第5話 本当は、鴻上くんにぎゅっとくっつきたいです

「なぁ~碧。1限目の授業、4人グループ作っての探求授業らしいぞ」


 朝、教室に入り、席に着くと晃太がニヤニヤしながら話しかけてきた。


「へぇ~。で、それがどうかしたのか?」


「もちろん、俺と一緒のグループだよな?」


「まぁ、そうだな……」


 他に誘えるような仲いいクラスメイトはいないため晃太と必然的に同じグループになるだろう。


「あと2人なんだが、1人は香奈でもいいか?」


「聞かなくてもあいつは───」

「おっはよ~、ねぇねぇ1限目の授業、4人グループ作っての探求授業らしいからさ一緒に組もうよ!」


 教室に入ってすぐ俺と晃太のところに来たのは、香奈だった。


「もちろん。香奈、ちょっといいか?」


「ん? なになに? 晃太」


 晃太が何やら香奈に耳打ちしていた。内容は聞こえないが、嫌な予感がする。


「わぁ~、晃太、それいいね。私、来たらさっそく誘いに行くね」


 何がいいのかわからないが、香奈は立ち去っていく。すると、晃太から肩をポンッと叩かれた。


「探求授業、頑張ろうな」


「おい、その笑顔はなんだ。何かするつもりだろ?」


 晃太は、先ほどからずっとニヤニヤしているため香奈と何かしようとしていることはすぐにわかった。


「なにもないって。ただ頑張ろうなって言っただけじゃん」


「ほんとだろうな?」


 ここでうんと言えば安心できたが、晃太は何も言わずただ笑っているだけだった。




***




「晃太、やりやがったな」


「何がぁ~?」


 イラッとしたので誰も見えない机の下で晃太の足を蹴る。


「怒んなよ、碧くん」


「くん付けキモいからやめろ」


 俺と晃太のやり取りを見て笑う香奈に対して真正面に座る露崎は、心配そうな顔でこちらを見ていた。


「はいはい、2人ともケンカはそこまでだからね? 露崎さん困ってるから」


 両手を叩いて俺と晃太のやり取りを中断させたのは香奈だった。私はなにもしてませんみたいな顔をしているが香奈も晃太と同じで主犯者だ。後で呼びだそう。


「あの、私がここにいてもいいんですか?」


 俺と晃太、香奈の3人の仲良さそうなところを見て私だけが浮いているのではと思った露崎は、尋ねる。


「いいに決まってんじゃん。露崎さんと話してみたかったんだよねぇ~」


「私も小山さんとお話ししてみたかったです」


「きゃ~眩しい!」


 そう言うが、露崎はニコッと笑っただけだ。それだけで大げさなリアクションを取る香奈。


 俺は、表には出していないが、心の中では香奈と同じ反応。天使スマイル、ありがとうございますと。


「さてと、話すのはやりながらでいいからテーマ決めて役割分担しようぜ」


「そうだね。じゃ、碧、進行役お願いね?」


 なんで、俺なんだよ……。まぁ、晃太や香奈に任せるのは不安だしここは俺が何とかしよう。



***



 テーマは、自由らしくこの町にある店についていくつか調べることになった。探求授業は全部で4回。スライドを作って最後は発表をするらしい。


 進行役、リーダーみたいな役を引き受けた俺は、4人を2人、2人に分けて作業することになった。


「晃太、そっちで店決まったら教えてくれ」


「りょうかーい。香奈、どこにする?」


「えっとねぇ~」


 学校で借りたパソコンを使って、2人はこの地域にある店を調べる。


「露崎、俺達も調べるか」


「はい、そうですね」


 パソコンは1台。一緒に見るのが普通だが、露崎はいつものようにくっつきはせず距離を取っていた。


 まぁ、ここじゃ他の人もいるからいつものように寄って来にくいのはわかるが……。


「露崎、そんなに離れていたら画面見えないだろ?」


「そ、そうですけど……ここでは何というか近づいたら迷惑になるかと……」


 露崎は、少しでも近づくと男子から何か言われて俺が嫌な気持ちになるのではないかと心配していた。


「そうは言っても見えないと思うし……」


 そう言うと露崎は、俺にだけ聞こえる声量でボソッと呟いた。

 

「……本当は、鴻上くんにぎゅっとくっつきたいです」


 ぎゅ、ぎゅっと!? もし、ここが学校でなければ露崎がそれをやっていたかもしれない。


「なっ……そんなこと相手が友達としてもあんまり言っていいことじゃない」


「なぜですか? 本当のこと言っただけですけど……」

 

「俺の心臓がもたないからだ。もう、その距離でいいから俺達もどこにするか選ぼうか」


 ずっとコソコソと話しているといつか周りにいるクラスメイトから痛い視線が来そうなので俺はパソコンの画面に向かって座った。


 店を1件決めてその店について調べることにする。ネットだけではあまり発表できる内容にはならないので明日、学校のない休日に4人でそれぞれ選んだ店を2件行くことにした。


「楽しみだなぁ~。露崎さん、連絡先交換しようよ」


 放課後、明日のことを話し合っている際、香奈は露崎に連絡先交換を頼む。


「いいですよ」


「やったぁ~!」


 香奈は、スマホを取り出し露崎と連絡先を交換する。そのやり取りを見ていると晃太が俺にコソッと耳打ちしてきた。


「お前も連絡先交換してもらったら?」


「なんでだよ……」


 連絡先は、既に交換しているなんてことを言ってしまうと俺と露崎がどういう関係かを問い詰められそうだ。


「晃太、帰ろ〜。碧は、どうする?」


 露崎と連絡先を交換できて嬉しかったのか香奈は、ニコニコしながらこちらへ寄ってくる。


「帰り寄るところあるから今日は2人で帰ってくれ」


「わかった。碧、露崎さん、明日は朝10時に駅前集合だからね?」


 伝えたいことを伝え、香奈は、晃太と一緒に教室を出た。残った俺と露崎だが、この教室にはまだクラスメイトがいるためいつものように話せない。


 何も話さず彼女の側から離れようとしたその時、露崎が一歩近づいて話しかけてきた。俺は、反射的に一歩後ろに下がってしまった。


「明日、楽しみですね」


「そうだな……じゃあまた明日」


「えぇ、また明日」


 彼女は、明日会えることが嬉しいのか満面の笑みだった。


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