34話
始発で家に帰り速攻でシャワーを浴びた後、大急ぎで学校へ舞い戻ってシャワーの意味を無に帰した俺は、朝礼前の喧騒の中で机に突っ伏していた。
「おはよー!」
麻帆の声が後ろから聞こえた。机に突っ伏したまま、顔を上げずに話す。
「麻帆……。お前に一つお願いがある」
「何ー?」
「校庭を見てくれないか。魔法陣があるかどうか確認して欲しい……」
「え? うーんと……あれ? 魔法陣ないよ?」
「──なに! 本当か!」
飛び起きた勢いで後ろに振り向き、麻帆の小さな手を左手でしっかりと握り締めて問い質す。
その返答には即効性の栄養ドリンクの数倍の効力があった。
「どうしたの? 珍しいね、剛がそんなに笑ってるなんて……」
自分では気付かなかったが、喜色満面にあふれていたらしい。麻帆が少し気圧されている。
「これでしばらくの間、学校生活を守れるからな」
「そうなんだ! なら、良かったね!」
……ん?
咄嗟に出た自分の言葉に数秒遅れて違和感を持つ。
ゴブリンとナメクジさえ倒せば、この世界に残存するモンスターはいなくなる。
つまり、授業中や放課後に襲われる心配はとりあえずしなくて済むということだ。
だが、まだ魔王に関する手掛かりは何一つとしてない。
……なのに何で俺はこんなに喜んでいるんだ?
「おはよ〜」
「あ! マニルおはよー!」
「……どうして剛は麻帆の手を握ってるの?」
あ。
「いや、なんでもない! ちょ、ちょっと喜びを共有していただけだ」
急いで麻帆から手を離す俺。
「ふ〜ん?」
キスする三秒前くらいの位置に、マニルの顔がくる。
悪い気はしないが、他の男子生徒の手前、煙たがる感じを装う。
「な、なんだよ」
「別に〜」
「ねぇ、今日ジャムはー?」
「ジャムは今日欠席〜。いくら起こしても起きなかったから、家でまだ寝てると思う。成長期なのかな?」
寝る子は育つと言うが、十五年生きていても、ジャムは手乗りサイズだ。
「良かった! 間に合いました……」
射奈が息を切らして入って来て、俺の左の座席に着く。
「おはよー! 射奈、どうしたのー?」
「この前、剛くんに切られたシャツをずっと縫ってたんです……。それで家出るのが遅くなってしまいました……」
俺も入学式の日に、ミシンで制服を縫ったから気持ちは十分に分かる。
土日に縫えただろ、と言いたかったが、当然俺にそんなことを指摘する資格はない。
「悪かった。もう二度とお前のシャツを斬ったりはしない」
「は、はい。そうしてもらえると助かります……」
「皆さん、おはようございます! 今日も絶好の戦い日和ですね!」
俺とは違って疲れなど微塵も感じさせない盾石が、射奈に続いて颯爽と教室に入って来て、前の座席に座った。
「そんな日和なら、俺は曇天雨模様の方がいいけどな」
朝礼が終わり、体育館に移動して全校集会が始まった。
普通は名前順に前から並びその場に座るが、俺は右手の剣が場所を取るため、一番後ろに座っている。
ちなみに俺の前に座っているのは「ゆ」で始まる射奈だ。
始まった校長の話は、学校での生活態度、窓ガラスや扉の件など身に覚えのある話ばかりではあったが、俺は眠気に誘われそのまま意識を失ってしまった。
『そうか、ワシはどうやら二つのミスを犯していたようじゃの。まぁ、よいか。魔王の気が外界に向いていれば、王国は平和そのものじゃ。終わりよければ全てよしというのは、どの世界も共通じゃな』
なんだ、このつまらない夢……。
白いアゴ髭を貯えた老人が、ハンモックに揺られながら口笛を吹いていた。
そのまま老人が眠ったところで、俺は目が覚めた。
寝ている時まで、魔王のことを考えているのかよ……。深層心理というものは恐ろしいな。
にしても、さっきから何だか周りが騒がしい。
「……暗い?」
顔を上げ、寝惚け眼で周囲を見渡すと、完全な暗闇になっていた。
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