第6話 たくさん甘やかしますので覚悟してくださいね

 翌日、4人で探求授業での発表のためカフェに行くことになった。集合場所は、駅前。集合時間より少し早めに来てしまった。


「さすがに早すぎたか……」


 辺りを見渡して3人がいるか探していると聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「あ、あの……待ち合わせがあるので」


 あれは、露崎? 遠くからだが、すぐに気付いた。あの綺麗な髪にスラッとしたスタイル、間違いなく露崎だ。


 露崎は、20代ぐらいの男性2人に何やら絡まれており、困っている様子だった。


 ここは、助けてやらないと……。


「露崎、集合場所こっちだから」


 さっきの男性2人に睨まれたが、気にせず俺は、露崎の手を取り、場所を移動する。


 さっきの2人は、ついてきていないようでほっとした。


「大丈夫か?」


「はい、大丈夫です。助けていただきありがとうございます」


 手を握ったままなので離そうとすると今度は露崎が俺の手を握ってきた。


「2人が来る前に鴻上くんに甘えておきます。ダメですか?」


 そんな上目遣いされても困るんだけど……。可愛すぎるお願いに俺は弱い。


「ちょっとだけな」


「はい。では、その少しの時間を無駄にしないためにも」


 甘えると言うので頭を撫でてほしいのかと思ったが、彼女は、手を握ってきた。


「鴻上くんと手を繋いでいると何だか安心します。ずっと……繋いでいたいです」


 今のこの状況を他の人が見たら絶対に恋人だと思われる。それが別に嫌ではないが、露崎が俺に好意を持っているのではないかと思い始める。


 ここまでスキンシップをとってこられると好きなのかと勘違いする男子がほとんどだろう。


 一度聞いてみるべきなのか? 俺が好きなのかって……。いや、その聞き方だと好きじゃなかった時の俺のダメージがかなり大きい。


「つ、露崎……」


「どうかしましたか?」


「露崎って、俺のこと……どう思ってる?」


 何だか告白しているような気分になり妙に恥ずかしくなる。やばい、手に汗かいてないか心配だ……。

 

 繋いだ手に視線をやると彼女は俺のもう片方の手を取る握ってきた。


「鴻上くんは、私にとって大切な友達であり、大好きな人です」


「それはどういう意味で……?」


 困惑する俺に彼女は、小さく笑った。


「ふふっ、どういう意味でしょうね」


 えっ、なになに? 友達として? 異性として? これは、自分で考えろってことなのか?


 彼女に聞こうとしたが、そのタイミングで香奈が来た。その時には手は離れており、露崎は少し離れた距離にいた。


「2人ともおはよ。早い……って、碧どうしたの?」


 香奈は、俺のいつもと違う様子に気付き心配してくる。その様子を見て露崎は、クスッと笑った。


「ど、どうしたって何が?」


「動揺しまくってるけど……」


「動揺なんてしてない。そう言えば晃太は?」


「ん~わかんない。別々で行こうってなったし。メールで聞いて───」

「お待たせ、俺が最後か?」


「あっ、晃太。これでみんな揃ったね。じゃ、まずは私達が調べたカフェにレッツゴー」







***







「みっちゃん可愛い~」


 いつの間にかあだ名をつけられており、そして食べているだけなのに香奈は、露崎の食べているところをスマホで連写する。


「おい、露崎が困ってるからやめたれ。そして撮った写真は全部消去な?」


 ペシッと香奈の頭を叩き、彼女はスマホをテーブルに置いて頭をさする。


「痛いよ~碧~! 晃太、よしよしして~」


「碧、彼女に触るのは俺だけだからな?」


「なら、お前が香奈を注意してくれ。露崎、大丈夫か?」


 食べているところを撮られるなんて不快にしかならないはず。だが、彼女は笑って大丈夫ですと言う。


 つい頭を撫でそうになったが、我慢する。ダメだ、晃太と香奈がいる前でしてしまいそうになった。


「そこの2人にはちゃんと言っておくが、この店で食べて終わりじゃないからな? 帰ったらスライド作り忘れるなよ?」


「はーい、わかってまぁ~す!」


 元気な返事はいいが、ちゃんとやってくれるか心配だ。まぁ、晃太はこういうことはやってくれるタイプなので大丈夫かと思うが……。


「碧とみっちゃんが調べてくれた飲食店は、店の写真を撮るだけでいいの? 実際に食べに行った方がスライド作りやすいんじゃない?」


「大丈夫です。『hitode』というカフェは、よく行きますから、スライドは任せてください」


 任せる……無理しないといいが……。





***





『今日は、楽しかったですね』


「そ、そうだな……」


『鴻上くん?』


 夜、ビデオ通話で露崎と話すことになったのだが、彼女はお風呂上がりなのか髪が濡れていて、可愛らしい寝間着を着ていた。


 クラスメイト男子の皆さん、これを俺だけが一人占めしてもいいのでしょうか。


「えっと、何か言った?」


『いえ、何も言ってませんよ。ところで明日のお休み、私の家に来ませんか?』


「い、家!?」


『そんなに大きな声を出されると近所迷惑ですよ』


「そ、そうだな……」


『スライド作りを一緒にしたいと思いまして。あと鴻上くんのことを親に紹介したいので……』


 お、親に紹介!? 何それ、俺、結婚の申し出しにいくの? 俺に彼女をください的な。


 いや、一旦落ち着け……。露崎は、親に俺を友達として紹介するだけだ。


「家、いいのか?」


『いいですよ。親からの許可は既にとってます。お友達をお呼びしてもいいかと聞きましたので』


「わ、わかった……あ、明日だよな?」


『緊張されてます?』


「……いいや、してない」


『変な間がありましたけど』


「き、気のせいだ……」


 このやり取りを前にも一度した気がした。確かあの時とは逆だな。


『わかりました、気のせいということにしておきます。いつも私ばかりが甘えているので明日は私が鴻上くんをたくさん甘やかしますので覚悟してくださいね』


 そう言って通話はプツンと切れた。そして明日、何時に来てほしいとメッセージが来たが、今はそれを読んでいる場合ではない。


 待て待て待て! たくさん甘やかしますので覚悟していてくださいねって俺、明日何されるんですか!?



 



 

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