第3話 起きるまで膝枕してあげたら?
「お待たせ~、1階行ってケーキ買ってこようと……2人は付き合ってるの? それならそうと私に──」
2階に戻ってきた長谷部さんは、紅茶が入ったティーカップが乗ったトレーを両手に持って目の前の光景を見て尋ねてきた。
「付き合ってません! つ、露崎、起きてくれ、誤解を解くの手伝ってくれ!」
肩を優しく叩くが起きる様子はない。すると、長谷部さんは小さく笑った。
「瑞季ちゃん、一度寝たら中々起きないわよ?」
「ま、まじですか……?」
「うん、マジです。けど、鴻上くんが瑞季ちゃんにキスしたら起きるかも。きゃ~ロマンチック」
なんか、長谷部さん、1人で盛り上がってませんか? 彼氏でもない俺が寝ている女子にキスとかできるわけないじゃないですか。
あぁ~もう、長谷部さんがキスとかいうからめっちゃ露崎の唇見ちゃうんだが!?
「長谷部さん、キス以外に何か方法ないですか?」
「ん~ないね。起きるまで膝枕してあげたら? 彼氏さん」
ダメだこれ……彼氏じゃないんだけどなー。
「露崎とは友達です。謎に懐かれているだけで」
「ただの友達には見えないけどな。懐かれてるってことは瑞季ちゃんは鴻上くんのことを警戒していないってこと。鴻上くんは、瑞季ちゃんのことどう思ってるの?」
俺が露崎のことをどう思っているか……。
最初はどちらかというと苦手だった。人に好かれようと無理して笑ったり、周りの評価をあげようといつも優等生でいる彼女を。
けど────。
「露崎は、誰よりも努力家でいつも強がりなんですけど、本当はそこまで強くなくて……素の彼女を知れば知るほどなんか、放っておけない人だなって……」
学校ではいつもしっかりとして誰からの手も借りないみたいな雰囲気があって近づき難い。
けど、ここにいる彼女は学校の姿からは想像できない露崎がいる。
「好きとかそういうのはないの?」
「ありませんよ。俺は、露崎の側にいてやりたいだけで……」
「……そう言えば懐かれてる理由ってあるの?」
「懐かれてる理由は俺も知りたいです。俺と露崎がこうやって話すことが増えたのは3ヶ月前の放課後からなんですけど───」
─────3ヶ月前
「これ、お願いね」
「わかりました」
掃除で帰りが遅かったその日、職員室を通りかかると担任の先生から露崎に積み上がったプリントを渡していた。
とてもじゃないが、女の子1人で持つ量じゃない。声をかけずに立ち去るわけにもいかず俺は黙って露崎が持っているプリントを半分もらった。
「えっと、鴻上くん? 返してくれませんか?」
「これどこに持っていけばいいんだ?」
「聞いていましたか? 私はそれを返してくださいと───」
「そんなに人に頼りたくないか?」
そう尋ねると彼女は小さく頷いた。
彼女の学校での姿を見ていて思っていたが、彼女は、相手を信用しているように見えてあまり信用していない。
「頼ると好意を持ってくれたと勘違いする方がたまにいるんです。なので基本誰にも頼りません」
モテる彼女の悩みの1つか。以前頼ったら勘違いしてきた人がいたから頼ることをやめたのか。
「強がり」
「なっ、強がりではありません。1人でも持てます」
「俺は別に頼られても嬉しいと思うだけでもしかしたら俺に興味を持ってくれたなんて思わないけど。一度俺の言葉を信じて頼ってみないか?」
「頼ってみないかってなんですか? けど……こう誰も信じないのはよくありませんね。わかりました、このプリントを国語科準備室に持っていくの手伝ってください」
ちゃんと話したのはこれが始めてだった。それまで全く話さないクラスメイトだったが、それをきっかけに放課後や休日によく会うようになった。
「いつも先生にこき使われてんの?」
国語科準備室にプリントを置きにいった後、教室に戻ってカバンを取りに行く露崎に尋ねた。
「別にこき使われているわけではありません。私が好きで……やっていることなんで」
「変な間があったぞ」
「き、気のせいです……」
この時、初めて俺は素の彼女を知った気がした。もっも堅苦しい人だと思っていたが、話しているとそうでもなさそうだ。
「誰かのために頑張るのはいいがあまり無茶するなよ」
そう言ってなぜか俺は彼女の頭を撫でてしまった。
あっ、やってしまった。仲良くないのにさすがにこれはやったらダメだろ。
「も、もう少し撫でてくれませんか?」
「へっ?」
「が、頑張ったご褒美をください」
露崎さん!? 何をおっしゃってるか自分でわかってます? 俺、あなたの彼氏でもなんでもないんですけど……。
「知らない人に頭を撫でてもらうのはダメかと」
「知らない人ではありません。鴻上くんは、クラスメイトです。それにさっき許可なく撫でましたよね?」
「うっ、それは……」
「もう一度撫でてくれないとクラスの皆さんに鴻上くんが許可なく頭を撫でてきましたと言います」
なんか、脅されたんだけど……。露崎の頭を撫でたなんて言ったら明日から学校に行ける気がしない。
「わかった。これでいいか?」
「はい、これでいいです……」
「……今日もお疲れ様。頑張ったな」
もう一度頭を優しく撫でると彼女は嬉しそうに笑った。露崎ってこんな風に笑うんだな。学校ではなんか誰かに合わせて笑ってる感じするし。
露崎と話すのも今日だけ。明日からまた彼女とは関わりもなく過ごしていく。そう思っていた。
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