第2話 「露崎、起きてくれ」 「んん……まだぁ~」
「無理って言ったら?」
彼女の反応見たさに俺は意地悪っぽく言ってみると露崎はムスッと頬を膨らませ、背中を向けた。
「無理なら帰ります。今日は、先生から頼まれたことを1人で頑張りました」
今日あった出来事を話し出す彼女の話を聞いてそれは大変だったなと俺は呟く。
「で、それがどうかしたのか?」
「どこまで意地悪なんですか? 私は……鴻上くんに───」
「はいはい、わかったよ」
少しやり過ぎたと反省し、彼女の言葉を遮って俺は彼女の頭を優しく撫でた。
すると、露崎は頬を赤らめて嬉しそうにする。なんだか露崎が小動物に見えてきた……。
「で、場所変えるって一体どこに行くんだ?」
今朝、露崎から『放課後、いつもの場所で待っていてほしい』と言われてここに来たが、何をするかは聞いていない。
「ここから少し歩いたところにあるカフェです」
「カフェ……いや、露崎とカフェに行ってるところ他の奴に見られたら俺、明日から学校来れないんだけど」
俺と露崎が一緒にいるところを見たなんてクラスメイトの人に見られたりしたら間違いなく俺は周りから付き合っているのかと疑われたり、露崎のことが好きな男子からは間違いなく睨まれる。
「えぇ、そういう心配を鴻上くんがされることはわかってます。安心してください、今から行くカフェは誰かに見られるなんてことはありませんから」
誰かに見られることなんてないカフェ?
「ここに行ってください。私は少し遅れて行きますから」
そう言って彼女は、店の名前が書かれた小さな紙を俺に手渡す。
「変なところじゃないよな?」
「普通のカフェですよ。私、よく行ってますし」
「……わかった。じゃあ、また後で」
「はい、また後で会いましょう」
露崎と別れて紙に書かれたカフェの名前を見た。『hitode』というカフェらしいが、俺は場所がわからないのでスマホで調べてそこまで行くことにした。
***
辿り着いた場所は、露崎が言っていた通り外観を見る限り普通のカフェだ。中に入るとほぼ満席でたくさんの人で賑わっていた。
先に入ってしまったが、それで良かったのだろうか。店の外で待つべきかと思ったが、外は寒くとてもじゃないが、待てない。
冬が近づいてきてここ最近はずっと寒い。露崎に念のため『先に入って待ってる』とメッセージを送っておいた。
向かい合わせになっている席に案内され、メニュー表を見て露崎が来るのを待つ。
数分後、後ろから肩をツンツンとつつかれ、後ろを振り返るとそこには露崎がいた。
「なぜ座ってメニュー表を見てるんですか?」
「えっ、ダメなのか?」
「ダメです。食べたいならまた別の日にここに来てください。ほら、行きますよ」
そう言って彼女は、店を出る。
もしかして場所間違えたのだろうか。俺は、メニュー表を店員さんに返し、店を出ると外で露崎は待っていた。
「ここ2階もあるんですよ」
露崎は俺にそう言ってカフェの入り口横にある階段を登っていくので俺はその後をついていく。
「光さん、いますか?」
2階にあがり、露崎は誰かの名前を呼ぶ。するとカウンターから若い女性が出てきた。
「あら、瑞季ちゃんじゃないの。で、隣にいる人はもしかして瑞季ちゃんが言ってた子?」
「そうです。今日はすみません、急にここを借りたいなんて言って……」
「別にいいのよ。水曜日はここ使わないし、使っちゃって。あっ、自己紹した方がいいわよね? 私は、瑞季ちゃんとは親戚で長谷部光っていいます」
長谷部さんはそう言って俺に自己紹介してもらったので俺も自己紹介しておく。
「露崎さんのクラスメイトで鴻上碧です」
「鴻上くんね、君のことはよく瑞季ちゃんから聞いて────」
「光さん、その話は今、必要あります?」
まだ話し終えていないが、露崎はニコニコしながら長谷部さんの話を遮った。
露崎の謎の圧に負けたのか長谷部さんは「必要ないでーす」と言う。
「鴻上くん、ここに座りましょうか」
2階も1階と同じような雰囲気で2人がけの大きなソファとテーブルがいくつかある。露崎はソファに座って手招きしてきたので向かい合わせに座ることにする。
「2人分の温かい紅茶入れてくるわね」
「ありがとうございます、光さん」
「あ、ありがとうございます」
長谷部さんは1階へ下りていき、ここには俺と露崎の2人だけになる。
「長谷部さんはここで働いている人?」
「えぇ、ここのオーナーですよ。それより鴻上くん、ここなら周りを気にせずお話しできますね!」
「まぁ、そうだな。そう言えば、先週、香奈が俺と露崎がいるところを見たって……。まぁ、俺とは気付いてないみたいだけど」
「香奈というのは小山さんですね。すみません、私の買い物に付き合わせてしまったせいで……」
露崎が悪いこと1つもないが、彼女は迷惑をかけたのではないかと思い、謝る。
「謝らなくても……。香奈にバレても友達と買い物に行ってたって言えばいい話しだし」
香奈は口を滑らせるタイプでも他の人に言いふらすタイプでもないのでもしこの露崎との謎の関係が知られても大丈夫なはずだ。
「友達……。鴻上くん、隣に行ってもいいですか?」
「えっ、なんで?」
「対面だと寂しいので」
「いいけど……。そう言えば長谷部さん、紅茶入れてくるって言ってから中々帰って──ちょっと近くない?」
隣に座るのがいいが、距離がとても近い。肩にもたれかかってきちゃってるし。付き合っている彼女ならいいが、これは友達の距離じゃない。
「鴻上くんの近くにいると落ち着くんです。今日は少し疲れました。しばらくこのままでいさせてください」
「……わかった」
長谷部さんが戻ってくるまでならいいだろうと思い、肩を貸した。すると暫くして彼女は寝息を立てて寝始めてしまった。
「相当疲れていたんだな」
そう呟いて無意識に彼女の頭を撫でてしまった。ダメだ、彼女が撫でたら喜ぶことを知ってしまってから普通にやってしまう。
「露崎、起きろ。そろそろ長谷部さん戻ってくるだろうから」
今のこの状況を長谷部さんに見られたら誤解される。体を揺さぶるが、起きる様子はない。
「露崎、起きてくれ」
「んん……まだぁ~」
まだじゃない! 可愛いけど! 寝るなら家に帰ってから寝てくれ。
早く起こさないとと思っていると階段の方から誰かが上がってくる音がした。そのタイミングで露崎は俺の膝に頭を乗せて寝だした。
「露崎、早く───って、さらに誤解されるような感じになったんだが!?」
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