第12話 押し倒すつもりはありませんでした

 12月28日。瑞季の誕生日当日。俺の家に4人集まり誕生日会は、開かれた。


「早すぎましたか?」


 晃太と香奈よりも先に着いたのは瑞季だった。早くに来すぎたのではないかと彼女は思い始めていたので大丈夫だよと俺は言う。


「香奈と晃太は、2人で来るらしいから集合したら来ると思う。あっ、適当に座って待っていていいから」


 そう言って立ちっぱなしの瑞季をソファに座ったらと勧める。


「では、座って待っていますね」


 暫くして香奈と晃太も来て誕生日会は、始まった。2人は、誕生日おめでとうと言ってプレゼントを渡す。

 まさかもらえるとは思っておらず瑞季は、2人からのプレゼントに驚いていた。


「ありがとうございます。香奈さん、前山くん」


「可愛いから抱きついていい?」


 と言って香奈は、瑞季に抱きつく。まだいいと言ってもないのに。


「いいですよ」


 瑞季は、嫌ではないそうで抱きつくことを許可する。


「嫉妬してるのか?」


 瑞季と香奈を見てなんなんだこの状況はと思っていると晃太がそう尋ねてきた。


「何の嫉妬だよ」


「言わないでおく」


「言えよ」


 そう言った後、なぜか瑞季と目が合った。彼女は小さく微笑み何か小さな声で言っているようだったが当然、距離があるので聞こえなかった。






***






「あの時ですか?」


 誕生日会が終わった後、瑞季だけ俺の家に残っていた。


「うん、香奈に抱きつかれてた時、何か言っているように見えたからさ」


 そう言うと瑞季は、思い出したのか小さく笑って俺の近くに来た。


「碧くんにも同じようなことを後でしますねとあの時は言ってました」


 同じってことは……とさっきあった出来事を思い出していると瑞季が正面から抱きついてきた。


「あ、あの、瑞季さん……」


「何ですか?」


「何ですかじゃなくて俺の母さんの前でそれはちょっと……」


 誕生日会が終わったと思い別の部屋から戻ってきた俺のお母さんは、リビングへ行くなり瑞季が俺に抱きついているところを見ていた。


「えっ、あっ、な、なんで言ってくれなかったんですか!?」


 見られていたことがわかり瑞季は、顔を赤くして、俺に胸に寄りかかって顔を隠す。


「いや、抱きつかれるとは思ってなかったからさ……。母さん、俺と瑞季は、そんな付き合ってるとかじゃないから」


「あなた露崎瑞季さんと言ったわよね?」


「は、はい……」


 母さんにそう問われて、瑞季は、俺から一度離れ、頷いた。


「息子をどうぞよろしくお願いします」


 何を言ってるの母さん!? 俺、付き合ってないって言ったよね!?


「あ、碧くんとはそんな関係ではありません」


 どうやって母さんに誤解を解こうか考えていると瑞季が変わりに母さんに付き合ってないと言う。


「ですが、碧くんとはこれからも一緒にいるつもりなのでこちらこそよろしくお願いします」


 ホッとしたのもつかの間、瑞季は、とんでもないことを言う。


「み、瑞季さん……?」


「何ですか? 碧くん。この前、約束したことを申しただけですけど」


 確かにこの前、瑞季の側にいるって言いましたけど。


 お母様がキッチンに行ったところで俺は、プレゼントを彼女に渡した。

 

「瑞季、誕生日おめでとう……」


「あ、ありがとうございます。お二人からもらっていて碧くんだけもらっていなかったので用意していないのかと思ってました」


「二人っきりの時に渡したかったからさ……」


 そう言うと彼女は嬉しそうにもらったものを優しく抱きしめる。


「たまにそう言うところズルいです。中、開けていいですか?」


「いいよ」


 小さな袋を開けると彼女は「えっ……」と驚いていた。


「これ、前に私が言ったものでは?」


「うん、そうだよ」


「……ありがとうございます。大切に使いますね」


 そう言って彼女はさっそくヘアピンを髪につけて嬉しそうに笑う。







***






「瑞季?」


 プレゼントを渡した後、ソファに座って話していたが、いつの間にか彼女は俺の肩にもたれ掛かって寝ていた。すぅすぅと寝息を立てて寝ている彼女は、とても可愛らしかった。


「あら、瑞季さん寝てしまったの?」


 母さんさんは、膝掛けを持ってきて瑞季にそっとかける。


「そうみたい……」


「まぁ、起きるまで側にいてあげなさいよ」


 母さんは、そう言いながらリビングからキッチンへ行ってしまった。


 もういいや……。膝掛けを全部、瑞季にかけて俺も少しだけ寝ることにした。





***





「碧くん……碧くん……」


 夢の中で瑞季が俺の名前を呼んでいる気がして俺は、彼女の名前を呼んだ。


「瑞季……?」


「瑞季ですけど、あ、あの……起きてください」


 ゆさゆさと体を揺らされ、これが夢か現実かわからなくなっていた。


「なんで? まだ朝じゃないからもう少し──」

「何言ってるんですか? もう外も暗いので私はそろそろ帰りますけど」


「それは……ダメ」


 夢の中の自分は何を思っていたのだろうか。俺は、彼女の手を取り、そのままバランスを崩す。


「あ、碧くん!? ど、どうされたんですか? 寝ぼけてるんですか!?」


 寝ぼける? 彼女は何を……。ん? もしかしてこれは夢じゃない?

 目を開けるとそこには顔を真っ赤した瑞季の姿があった。


「えっと……」


 だんだんと意識がハッキリしてきて俺が瑞季を押し倒しているような感じになっていることに気付き慌てて俺は瑞季から離れる。


「ごっ、ごめん!」


「い、いえ……少し驚いただけですので……」


 これは、まずい。夢に瑞季が出てきてそのせいで夢と現実が混ざってしまったなんて言えない。寝なきゃ良かったと後悔していると瑞季が側に来た。


「どんな夢を見ていたのですか?」


「教えなきゃダメですかね?」

 

「はい、女の子を押し倒したんですから教えてもらわないと」


 そう言う彼女は笑っているようで笑っていない表情をしていて、これは言うまで帰してもらえないなと思うのだった。







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