第7話 添い寝でも何でもしますよ

「あと2枚……露崎、1回休憩しよう」


 パソコンに向かってスライド作りをしていたため首は痛いし、座っていて疲れた。


「そうですね。あっ、お茶持ってきます」


 そう言って露崎は、リビングからキッチンへ行ってしまう。


 それにしても広い家だな……。二人っきりってなったときはどうなるかと思ったが、来てから普通にスライド作りしてただけだったな。


 家に行くと露崎の母親がいたが、用事があるそうで挨拶した後すぐに家を出ていってしまった。そのためこの家には俺と露崎だけだ。


「熱いので気をつけてください」


 目の前のテーブルにコップを置かれ、俺は、ありがとうと礼を言う。


「今さら聞くことかと思うかもしれないが、露崎はいつも一緒にいる友達とはグループ組まなくて良かったのか?」


「大丈夫ですよ。いつも一緒にいる人達とグループを組む約束をしていたわけでもありませんし。私は、鴻上くんと一緒のグループで嬉しいです」


 また勘違いさせるようなことを……。こういう時、俺も嬉しいとか言うべきなんだろうか。


「ところで鴻上くん。何かしてほしいことありますか?」


「何か?」


「はい、昨日甘やかしてあげますと言いましたので……」


 あれ、冗談で言ったわけではなかったのか。何でも言われてさすがにダメだろと思うことを想像してしまった。


 すると迷っている俺に露崎は、とんでもないことを言う。


「添い寝でも何でもしますよ」


 そ、添い寝!? いやいや、一瞬いいなぁ~って思ってしまったが、普通にダメだろ。


「本当に何でもいいのか?」


「もちろん。ですが、ご飯を作ってほしいとかは無理です。料理は苦手ですから」


 意外だ。何でもできるかと思っていたが、料理はできないのか。


「……いつも通り甘えてほしい」


「えっと、それじゃあ、いつもと変わらないのでは?」


「それでいい。俺、露崎に甘えられるの嫌じゃないし」


 甘えられるのが好きなのかはわからないが、俺は甘えてくる彼女が好きだ。


「……で、では、膝枕して頭を撫でてほしいです」


 いつもより要求多い気がする。けどまぁ、それで彼女が喜ぶなら……。


「はい、どうぞ……」


 自分でも何をしているのかわからない。ソファに座り自分の膝をトントンと叩く。


「失礼します」


 ニコニコしながら彼女は俺の膝に頭を乗せ横になって寝転ぶ。そして俺は彼女の頭を撫で始めた。


「これでいいか?」


「はい、幸せです。寝てしまいそうですが……」


 ここからじゃ彼女の顔が見えないが、嬉しそうにしているのは声のトーンからしてわかる。


「寝てもいいぞ」


「それはやめておきます。寝ている間に……いえ、鴻上くんはそんなことはしない方ですね」


 信頼されているということだろうか。寝ている間に彼女に何かするような男じゃないと思われている。


「そう言えば露崎って───」

「瑞季」


「えっ?」


「私の下の名前は、瑞季ですよ、碧くん」


 急に下の名前で呼んでくるのはズルすぎる。完全に不意打ちだ。下の名前で呼んでほしいと彼女は遠回しに言う。


「名前を呼んでもいいが、2人でいる時だけな?」


「わかりました。碧くん」


 下の名前で呼べることがそんなに嬉しいのか彼女は名前を呼ぶ度嬉しそうにする。


「碧くんも呼んでみてください」


「今か?」


「はい、今です」


「わかった。瑞季」


「ふふっ、ありがとうございます」


 俺と彼女は学校でのことや趣味について話していた。この2人で話す時間は俺にとっては特別な時間で……このまま時が止まればいいなと思ってしまった。


「瑞季、寝るならここじゃなくてちゃんとしたところで寝たらどうだ?」


 眠くなってきてうとうとしてきた彼女に俺はそう言うが、瑞季は、寝ませんと言う。


「それはダメ……です。せっかく碧くんが来てくれたのでまだまだお話を……」


 起き上がりソファから立ち上がるかと思ったが、瑞季は、俺に抱きついてきた。


「み、瑞季さん。どうされました!?」


「碧くんといると安心します。碧くんも今日はいっぱい甘えてくださいね」


 そう言って瑞季から頭を撫でられた。スキンシップが最近多い気がする。これはやっぱり露崎は俺のことが……いやいや、俺なんか好きになるわけがない。


「俺に甘えるのは自由だが、あんまり誤解させるようなことをされると困る……」


「誤解ですか?」


「うん、瑞季が俺のことを好きなのかなって誤解する」


「……私は碧くんが好きですよ」


 だからそれがどういう意味の好きかずっと気になってるんですけど!?


「碧くんは、私のこと嫌いですか?」


 袖をぎゅっと持たれて上目遣いで聞いてくるのでドキッとしないわけがなかった。可愛すぎて直視できないし、真っ直ぐと見つめられ目をそれせない。


「嫌いじゃないよ」


 以前までの彼女はどちらかと言うと苦手だった。けど、彼女のことを知る度に好きへと変わっていった。


「それなら良かったです。たくさん甘えさせてもらったのでスライド作り、頑張れそうです」


「それは良かった」


 そう言ってまた反射的に彼女の頭を撫でてしまった。すると瑞季は、小さく笑った。


「ふふっ、碧くん、私の頭撫でるの好きですね」


「あっ、ごめん……」


「別に謝らなくても。私、碧くんに頭撫でられるの好きですよ」


 撫でられるのが好きなんて普通友達でも言わないよな? やっぱり露崎は、俺のことを……。









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