎでしょ! みっちゃん、もっとアタックしないと!」
瑞季の話を聞いている時の香奈は、誰かさんに対してほぼあきれた様子で聞いていた。
「アタックと言われましてもこれ以上やりすぎはよくないかと」
実を言うと瑞季は、バレンタインで碧に告白するつもりでいた。だが、曖昧な言葉を言って終わってしまった。
「そう言えばなんで告白しなかったの?」
「しようとしてましたが、告白して今の関係が壊れることを考えるとできませんでした。私は、今の碧くんと過ごすことが一番の幸せですから」
本心を聞いた香奈は、頭に碧の顔が浮かび「なるほどね」と何かに気付いたのかそう呟いた。
碧と瑞季に進展がないのはおそらく2人が似ているから。関係を変えたくない、このままがいい、と思う2人であるからこそ何も前に進まないのだ。
「ということは碧のみっちゃんへの気持ちがわかれば告白できるってこと?」
「どうでしょう……。そう言えば香奈さんは、どうやって前山くんと付き合うことになったのですか?」
「私は、晃太と同じ委員会になってそっから仲良くなったかな。私から晃太に告白したんだけどまさかの両思い!」
碧ならばこの惚気話を最後まで聞いてはくれないが瑞季は、真剣に聞いていた。
「いいですね、両思い」
「いいですねってみっちゃんと碧も両思いだと思うけど……」
香奈は、瑞季の言葉に小さく呟く。どうにかして碧と瑞季をくっつけたいが中々難しそうだ。
「話し変わるけどもう1年終わっちゃうよ。せっかくみっちゃんと仲良くなったのにクラス離れたら話せなくなっちゃうじゃん」
「クラスが離れても休み時間や放課後には会えますよ」
「そうだけど、みっちゃんがいない教室は何か寂しいな~」
「そう言ってくれて嬉しいです。私も香奈さんがいないと少し寂しい気がします……」
瑞季の周りにはいつも人がいるが全員が親しい仲のわけではない。瑞季にとって心を打ち解けている女子は今のところ香奈ぐらいだ。
「わ~なんか嬉しいな。同じクラスだといいね」
「そうですね」
カフェを出た後、服を見に行こうと移動していると香奈は、顔見知りに遭遇し瑞季の元を離れる。
「やっほ~さやちゃん!」
「あっ、香奈。って、そのさやちゃんって呼び方やめてよ。私はさーちゃんの方がいいの」
謎のこだわりがある彼女は、同じ学校で別のクラスである
「も~変なこだわり要らないから。あっ、さやちゃんにも紹介しとくよ。こちら露崎瑞季ちゃんです」
香奈は、さやかに瑞季を紹介した。瑞季は、さやかに向かってペコリと頭を下げる。
「いや、紹介しなくても学年1美人で有名だから知ってるよ。初めてまして、露崎さん。気軽にさやかって呼んでいいからね」
「初めましてさやかさん。2人は、どういったご関係なんですか?」
「中学が一緒なだけだよ。いや、けど驚いたよ。露崎さんってもっとお堅い人かと思った」
「お堅い人……そうでしょうか?」
「うんうん、何かオーラが。別に人を寄せ付けないオーラじゃないけど何というか近寄りがたい感じ? あっ、不快にさせたらごめん」
「い、いえ、不快には思ってませんよ」
瑞季がそう言うと香奈が間に入ってきた。
「も~困らせたらダメでしょ? さやちゃんは、誰かとショッピング中?」
「困らせてるつもりないんだけど……。私は家族と外食で今は1人で雑貨屋に向かうところ。じゃ、またね」
「うん、またね」
さやかと別れた後、瑞季と香奈は、再び服屋に向かった。
***
3月13日。偶然スーパーで瑞季と出会い、立ち話していた。
「香奈に?」
「はい、選んでもらいました。似合ってますか?」
そう言って瑞季は、俺の目の前でクルッと回る。
長いロングスカートに春らしいジャケット。彼女にとても似合っており香奈のコーディネートセンスは抜群だと思った。
「うん、似合ってる。髪型もいつもと違うな」
瑞季は、学校の時は基本髪を下ろしているだけなのだが、休日は時々ヘアスタイルを変えておりドキッとさせられることが多い。ちなみに今日は、耳の下でツインテールにしていた。
「気分転換に変えるのいいかと思いまして……。ところで碧くんはお使いですか?」
「まぁ、小麦粉を買ってきてって頼まれてさ、探してるんだけど中々見つからなくて」
「では、私も探します」
「いや、いいよ。瑞季も買い物の途中みたいだしさ」
「いえ、1人より2人……一緒に探した方が早いです。困ったときは頼る、そうですよね?」
あなたがあの日助けてくれた時のように今度は私が助ける番ですと瑞季が言うので頼らせてもらうことにした。
「ありがとう。おかげで買えた」
「いえ、買えて良かったです」
「瑞季、明日って予定ある?」
「予定はありませんけど」
「渡したいものがあるから会えればなって思うんだけど」
「わかりました。では、10時に図書館で待ち合わせでもいいですか? 明日は、少し図書館で本を読もうと思ってまして」
「わかった。じゃあ、明日、図書館で集合な」
はい、と頷いた彼女の笑顔にドキッとして暫く頭から離れないのだった。
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