第9話 彼女とお出かけ
「どうぞ鴻上くん」
差し出された一口サイズのケーキを食べるとそれを見ていた長谷部さんがいいねぇ~と言ってきた。
「あの、そんなにガン見しないでください」
「え~なんでよ。この店のオーナーは私だよ? ここ貸してるんだから見る権利ぐらいあるでしょ」
水曜日、俺と瑞季は、よく長谷部さんが経営するカフェ『hitode』にこうして来るようになっていた。
この前は、このカフェのケーキを食べることができなかったので今日は2階の場所で食べることになった。
「露崎、その……食べさせてもらえるのは大変嬉しいことなんだけど、ここはちょっと……」
食べさせられるという行為は嬉しいが、物凄く恥ずかしい。それも長谷部さんに見られると余計に。
「では、次は鴻上くんが食べさせてください」
「えっ、いやそれも───」
「頑張れ鴻上くん! 男でしょ!?」
長谷部さんから意味不明な言葉が飛んで来たのでここでやらなければならない雰囲気になってしまった。
「じゃあ……はい、どうぞ」
「いただきます」
パクっと差し出したフォークを加えた彼女は幸せそうに食べる。もし、ここで写真を撮ってもいいなら是非とも撮りたい。
「美味しいです。光さん、この新作とても甘くて美味しいです」
「ありがと~。メニュー表のところに美人女子高生が絶賛って書いておくわね」
「それはちょっと……」
「嘘だよ。じゃ、私は仕事戻るから後は2人で」
長谷部さんはそう言って1階へ降りていった。二人っきりになった途端、食べ終わった瑞季は、俺の横に座った。
「今週の日曜日、空いてますか?」
「空いてるけど何かあるのか?」
「何かあるわけではありませんが、明日から冬休みなので碧くんとお出掛けしたいなと思いまして」
瑞季とは何回か外に出掛けたことはあるが、いつも誰かに会わないかとそわそわする。
「もちろん、碧くんに迷惑かけないような姿で行きますので!」
「う、うん……」
「ふふっ、楽しみですね」
どんな格好で来るつもりなんだろうと少し気になった。無駄に目立つ格好で来ないといいけど。
***
冬休みに入り、駅前はいつもより人が多い気がした。まぁ、普通の休日だし人が多いのは当然か。
駅前にあるコンビニの前で待っていると小走りに走ってくる少女がいた。
いつも髪を下ろしているが今日はポニーテールだったのでその少女が、パッと見て、瑞季だと気付かなかった。
けど、どんな姿でも彼女が目立つことには変わりない。周りの人から注目を浴びるぐらいなのだから。
「おっ、おはよう……ご、ございます!」
そんなに急がなくてもと思いながらおはようと返す。
「どうですか? パッと見て露崎瑞季ってわかります?」
彼女はクルリと目の前で回りどうかと聞いてくる。
「わからないと思う。多分……」
「そうですか。まぁ、クラスメイトに会った時はその時です。今日は思いっきり楽しみましょ」
クラスメイトに会うか会わないかでそわそわしてしまいそうたが、そんなことを気にしていると瑞季との時間が楽しいものではなくなってしまう。なので瑞季の提案に頷いた。
「手、繋いでおくか?」
そう言って俺は、彼女の目の前に手を差し出した。それを見て彼女は少し驚いていた。
「良いのですか? いつもなら周りがとか言って拒否しますのに……」
「今日は、人多いし、迷子になるかもしれないだろ?」
「……そうですね。鴻上くん……いいえ、碧くんがそう言うなら」
差し出された手を彼女は握り、嬉しそうに笑った。
「碧くんは、どこか行きたいところはありますか?」
駅前で集合したため歩いてすぐのところに商業施設はいくつかある。
「瑞季は、どこかあるか?」
「そうですね、服を少し見たいです。私ばかり行きたいところに行くわけにもいきませんし、碧くんも何か考えておいてくださいね」
「わかった」
瑞季は、よく来るという服屋に入り、少し入りづらかったが俺は彼女についていく。
「碧くん、碧くん。どちらが私に似合っていますか?」
後ろを振り返り、彼女は、服を2着見せてきた。一番困る質問が来てしまった。ここは、どっちもとは言わずやはり似合っている方をストレートに言った方がいいのだろうか。
1着は、白いコートで2着目は、黒のコートだった。本心は、どちらでも似合うだが、どちらかというと白いコートの方が瑞季には似合っていた。
「白の方かな……」
「白ですね、わかりました」
そう言って瑞季は、黒いコートは元の位置に直して白いコートは、レジに持っていった。しばらくして戻ってきた瑞季の手にはこの店の袋があった。
「もしかしてさっきの買ったのか?」
「えぇ、碧くんが似合うのは白と言っていましたので……」
俺がいいと言った方を選んでもらえて嬉しいが俺なんかの意見を元にして買って良かったのかと思った。
***
「混んでますね……」
服屋から電車で海に移動しようとなったのだが、休日のため電車は混雑していた。
「瑞季、大丈夫か?」
「大丈夫かと問われますと大丈夫じゃないです」
人と人の距離が近く、俺と瑞季も触れあいそうな距離でいた。
いつもこの距離でいるが、今は、正面で向き合っているためいつもよりドキドキが増す。
「もし嫌じゃなければもたれ掛かってもらっていいから」
なに言ってるんだろうと思い自分の発言に後悔したその時、瑞季が俺の胸に手を置いてもたれ掛かってきた。
「では、電車を降りるまでこうしています」
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