第8話 お疲れ様です、碧くん。よく頑張りましたね

「碧くん、碧くん」


 スライド作りの最後の作業に取りかかっているとちょんちょんと瑞季が腕をつついてきた。


「ん? どうした?」


「スライド作り終わったんで何か手伝えることありますか?」


「あと1枚だし、特にないかな。気にせず何かしてもらってていいからな」


 瑞季の性格からしておそらく俺が終わるまでずっと何もせず待っていそうなのでこう言っておく。


「では、お茶とお菓子を用意してきますね」


 キッチンへと向かった瑞季がリビングからいなくなり俺は1人集中してスライドを作っていた。





 ──────10分後。





 ん~終わったぁ~。長時間パソコンの画面を見ていたので目が疲れた。うんと背伸びをしてパソコンを閉じると後ろから抱き締められた。


「えっと……瑞季さん? 何されてるんですか?」


「ハグです」


「それはわかる」


 そう言うと瑞季は、俺の耳元で囁いてきた。


「お疲れ様です、碧くん。よく頑張りましたね」

 

 耳元で囁かれるのもかなりのダメージだが、その後に頭を撫でられたので俺はこの状況に耐えられなかった。


 俺がいつも彼女にやっていることだが、やられる方はこんな気持ちだったのか。


「そんなに軽々しく頭を撫でたら勘違いするからあまりするなよ」


「碧くんはわかってません。碧くんのバカ」


「ん? 何か言ったか?」


 声が小さすぎて聞こえなかったので聞き直したが彼女は、ムスッとした顔でカウンターテーブルに置いてあったコップを俺の目の前に置いた。



***



「いや〜なんとかなったわ。スライド1枚消えたときは焦ったけど」


 探求授業の発表が終わり、昼休みになると晃太は、弁当を持って俺の席に来た。


「消えたって一体何したんだよ」


「香奈とスライド作りやってたんだけどさ手が当たっていつの間にか消去になっててさ」


 ヘラヘラと笑うが発表前日にそれが起こったので正直危なかった。晃太は、徹夜で仕上げたらしく今日は朝から眠そうだ。


「そう言えば今日は香奈は、お昼別か?」


「んー、一緒に食べようとは言われたけど……先に食べとくか」


 机を3人分くっつけて俺と晃太は、先に食べることにした。


「にしても碧は凄いよな。その弁当、自分で作ったんだろ? 料理できるとかカッコいいじゃん」


「そうか? 自分でできたらいいなと思って始めただけだが……」


「いや、ほんと凄い。俺なんてさ───」

「おっ待たせ~!」


 晃太の言葉を遮り現れたのは香奈だった。そしてそのとなりにはなぜかお弁当を持っている瑞季がいた。


「一緒に食べようって誘ったらいいよって言われたから連れてきました!」


 香奈はそう言って瑞季が座れるようにもう1つイスを用意する。


「ご、ご一緒してもよろしいでしょうか?」


 瑞季は、俺と晃太に尋ねた。もちろん、嫌なわけないので2人は頷く。

 

 いつも瑞季と一緒に食べている女子や男子から少し視線を感じたが、4人で食べることになった。


「無理やり香奈に誘われてないよな?」


 コソッと瑞季に聞くと彼女は首を横に振る。


「いえ、私も香奈さん達と一緒にお昼したかったので無理やりではありませんよ」


 いつの間にか瑞季は、香奈を下の名前で呼んでおり、気付かないところで2人は仲良くなっているんだろうなと感じた。


 信頼できる人があまりいないと言っていたが香奈と仲良くやれているようで良かった。


「みっちゃん、今週の土曜日って空いてる?」


「空いてますけど……」


「ならショッピングモールに遊びに行かないしない?」


「もちろん、いいですよ」


「やったぁ~」


 良かったなと言いたいところだが、瑞季と遊びにいけるとわかった瞬間、香奈がニヤニヤしていたので何かありそうだなと思った。

 瑞季を香奈と二人っきりにしてもいいのだろうか。


「露崎を困らせるようなことするなよ」


 念のためそう言うと香奈はニヤニヤしながら俺のことを見てきた。


「え~なになに? みっちゃんのこと好きなの?」


「なぜそうなる。俺は、香奈が露崎に困らせるような何かをするんじゃないかと心配なんだ」


「……碧って隠すの下手だよねぇ~。大丈夫だよ、みっちゃんに困らせるようなことはなにもしないからさ」


 ほんとだろうなぁ……。俺と香奈の会話を静かに聞いていた晃太は、何かに気付いたのかなるほどと小さく呟いたが、それは俺の耳には届かなかった。



***



「碧~、みっちゃんの誕生日知ってる?」


 晃太と香奈の3人で帰っていると香奈が俺にそう尋ねた。


「いや、知らないけど……」


 なぜ俺に瑞季の誕生日を知っているのかと聞くのかわからない。もしかしてまだ俺が露崎のことが気になっていると思われているのだろうか。


「12月28日。だから来週だね。ってことでみっちゃんの誕生日会開こうよ」


「いいと思うけど露崎がそういうの苦手かもしれないから一応本人に聞いた方がいいんじゃないか?」


「そうだね。じゃ、碧、みっちゃんにメールで聞いておいてね。晃太、少しよりたいとこあるから付いてきてほしいな」


「わかった。また明日な碧」


 そう言って2人と別れたが、俺は、先程の香奈の発言が気になった。メールで聞く……? 俺、香奈に瑞季と連絡先交換したって言ってないよな?


 バッと振り返り香奈と晃太が歩いていった方を向くと香奈が後ろを振り返り俺に向かってニコニコと笑いながら手を振ってきた。


 まてまて、どういう意味の笑いなんだよ!?









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