第13話 碧くんは私にそういうことがしたかったのですか?

「なるほど、夢だと勘違いしたということですか?」


 覚えてる範囲のことを全て話すと瑞季は、そう尋ねてきたので俺は、頷いた。


「す、すみません……」


「何を謝るのですか? 先程も言いましたが私は少し驚いただけですから。ところで夢の中に私が出てきたと言ってましたが、碧くんは私にそういうことがしたかったのですか?」


 これは、遠回しに俺が瑞季を押し倒したかったのかと聞いてきているのだろう。


「い、いや、思ってない……」


「夢と現実を勘違いしてたんですよね? 夢の中ならやっていいと思ったから今さっき────」

「怒ってるなら謝るよ。ごめん……」


 謝ると彼女は、小さく笑って俺の頭を撫でてきた。


「すみません、少しやりすぎましたね。夢の中に私が出てきたということは碧くんが私のことを少しでも思っているということですので嬉しいです」


 そう言われて俺は、少し恥ずかしくなる。彼女のことを少しでも思っているのは本当のことなので否定はできない。


「次会うのは新学期ですね。それまで会えないのは寂しいですが、学校が始まったら会えますしね」


「そうだな……。あっ、途中まで送るよ」


「ありがとうございます」







***






『明けましておめでとうございます、碧くん』


「うん、明けましておめでとう」


 1月1日。12月31日の夜に急遽一緒に年越しようとなり、瑞季とビデオ通話をしていた。


『碧くんは、お正月はどう過ごしますか?』


「んー、初詣に行くぐらいかな。瑞季は?」


『私も碧くんと同じですかね。明日、私は光さんに会うためにカフェに行きますが碧くんも来ますか?』


「行っても大丈夫なの?」


『一応どうか聞いてみますが、おそらく大丈夫かと。どうです?』


「行ってもいいなら行きたいかな」


『では、聞いてみますね』






***






「明けましておめでとうございます、光さん」


「明けましておめでとうございます、長谷部さん」


「うん、おめでと~!!」


 会うなり長谷部さんに抱きつかれ俺と瑞季は、テンション高いなぁ~と心の中で思った。


「2人は、今から初詣デートでもするの?」


「デートって俺達付き合ってませんから。露崎は、今から初詣行くんだっけ?」


「はい……えっと、もしかして鴻上くんもですか?」


「あぁ、うんそのつもりだけど……」


 本当ならここで瑞季を誘って一緒に初詣に行きたい。けど、俺と瑞季がいるところを見られて他の人と遭遇したらと思うと……。


「偶然会えたらいいですね」


「そうだな……」


 俺と瑞季の会話を聞いていた長谷部さんは不思議そうになぜ一緒に行かないのかと言いたげな表情をしていた。


「じゃあ、俺は先に……」


 そう言って2階から下に降りようとすると後ろから服の袖を掴まれた。


「露崎……?」


「鴻上くん……迷惑をかけるかもしれませんが、私と一緒に初詣に行きませんか?」


「えっ……?」


 彼女と話すため一度後ろを振り返るとそこには勇気を出して誘った彼女の姿があった。


「周りの目ばかり気にしては私は鴻上くんと一緒にいられません。私は、鴻上くんと初詣に行きたいです」


「俺も……露崎と一緒に行きたい」


 一緒にいるところを見られたら他の男子に見られてもいいという覚悟を決め俺は、彼女と初詣でに行くことにした。




「前から思っていましたが、鴻上くんが私の隣にいても誰も文句は言わないと思いますよ」


 神社に向かう中、瑞季は、俺にそう言った。


「そうかな……。俺、カッコ良くもないし、瑞季の隣にいたら女子や男子から睨まれそう」


 自分にあまり自信はない。明るくて女子からも人気がある人なら瑞季の側に堂々といられるのだが……。


「碧くんはカッコいいですよ。優しいですし、紳士的で……だからこそ私はそんなあなたが好きなんです」


 そう言って彼女は、俺の頬に触れてきた。


「ありがと……」


「自信持ってください」


「うん、もう少し自分に自信持ってみるよ」



 神社に着き、お参りとおみくじを引いて人が少ないところでおみくじの結果を見ることにした。


「人、多いですね」


「そうだな。ちょっとひやひやしたわ」


「ふふっ、ですが、誰とも会いませんでしたね。あっ、私、大吉でしたよ」


 そう言って彼女は俺にくっついておみくじを見せてくる。

 近いと思ったが気にせず俺もおみくじの結果を確認する。


「俺も大吉だ」


「一緒ですね」


「うんうん、一緒だね~! 仲が良くてよろしいことよ」


「「…………」」


 ここにいないはずの人物の声がして後ろを振り返るとそこには香奈がいた。


「か、香奈さん!?」


「うん、香奈だよ。2人とも明けましておめでとう、今年もよろしくね」


「こ、こちらこそよろしくお願いします」


「こちらこそよろしくな、香奈」


 まさか香奈と出会うとは思わなかったが、偶然出会ったのが香奈で良かったと少しホッとしていた。

 香奈は、家族で来たらしく今は友達を見つけたからと言って少しの間別行動になったらしい。 


「で、お二人さんは初詣デートかな?」


「ち、違いますよ、香奈さん。偶然碧くんと出会ってお話していただけです」


 顔を赤くしながら瑞季は、香奈にそう言うが、香奈は全く聞いておらずうんうんと相づちを打っていた。


「みっちゃん、可愛い~! 初ムギュ~してもいい?」


「初ムギューとは?」


「こういうことだよ~」


 香奈はそう言って瑞季をぎゅっと抱きしめた。瑞季が押し潰されそうで少し見ていて可愛そうだ。

 けど、瑞季を見ているとそうしたくなる香奈の気持ちはわかる気がする。


「香奈、瑞季が困ってるから離れろ」


「はいはい……ん? おやおや~、ついに碧も下の名前呼びですかぁ~?」


 しまった! つい、普通に下の名前で。けど、瑞季は俺のこと下の名前で呼んでるしいいのか?


「悪いかよ」


「別に悪いとは言ってないしー。あっ、そろそろ家族と合流しなきゃいけないからここで。じゃ、初詣デート楽しんでね」


 手を振って香奈は、立ち去っていった。デートじゃないんだけどな……。


「碧くん、今年もよろしくお願いしますね」


「あぁ、こちらこそよろしく」


 



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