第10話 でしたら私は碧くんから離れません

「碧くん、見てください!」


 電車を降りてすぐ近くの海を見るなり彼女はテンションが上がっていた。

 海に着いた頃にはもう日が暮れており、海が綺麗に見えた。


 海を眺めていた瑞季は、後ろを振り返りスマホを持って俺のところに来た。


「一緒に写真撮りませんか?」

「俺と?」

「碧くん以外に誰がいると思ってるのですか?」


 彼女に手招きされ隣に並ぶ。少し距離を取ったら瑞季に遠いと言われて少し寄ることになった。


「では、撮りますね」


 2枚写真を撮り、瑞季から後で送りますと言われた。その後、駅から少し離れて海岸沿いを歩く。


 冬に海なんて来たことなかったけど冬に見る海も悪くないと思った。寒いけど……。


「瑞季、寒いならこれ貸すけど」


 彼女は、手袋もマフラーもつけていなかったので自分のマフラーを貸す。


「ありがとうございます」


 マフラーを彼女の首に巻くと瑞季は、嬉しそうに笑う。そして俺のことを真っ直ぐと見つめた。


「碧くん、伝えたいことがあります」


 一瞬だけ告白されるんじゃないかと思ったが、彼女の表情からして別のことだとすぐに気付く。


「私は、今まで人と人との距離を保とうとして親しい友人はこれまであまりいませんでした」


 最初に出会った頃の瑞季は、人を頼ろうとせず何もかも1人でやりとげようとしていた。


「親しい友人がいなかったのはおそらくその人を傷つけたくなかったから。私といたらその方に迷惑をかけてしまいますからね」


 彼女の過去に何があったのかはわからない。けど、誰にも頼らず親しい友人を作ってこなかった理由はわかった気がした。


「碧くんとこうしている時も時々思うんです。いつか私といて────あ、碧くん!?」


 この後に言う言葉がわかったからこそ俺は、言葉を遮って彼女を優しく抱きしめた。


「何を心配してるかわからないが、俺は、瑞季といて傷つくことなんてない。俺のこと心配してくれるのは嬉しいけどさ俺は、お前の方が心配だ」


 1人で無茶するところとか、できると維持を張るところは見ていていつも心配だ。


 見ているうちに側にいてあげたいと思うようになったあの日から俺の目には彼女しか映らなくなっていた。


「心配……ですか?」

「あぁ……。香奈も晃太もいい奴だからさ、仲良くしたいと思うなら遠慮せず関わればいい。周りの目とか関係なく露崎瑞季が仲良くなりたい人といればいい」


 彼女といつもいる人達は、いつも彼女とは深く接していなかった。理由は、おそらく彼女を敬うようなそんな存在として見ていたからだ。


 彼女が周りを尊敬の目で見られるように何かしたわけではないが、自然と作り上げられた環境のせいで彼女は不用意に誰かと関わることが難しくなってしまった。


「では、碧くんと一緒にいてもいいのですか?」


「瑞季がいたいなら……」


 そう言うと彼女は俺の体に手を回してぎゅっと抱きしめる。


「でしたら私は碧くんから離れません」



***



 瑞季と出掛けた次の日。クリスマスということで急遽、瑞季の家でクリスマスパーティーをすることになった。


 昨日のことがきっかけに瑞季は、2人の前ならいつも通りの自分でもいいと思ったのか俺にくっついて座る。


「ん~懐かれた?」


 香奈は、俺の横にいる瑞季を見て不思議そうな顔をした。


「実を言うとかなり前から懐かれてる」


 香奈と晃太に何で今まで言わなかったんだよとツッコミを入れられると思ったが、なぜか2人は、笑っていた。


「ずるいよ、碧! 私もみっちゃんに懐かれたいのにぃ~」


 そう言って香奈は、瑞季に抱きついた。瑞季は、少し驚いていたが嫌そうではなかった。


「碧、今でも露崎さんに興味ないって言えるか?」


 晃太が俺にこそっと聞いてきたので首を横に振る。


「……言えないな。今は少し興味ある」

「そうかそうか」

「何だそのニヤニヤは」

「別にニヤけてないけど?」


 そう言いながらも晃太は、謎の笑みを浮かべていた。


「よし、さっそくクリスマスパーティーだぁ〜! メリークリスマス!………碧もみっちゃんもやるんだよ!」


 香奈の声掛けに応じたのは晃太のみで俺と瑞季は、テンションの高さに驚き、何も言えないでいた。香奈にそう言われても俺は言うつもりはなかったが、隣にいる瑞季が俺の手を取り小さく笑った。


「碧くん、盛り上がるときは盛り上がるのがパーティーの基本ですよ。ですから一緒に盛り上がりましょう」

「……そうだな」


「では、一緒にクリスマスパーティーを楽しみましょうね」



***



 香奈と晃太が帰った後、俺と瑞季は、ベランダに出て雪が降るのを眺めていた。


「雪ですよ、碧くん」

「綺麗だな……」 


 彼女の方を向いて言ったので瑞季は、両手で顔を隠した。


「こっち見て言わないでください」


 雪が綺麗だなと言ったつもりだが、よく考えたらこれじゃあ彼女に綺麗だなと言ったみたいにな

ってしまった。


「な、なんかごめん……。けど、瑞季も綺麗だよな」

「どこがですか?」

「髪とか……」

「そ、そうですか……ありがとうございます」


 彼女は、顔を赤らめて嬉しそうに髪の毛を触った。


「瑞季は、今、何かほしいものあるか?」

「ほしいものですか? そうですね、碧くんとの時間ですかね」


 そう言って彼女は俺に向かってニコッと笑いかけてきた。


「もっと他にないのか? 物とかで……」

「物ならアクセサリーがほしいです。ヘアピンとかシュシュとか……」


 なるほど、アクセサリーか。


「誰かにプレゼントを渡すのですか?」

「えっ、あっ、うん、そうそう」

「そうなんですね。参考になるといいですけど」

「いや、参考になったよ。ありがと」

「いえ、参考になって良かったです」


 瑞季の誕生日3日前。明日、プレゼントを買いに行こう。

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