40話
『先日の動画が話題になっていますが、どのような意図で動画を撮られたのでしょうか?』
『そうですね。勇者くんとして何か形になるものを今世に残しておきたいっていう思いは昔からあったんですよ。それがたまたま動画だった、それぐらいの感じですかね』
『なるほど。剣賀さんの他にも、四人の方が出演されていましけど、あの方々とはどういった関係性ですか? 今回の件をうけて、ネットでは一緒にいる写真が多く出回っていましたが』
『ただのクラスメイトですね。勇者が好きっていう共通点があったので、仲良くなったんです。動画に協力してくれたのは、あの四人が各々好きな勇者を演じてみたいって言っていたからです。まぁ、なりきりタイプのレイヤーみたいな感じですよ』
「我ながら見事な受け答えだな」
俺はテレビをを見ながらチュロスを頬張る。今、テレビに映っているのは俺のインタビュー映像である。先日、家にテレビクルーが来て自宅で撮影が行われた。
なぜ、こんなことになったのか。
それは全校集会の日に遡る──
あの日、サーレムを撃退した俺たちは意を決して体育館に向かった。中に入ると、電気はすでに復旧し映像も消えていた。そのまま俺たち五人は体育館中の視線を集め、言葉に詰まっていると、全生徒による謎のスタンディングオベーションが起きた。
『あのCG、本物みたいだったな!』
『どうやって撮影したの? ドローン?』
『すげー! めっちゃ面白かった!』
『この映画ってライブ配信? プロジェクションマッピングでも使ったのか!』
『皆、めっちゃ可愛かったー! あ、もちろん剣賀は除いて』
モンスターと戦っていた映像を見て、ありがたいことにどうやら俺たちが撮った映画だと思い込んだらしいのだ。
その場で盾石が本当の事を言おうとするのを制して、俺は機転を利かせてこう言った。
『お、俺達は……ABILITIES! この映像は俺たちのチャンネル用に撮ったものだ! 記念すべき初回に、全校集会をジャックさせてもらった!』
その全て計算通りであるかの様な俺の台詞に、大歓声が沸き起こり、体育館内の興奮はしばらく冷めやらなかった。
ゴブリーダーの誤算は二つあった。
一つ目はメディアリテラシー。
モンスターと戦う人間の映像を見て、現代人がまず初めに考える事は「映画」だ。
それが学校の同級生であっても、現実の出来事と考える可能性の方が圧倒的に低い。
BGMや字幕を入れたのも逆効果だったようだ。
ドニカナル王国の文明レベルは分からないが、現代の発達した科学文明ではモンスターや勇者の力は直接目の前で見たりしない限り、存在の証明は不可能だ。
二つ目がコンプライアンス。
この映像は結果として、全世界に広まることはなかった。ゴブリーダーが動画配信サイトにアップロードした数分後に、動画は削除されアカウントが凍結したらしいのだ。大手動画配信サイトでは利用者が多い分、宣伝効果はあるが、その分規制もある。俺の全裸が映っていた動画は当然アウトだった。だが、その数分の間に視聴した人と、学校の生徒たちによって、動画の内容は瞬く間にSNSで拡散され、すぐにニュースになった。
それが先日のテレビインタビューに繋がったのだが、実はそれだけではない。
『それでは、今回のインタビューのメインテーマに触れていきたと思います』
『どうぞ』
『剣が抜けた今の率直な気持ちをお伺いしてもよろしいでしょうか?』
『実感が湧かないっていうのが、今の正直な気持ちですね。やっぱり剣を持っている生活が当たり前だったので、それがないっていうのは未だに信じられないです』
『剣を持っての生活というのは大変だったと思われますが、嬉しい気持ちもあるんじゃないですか?』
『いえ、嬉しいとかは特にないですね』
俺はリモコンの電源ボタンを押してテレビを切った。
大嘘だ。嬉しくないわけがない。
テレビカメラを向けられていたので、ああ言ったが本当は叫び出したいくらい嬉しい。
その証拠に、俺は剣が抜けた右手を見るたびに綻んでしまう。
そう、俺の右手にはもう剣が握られていない。
体育館の盛り上がりがピークに達した時、俺の剣が何の前触れもなく床に落ちたのだ。
その瞬間、シュールな静寂が体育館を包み込み、そのまま俺たちは先生に連れて行かれた。
俺たちは魔王と戦っていない。しかし、剣が抜けたということは魔王が倒されたということだろう。異世界にいる冒険者的な人、裏切り者のモンスター、誰に倒されたのかは分からない。
真相を知る術はないので、あくまで憶測だ。
ソファに立てかけられている剣を見るが、特に変わった様子もない。
「……さて、反省文書くか」
リビングを出て、自分の部屋に入る。平日の昼にワイドショーを見ていた理由、それは俺が一週間の自宅謹慎処分を受けていたからだ。それと、数十枚の反省文。
ここ最近の騒動は全て俺が動画を撮るために取った行動とみなされてしまった。
学校を命懸けで守った俺に対して、この処遇? ふざけんな!
と、少しでも思っていたなら、俺はこの反省文をビリビリに破いていただろう。
だが、そんな感情は一ミリもない。なぜなら、サーレムを召喚したのは俺だからだ。
サーレムを倒した直後に、麻帆が教えてくれた。魔法陣は消えておらず、むしろ校庭を覆うほど大きくなっていて気付けなかったのだと。ブラデビルと召喚のタイミングが違った理由が、そこでハッキリとした。俺は剣で魔法陣を消すどころか、魔力を注ぎ込んで大きくしてしまっていたのだ。一夜の内に徐々に大きくなった魔法陣は、サーレムを召喚出来るほどの大きさになり、結果として時間差でサーレムが召喚されたのだろう。
つまり、俺は反省文を真剣に書かなけれないけないのだ。
『この度は自らの身勝手で独断的な行動により、学校生活を脅かしてしまい申し訳ありませんでした』
書き出しはこれでいこう。
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